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小説「フォワイエ・ポウ」7章(第44回)

2006-07-27 14:14:10 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
<添付画像>:(from website of Sir. Sean connery): "Welcome to Micheline's Online Gallery."

 画像は「ショーンコネリー卿」ホームページより。(エセ男爵ブログのBookmark登録済み)
 ミシェリン夫人ギャラリーより転載。(尚、自称?コネリー卿ファンクラブの末席に位置する不肖エセ男爵の引用は、認可されています。いや、ウエブサイトにアクセスされた方、全員OKなのです・・・)

* 前回投稿「第43回掲載小説フォワイエ・ポウ」ご参照は、こちらから入れます。

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7章(7章、最終回・・)
                            著:ジョージ・青木

2(けじめ)-(2)-(4)

「マスター、ちょっとお聞きしたい事があるのです。教えていただけますか?これ、寺元マスターも気にしていたことです。それでズバリ、今、奥さまとは別居中でしょう?」
「そう、もう3年になる。だから、自宅は、もぬけのからだ。そう、このところ2週間に一度帰ってます。今は事務所に寝泊りしているから便利がいい・・・」
「あの、いいですか?もうひとつ聞かせてください。本田さんは、今、付き合っている女性、いらっしゃるの?いないの?」
「いませんよ!」
「・・・」
木村栄は、一瞬であるが沈黙した。が、すぐに、
「あの、今まで浮気した事ありますか?ありますよね。野暮ですね。こんな質問するの・・・」
「浮気した事あるかどうか?さかえさんらしくもない質問だな。なんとなんと、あまり歓迎できる質問じゃないよなあ~」
「ハイ、私、今日はしっかり酔っ払ってます。ワイン飲んじゃったから、さらにさらに酔っ払っています。だからこんな質問できるのです。それで・・・」
「いや、今まで女遊びしていない。といえば、まったく嘘になる。それはね、自分だって男ですから、世界中あちこち。すてきな女がごろごろ転がっているくらいわかっていますよ。知っていますよ。回答はさ、遊んでないといえば嘘になる。というのが答えでしょう」
「わかりました。もうひとつ。答えてください」
「はい、答えましょう」
「フォワイエ・ポウをはじめてから今日まで、そのあたりは、どうなんですか?」
「何、遊んでいるかどうか?ということ?」
本田は確認した。
「そう、そうです・・・」
木村栄は、なぜか、うつむいた。
「さかえさん、はっきりいって『遊んでいない』と、答えましょう。嘘偽りのない、私自身の回答です」
「・・・」
口は回っているものの視線を外したままの木村栄は、うつむいたままグラスを見つめている。

「なんだか疲れたな。さかえさんも今夜は少し酔っ払いすぎている。なんだって、さかえさんの実家は、たしか西区だよね。今日は自分も久しぶりに家に帰ってみよう。方向同じだから、今からさかえさんを送っていこう。その足で、私も帰るから・・・」
本田は電話を回し、いつものタクシー会社を呼んだ。タクシーは5分前後で到着した。直ちに店を閉め、2人はタクシーに乗った。
本田は、もう一度考えた。
(今から、さかえさんを送っていく。ほんとうに、それでいいのか?)
(なぜ、今日に限って、さかえさんは3度もフォワイエ・ポウに足運んで来たのだろうか?その本当の意味は、いったい何なのだろう・・・)
幾つかのシナリオを想定した。が、考えた末の複数のシナリオに描かれたいくつかの行動。そのいずれの実行も、しない。と、本田は決めた。

僅かに明るくなった朝の市内の道路は、空きに空いていた。さすがに夜明け前である。通常30分以上かかるけれども、西区の木村栄の自宅まで僅か10分で到着。そのまま同じタクシーで本田の自宅まで、さらに20分少々。久しぶりに自宅に帰った本田は、冷蔵庫を開き、あらためて飲みなおした。

10日間以上も開かなかった冷蔵庫から、冷たい缶ビールを取り出した。
賞味期限の過ぎる一歩手前のチーズを切り分けかじりながら、350ミリリットルの缶ビールをぐいぐい空ける。すぐその後にシャワーを浴びる。暖まった体から、疲労感が発散し始めると、急に睡魔が襲ってきた。
毛布を取り出し、ソファーに横になった。
目が覚めたのは、午後1時半であった。
(さかえさんを真面目に送っておいて、よかった・・・)
2日酔いではなかった。
が、木村栄を中心にした昨夜の時間経過を思い出す。まだアルコール分が残っているような、直ぐには分析できない味の不鮮明な、中途半端なほろ苦い気分であった。

<第7章、終わり / 8章に続く>

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小説「フォワイエ・ポウ」7章(第43回) さかえさんの目的達成は途中放棄?挫折か?・・

2006-07-12 23:30:25 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
<添付画像>:旧「オーベルジュブランシュ富士」の誇るフレンチレストラン入り口手前右手の「ウエイティングバーカウンター」。開業前、夕刻、オーベルジュフランシュのメインゲート、ロビー方向から撮影する。(撮影年月:2004年晩秋)

 BAR「フォワイエ・ポウ」を巡る人間アラカルトの描写、いよいよ核心に迫っていきます。
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* 前号「フォワイエ・ポウ・第42回」掲載は、こちらからご参照できます。

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「長編連載小説フォワイエ・ポウ」7章
                            著:ジョージ・青木

2(けじめ)-(1~2) ~(3)a

そんな時、木村栄が顔を出した。

今までに本田が会ったことのない、別の飲み屋の女性との2人ずれであった。バイト生の石井君がスマートに対応し、木村栄のキープボトルから水割りを作った。
あまりにも小笠原の怒鳴る声が大きく、まして小笠原の席の横に座っている本田に気を使っていた。
その後トイレにたった木村栄に、本田は話しかけた。
「さかえさん、ごめんなさい。もう少し待ってくれないかな。もうすぐ帰るから、彼が帰ったら話し聞こう。それまで待ってほしいが、大丈夫かな・・・」
木村栄はさすがに疲れていた。本田の目には、彼女がかなり酔っ払っているようにも伺えた。
「本田さん、まだしばらく、店開いてますよね。今何時かな?」
時計は11時45分を指している。
「いちど私、帰ってきます。連れの女性もいますから、一緒に引き上げます。そして、あらためて一人で出てきます。そう、一時までには出て来れますから、いいですか?」
「私はかまわないよ。そうだ、さかえさん。それがいい。一度帰ってらっしゃい。そのほうがゆっくりできる・・・」
水割りを一杯注文し、それを空けた木村栄は、小笠原たちの気付かぬまま、静かに店を出た。

めったに遅くまで店にとどまらない今夜の小笠原は、ウーロン茶のおかわりの連続。お茶のがぶ飲みでがんばっていたが、夜中の12時になるとさすが疲れたと見え、ようやく引き上げた。


(2)

閉店時間の午前1時になっても、木村栄はフォワイエ・ポウに現れなかった。
バイト生の石井君は、午前1時ちょうどに引き上げたので、本田は独りになった。
(そろそろ店仕舞いしよう。洗い物の済ませるには30分はかかるだろう。それで若し、手仕舞いの作業が終わっても、さかえさんが来なければ、もう店を閉めて帰ろう・・・)などと、本田はこの時間になって木村栄が店に現われると期待もしなく、長く待つ気もなかった。
そんなときである。
「失礼します・・・」
ドアの開く音と共に、なぜか、いつになく極めて淑やかでおとなしい声が聞こえた。木村栄の声に間違いなかった。店のドアが開き、ジーンズ姿の木村栄が入ってきた。
「遅くなってすみません・・・」
「あ~ やはり戻ってきたのだ。よかったよかった。必ずさかえさんが戻って来ると思って、今まで待っていました・・・」
木村栄の姿を見て、本田は喜んだ。
「いや、一度家に帰るとなんだか急に疲れが出ちゃって30分ばかり、うたた寝しちゃった。慌ててタクシーを呼んで、それでこの時間になりました、ほんとうにごめんなさい・・・」
木村栄の言い訳に対し、本田は何も答えず穏やかに微笑みながら彼女のセリフを聞きいていたのであるが、あらためて彼女の姿を確認した本田は、ある約束を思い出した。
「そう、思い出した!ところで、さかえさん、おなかすいていませんか?」
「・・・」
彼女の大きな目は点となり、その瞬間ますます大きく目を見開きながらも、本田の突然の質問に彼女からの答えができない。
「そう、私の質問した意味を説明しましょう。今から、この時間から、『ニース風・ハムのワイン蒸し焼き』を作ろうと思いますが、召し上がりますか?」
一旦自宅に帰り、すでにうたた寝をしてしまった木村栄の胃袋は、すでに眠っていた。すでに空腹を感じなくなっていた。
しかし木村栄は、あえて・・・
「はい、しっかり。おなか空いています。本田さんの『噂の料理』、是非頂きます。作ってください」
「ウム、わかった・・・」
実のところ、すでに疲れていた本田は今から調理をするのは面倒だった。まさか木村栄から(食べたい!作って欲しい!)などとリクエストが入るとも想定していなかった。すでに下ごしらえは済んでいたから、残る作業は仕上げだけ、である。本田は真夜中過ぎた時間になってからは、油を使い火を通す作業は、あまりしたくなかっただけである。
しぶしぶ本田は作業を開始した。が、決して態度には表さなかった。
(さかえさんとの約束を果たさなければ、自分自身の男がすたる。このメニューを仕上げるのに5分とかからない。こうなったのも成行だ。油煙を被るのも木村栄に対するリップサービスのツケが回っただけだ。リップサービスもいい加減にして、今後、口を慎まなければいかんな・・・)
とか何とか、ばかばかしい自問自答を自分の頭の内部で繰り返しながら、本田はフライパンを振っている。
このあいだ約3~4分間。なぜか2人とも無言である。もちろん本田は、相手と話しながら調理する姿勢を忌み嫌った。彼にとって「調理中」は真剣勝負である。
本田の作業は一段落し、盛り付けをはじめた頃、言葉を発したのは、木村栄だった。
「本田マスター、足が長いですね」
「後ろ姿、とてもすてき、ほんとうにきれいです・・・」
調理を始めた時間から数分の間、カウンターの中で動いている本田の背中から足元に至るまで、本田の後ろ姿の全体を、木村栄はしっかりと観察していた。
「・・・」
さすがに本田も、これには返す言葉が見当たらなかった。が、あえて返事しなければならないと思い、そして答えた。
「いや、さかえさん、そんなことない。自分の足の長さは普通の長さだよ。強いて言えば、ズボンの履き方が上手なだけだよ。ズボンを履く時はさ、それなりの要領があるのだ。まず、きちっと腰元の骨盤の上の位置と、両横のベルトの位置を合わせる。そして、幾分ズボンの前を、下げる。間違ってもズボンの前を、釣上げてはいけない。足を長く見せようとして、釣上げてズボンを履くと、ますい、みっともない。だからズボンはきちっと下げすぎもせず、上げすぎもせず、きちんと自分の決めた骨盤の定位置を定めて、その位置で履く。位置を決めたら、その位置をかえない。そして幾分ズボンの前の位置を後ろの位置より低くする。そうすれば、後ろから見たとき、ズボンのラインがきれいに出る。まして、お尻にズボンの股上が食い込んだりはしない。それで良い。たったそれだけですよ、ズボンの履き方で、気を付けなければならないことはね。だからさかえさんが勘違いしただけさ・・・」
とっさの思い付きの理屈を、急遽頭の中で組み立ててセリフに書き換え、本田は一気にしゃべった。
答えを出さなくても構わないと思われるこの木村栄の発言に対して、本田はしっかりと答えた。つまり、無言では、まずい、よくない、このまま黙って聞いていては、答えを出さずに放っておいては、まずいことになる。答えなければならない木村栄の発言の重さを感じた今夜の本田は、いつもと違った雰囲気の真っ只中にいた。
「でも、マスターの足は短くない。日本人の標準よりはかなり長いですよ・・・」
「私より足の長い男は、この世の中にゴマンといる!でもね、スーツの着こなしには長年気を使って苦労してきましたよ」
「そう、本田さんのスーツ姿、本当にステキなのです。サンチョパンザで最初にお見受けしたときから、いつもステキなスーツを着ていらした。やっぱ、男性の背広も、着こなしなのよねえ~」
以前から、木村栄は本田の立ち居振る舞いのスマートさに関心をしめしていた。
「そういう意味では経験豊富?というか、年期が入っている。わずか、それだけのことで、人生世渡りのうまい下手とは何のかかわりも無い事さ・・・」
と、微笑みながら本田は、ようやくここに至ってさりげなく木村栄と視線を合わせた。
本田と視線を合わせることの少ない木村栄にとって、気恥ずかしくもあった。しかし大胆に本田と視線を合わせた。本田と視線を合わす彼女の眼は紛れもなく、大人の女が男に信号を送る目であったけれど、本田はその信号を完全に見落としていた。
スーツに関していえば、中にはすでに着潰して捨てたもの、今でも着れるもの、様々数々のスーツを持っていたがこの商売を始めてからというのも、スーツを着なければならぬ機会は極端に減った。この年齢になるまでの本田は、毎年2~3着、仕立てのスーツを新調しているほどに、身だしなみには大いにこだわっていた。本田の概念として、彼にとってスーツとは、戦国武将の鎧兜と同じか。すなわち、彼自身の戦場に赴くための必須な道具、甲冑にも等しい存在であった。毎年毎年、これも長年にわたって、シーズン変化と共に、スーツを着替え、気分を変えながら仕事に専念した。スーツは商売道具の一部であると心得ていた。こだわっていたのは入社2年目くらいまで。それ以降の本田は、こだわりが常識に変わり、身のこなし、立ち居振る舞いの中に溶け込んでしまっていた。今までに、多くのサラリーマンや会社経営者自営業者を観察し続け、すでに男を観察する目の肥えていた木村栄には、本田の持つ特性が際立って目に写っていた。

『ハム料理』の調理が終了した。
視線を合わさずに、視線はさらに盛り付けられた料理に向けたまま、
「はい、お待たせしました」
出来上がった料理を、カウンターの彼女の前に置き、ワイングラスを取り出し、あらためてよく冷えた白ワインを注ぎ、ようやく全ての作業が終了した。
「さあ、どうぞ!『ニース風ハムのワイン蒸し焼き』です。ごゆっくり、召し上がれ・・・」
木村栄の座っているカウンターの正面に、スマートに盛り付けられた『ハム料理』の一品料理を差し出しながら、ようやく本田は木村栄にあらためて声をかけた。
「うわ~、すてきです」
「わたしが想像していたより、もっともっとすてきな料理なんだ。蒸し焼きされたハム。なんとも美味しそうな香りが漂ってくる。キャロットにグリーンアスパラがソテーされているし・・・」
「なになに?」
「スパゲッティーサラダもくっ付いている。真ん中からカットされたプチトマトの色もきれい!」
カウンタの中の本田は、いつものように微笑みながら彼女に声をかける。
「さかえさま、褒めのお言葉を頂き、たいへんありがとうございます・・・」
「このお皿もすてきだし、それよりもなによりも、料理の素材の組み合わせと盛り付けが、すてきです」
「ありがとうございます。どうぞ、まず一口、召し上がってみてください!」
ようやく木村栄はナイフとフォークを持ち、一口分の大きさにハムを切り分け、口に運んだ。
「・・・」
「いかがですか?」
「本田さん、私の会話、ちょっと待って下さい・・・」
彼女は、ハムを二回ほど切り分け、2回ほど口に運び、手元の白ワインを口にした後、ようやく話し始めた。
「ほんとうに、おいしい!」
「そう、よかった。ありがとうございます、さかえさま・・・」
「もう冗談よしてください、さかえ!と、呼び捨てにして下さって良いのですから、もう、そんな丁寧言葉の冗談は止めてください」
「さかえさまの貴婦人としての口先だけの『お取り扱い』?一旦中断しましょう。ね、そうしましょう!さかえさん・・・」
その実、木村栄は、本田の今日のこの冗談の始まりのタイミングと、切り口のセンスに、おおいに感動し素直に喜んでいたていた。もし、本田以外の男から、同じような口調で話しかけられていたら、とことん不快に感じ、激怒していたに違いない。本田だから、木村栄は素直に自然に受け入れる。結果、心地のよいジョークとして受け止めることができていた。
「まず、オイシイ!の一言です。ワインのほのかな酸味と、それからブランデーの甘味が、活かされている。夜食にぴったりです。それよりも何よりも、本田さんが自分で料理つくるなんて、驚きです。わたし、自分の手料理など何もできない・・・」
「気にしない気にしない、さかえさん。私だってお店で作るから、お客さんの為につくるから、体が動く、結果として料理にできる。もし、自分が家庭の主婦だとして、毎日家族の為に料理を作るとなるとたまったものじゃない。自分には、家庭料理なんてできっこありませんよ」
「そんな事、分っています!」
「とにかくこの料理は素晴らしい。そして、ほんとうに私が言いたい事は、何か? それは、本田さんの感性なのです。ほんとうにセンスがいい。そんな本田さんのセンスが素晴らしい。それが言いたかったの・・・」
2人の会話は続いた。話しを続けながらも、木村栄の両手と口は忙しく動いた。わずか15分と経たないうちに、皿に盛り付けられた料理は全て、見事に平らげられていた。


(3)

「あ~ おいしかった。マスター、ご馳走さまでした」
「どういたしまして・・・ とにかく、さかえさんに喜んでもらって、今夜は非常にうれしい!」
こうして1時間以上雑談が続いたあと、本田が尋ねた。
「ところで、さかえさん。今夜、あなたが私に聞きたかったこと、何でしたっけ?」
「・・・」
木村栄は少し考えた。そして答えた。
「もういい。忘れてください」
「そうはいかん!」
「ますます聞きたくなった」
「いや実は、私の勤めている店、サンチョパンザは近々閉店するのです。寺元マスターは東京に行くそうで、誰かに店を売りたいの。寺本さん、あれで結構、狡賢(ずるがしこ)人なの。かわりに私が『本田さんの考え』、つまり意向を聞いてほしいというのです。いや実は山本美智子さんも昨夜フォワイエ・ポウを覗いたはず。でも、本田さん、気が付かなかったでしょう」
ここで本田はようやく思い出した。
「みちこさんだったの、昨夜のお客さん連れの女性は・・・」
「前もって頂いた電話も、自分が受けていなかったし、とにかくまずかった。それはたいへん失礼しました。でも、マナーとしてさ、できれば自分から言ってくれないと、こちらも分からない事あるよな・・・」
「ウッフッフ・・・」
めったに笑わない木村栄が、ようやく笑い声を吹き出した。
笑いながら木村栄は、心地よく快感を覚えた。本田が、山本美智子の顔を覚えていないという事実が、まず可笑しくて仕方がなく、さらに気位の高い山本美智子が、見事に本田に無視されたという不幸な出来事が、ひるがえって木村栄のプライドの高さをくすぐり始めたのである。女どうしのレベルの低い競争心であることくらい十分わかっていた。それにも関わらす、本田の山本美智子に対する無関心さを知れば知るほど、なぜか木村栄の気分は一転し、元気もよくなり気分も良くなった。

「本田さん、寺元のメッセージを伝えるなど、すでにどうでもよく、無視しても構わない。私は本田さんのお店フォワイエ・ポウに来る理由を作ってもらったの。それだけでいいの。もう忘れましょう。とにかく寺元マスターは、本田さんのことが気になるの。店がうまくいっているかどうか?そんなこと気にしてるの。だから、『うまくいってる、儲かっている』と、伝えておきました。以上、めでたしめでたし・・・」
本田には理解できない。
「ねえ、マスター、朝まで飲みましょうよ。こうなったら朝までつき合って下さい。お願い・・・」
本田は、ようやく時計を見た。
すでに午前3時が少し回っていた。

<・続く・・>

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小説「フォワイエ・ポウ」7章(第42回) さかえさん!目的達成なるの?・・

2006-07-07 20:12:30 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
<添付画像>:エドゥアール・マネ作品「ウエイトレス」 IMAGE: "EDOUARD MANET". Serving Boxseat by The Waitless.

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長編連載小説「フォワイエ・ポウ」

        7章
                            著:ジョージ・青木


2(けじめ)-(1)

JGBの団体が歌合戦を済ませ、ようやく引き上げたのは9時半過ぎである。この団体、9割以上が女性客。従業員の多くは近隣の市町村や郡部から、JR山陽本線に乗り1時間かけて通勤する連中も加わっているので、いつも引き上げるのは早かった。早く始まり早く引き上げる客は、店にとって誠にありがたい顧客であった。

団体客の退散とほぼ入れ替わりに、別の旅行会社の人物が店に入ってきた。店の雰囲気と酒を楽しむ。と、いうのではなく、マスターの本田を尋ねて来たのである。
彼の名は小笠原忠一(おがさわら・ただかず)。今日も9時過ぎまで残業し、同じ事務所の女性従業員を伴ってどこかで食事を済ませ、さらに同じ女性の従業員を伴ってフォワイエ・ポウに繰り出してきた。
近畿地方に本社のある昭和旅行社、広島営業所勤務の従業員である。営業所の従業員数は所長を入れて3名。当時代の典型的な零細旅行会社である。
このところ、小笠原は頻繁に本田の店を訪れていた。
カウンターに座るなり、冷たいウーロン茶を注文し、いつも1時間くらい本田と話して引き上げる。本田の店では一切アルコールを口にしない。カラオケを歌ったり、けっして長居をしない。せいぜい長くて1時間半もいれば彼の目的は十分果たせたのであるが、今夜はなぜか2人で来店し、約1時間ばかりの間に5杯のウーロン茶を飲み干した。引き上げるときは必ず、水割り1杯の料金とほとんど変わらないウーロン茶の飲み物代金を、きっちりと支払って帰る。他の客に迷惑をかけるような自発的行為はない。が、しかし、地声ともいえる太くて低い大きな声でバイト生を呼びつけ、ウーロン茶のおかわりを命じ、あまりにも大きな声であるから他の客はそんな小笠原の態度に対し、この店フォワイエ・ポウのイメージに似合わない違和感を覚えていた。
そんな小笠原には、フォワイエ・ポウに出入りする確たる目的があった。夜な夜なカウンターを挟んで、ヨーロッパツアーの日程の組み方を本田に相談するためである。小笠原にとってこの店での本田との会話は、まさに仕事の延長線上であるから、アルコールは一切口にしなかった。
今夜も、小笠原から本田に報告があった。
「今日、ようやく出発日が決まりました。6月の第2週目の金曜日。シンガポール航空で大阪から出発します。フランクフルトに直行します・・・」
「小笠原さん、直行便はないだろう。シンガポールで乗り換え、つまりフライトチェンジするはずだよ。さらに南回りだから、たいへんな時間が掛かるよなあ~」
本田は不安を感じながら、小笠原の安易で短絡的な『旅の説明』の為の専門用語の使用方法の僅かな間違いを訂正する。もし、参加者に対し、「この便は直行便です」という説明をしているならば、その時点ですでに三流旅行営業マンの烙印が押される。
「もちろん、シンガポールで約半日待機し、夜のフランクフルト行きに乗り換えますが・・・」
「そう、それをお客様に説明しておかないと、たいへんだ。まあ、説明済みならそれで良い。大丈夫」
ウーロン茶を口に運んだ小笠原は、一息ついて、また、しゃべる。
「それでこの日程、現地滞在は7日間。いや現地は8泊。日本発着の前後とも機中泊となりますから、合計で10日間になる。このスケジュールでどうでしょうか?」
「・・・」
本田は、単純に返事ができない。
小笠原の事務所から携えてきたアタッシュケースを開きながら、なにやら紙切れを無造作に取り出しながら、さらに本田に話しかける。
「これ日程表です。ちょっと目を通してみてくださいよ、お願いしますよ。私はこれで良いかな?と思っているのですけれども、なんだか本田さんからご覧になって、もし問題点があれば、指摘していただくと、本当に助かりますが・・・」
今までカウンターの中で立って対応していた本田は、ついにカウンターから出た。熱心な小笠原の問いかけに対し、いつになく本田は真剣になっていた。カウンターの内側から表に出るなり、直ぐに小笠原の傍のカウンター客席に座りなおし、あらためて小笠原の作ったスケジュール表に目を通した。
そのスケジュールとは、
まず早朝、フランクフルトに到着。到着したその日の朝、フランクフルト空港からに直ちにハンブルグに移動。
そしてハンブルグに3泊し、当地で開催される製造機械博覧会を見学。その後、フランクフルトからさらに南下すること一時間半、大学の町ハイデルベルグに一泊。翌日からさらに強行軍が続きシュツットガルト、ミュンヘンなど一泊ずつ、バスでの移動が続く。さらにノイシュバンシュタイン城を観光してその同日中にスイスのルッツエルンに入り、一泊。翌日はインターラーケンに移動し、一泊し、ユングフラウヨッホまで登山電車で登り、さらにその同日中にジュネーヴに移動し、一泊。さらに翌日TGVでパリに移動。パリで一泊し、帰国の途に着く。
たいへん忙しい。
さらに問題がある。ハンブルグの博覧会見学に加え、なんとドイツとスイスで一箇所ずつ、合計2箇所の企業訪問を予定する。となっている。
「忙しいスケジュールです。くわえて中身が濃い。これ、企業訪問のアポイント取り付けがたいへんでしょう。出発まで、もう1ヶ月も猶予がない。もうすでに、訪問先が決まっていますか?」
「いえ、今現在、本社で手配進行中です。大丈夫です」
「そうですか? ところでこれ、当然小笠原さんが添乗員で現地に行かれますよね。たいへんでしょうが、がんばってください」
「ハア、はい、そうです。ありがとうございます」
あくまでも小笠原は元気よく、なぜかしかし本田の目には、自分の手でヨーロッパツアーが取れた、団体の営業ができた、という彼自身、本田の前で自慢したい意思が見え隠れしている。元業界の先輩である本田の前で鼻を高くしながら、何処となく突っ張っているように伺えた。
本田にスケジュールを見せ、一応は激励の言葉をかけてもらった小笠原は、いっそう大きな声ではしゃぎ始めた。バイトの学生に対し、必要異常に大きな声でウーロン茶のおかわりをオーダーする。

そんな時、木村栄は本日2度目、再びフォワイエ・ポウに入ってきた。

   <続く・・>

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小説「フォワイエ・ポウ」7章(第41回掲載)

2006-06-28 11:45:50 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
<添付画像>:エドゥアール・マネ作品[フォリ=ベルジェールの酒場 1882 コートールド・インスティテュート(ロンドン)] IMAGE: "EDOUARD MANET". A Bar at the Folies-Bergère. 1882. Oil on canvas. Courtauld Institute of Art Galleries, London, UK.

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長編連載小説「フォワイエ・ポウ」

        7章
                            著:ジョージ・青木

1(転換期)―(4)

「解った。これでよくわかった。だから今日、美智子から電話がかからないんだ。休みでも、電話する。と、言っていたのに・・・」
本日、山本美智子はお休みを取っていた。しかし、昨夜のフォワイエ・ポウの状況報告を寺元に約束していたにもかかわらず、その報告がないという。
「寺元マスター、いちど自分で本田さんの店に出向かれたらいかがですか?」
「僕が行く!」
「そう、そうです。それが一番いいわよ」
「いや、やめとこう。やばいやばい。僕が行けば、もう、みもふたもなくなるから、止めとく」
ここで、奥のボックスからのキープボトルのお変わりの注文が入った。カウンターにいた寺元と木村栄は、協力して作業し、しばらく新しいボトルの売り上げに勤しんだ。
ひと通りの作業が終了し、2人は雑談を再開した。
「いずれにしても今夜、もういちど本田さんの店に行ってきます」
「そう、さかえさんも本田さんのフアンだからな。いってらっしゃい。2度顔出すのも、いいですな~」
「な、なに言ってんですか、マスター!マスターが本田さんの所のぞいてくれって言うから私は行くの。勘違いしないでください。お勘定ちゃんとマスターに回しときますからね」
「はいはい、分りました。どうぞどうぞ・・・」

いずれにしてもサンチョパンザの閉店まで、残すところ1ヶ月をきっていた。オーナーの寺元は地元に見切りをつけた。関東在住の友人からの誘いに乗り、友人の新規チェーン店オープンにあわせ東京に進出する予定でいた。
もしできることならば、寺元は本田にサンチョパンザの後継をお願いしたい気持ちがあった。したがって、本田に近いホステスを本田の店の偵察に覗(うかが)わせ、前もって情報を収集したい気持ちがあった。ある程度の情報が集まったところで、つまり、本田が断らないという確信を得た上で、寺元自身が最終的な交渉に乗出したい気持ちを持っていた。
しかしながら、同じ夜の飲み屋の世界でも営業形態の違いがあり、スナックバーとクラブの違いがある。つまり、店内にホステスのいる飲み屋は、風俗業の許認可を所轄の警察署でクリアーしなければならなかった。あわせて、全ての意味で客層の違いはある。
夜の世界に入った当初の本田は、ホステスを雇い入れた営業も、彼なりにイメージだけはしていた。シナリオも描いてみた。
しかし飲食業店舗としてのフォワイエ・ポウは、立地場所に問題があった。おしゃれな街並み、高級専門店街あるいはブティック街として市民に認知されている並木通りという店のロケーションは、なんとかレストラン食べ物屋としては成立するものの、飲み屋専門として営業を継続できるかどうか?非常に難しい立地条件からスタートして、今日に至っている。

本田をして、1年と半年間の経験を整理すれば、
(けっして女性従業員を雇わない)
(ゆめゆめ、クラブの客とホステスの集まる店にしてはならない)
(学生サラリーマンを問わず、若者専門の集まる店にする)
という現状であり、現状に迎合した方針を実行していた。

本田が夜の商売を始める決心をした時点から今日まで、高級ブティック街の端っこにあるバーの営業、飲み屋専門の商売が如何に難しいか、本田自身、身体をもって思い知らされていた。
夜の歓楽街を楽しもうとする客の多くは、中央通を東に渡った夜の街の集まる地域に足を運ぶ。
つまり、並木通りは中央通の西側に位置するから、フォワイエ・ポウに来る多くの顧客は、いちど中央通を渡って夜の歓楽街に繰り出し、1次会が終わった後になって、たまたま気が向けばわざわざ中央通を西に渡りなおし、並木通りに足を運ぶことになる。早い話が2度手間である。あるいは、中央通りを渡らずに、その手前の並木通りに直行してくれる客もいるが、そのパーセンテージは、かなり低い。JGBのメンバーがフォワイエ・ポウに足を運ぶ場合、事務所界隈のレストランか居酒屋で食事を済ませ、敢えて中央通りを渡らずにその手前の並木通りにある本田の店を訪ねてくれるわけだ。本田にとってはありがたい。
しかしほとんどの客は、中央通を東に渡ったら、再び中央通を西に渡り帰して、飲み直しに戻っては来ない。
ちなみに、いや、当然ながら、サンチョパンザは中央通の東の、夜の歓楽街のど真ん中、最高の場所に位置していた。
そんな夜の街ですでに15年、十分に経験を積んできたサンチョパンザのオーナー・寺元は、今後すぐに訪れる『バブル崩壊』の苦難の時代を予知していたともいえる。

あらためて言うが、この時期の本田の商売はけっして悪くなかった。夜の商売を立ち上げてから半年間、それなりの試行錯誤をした。1年後、自分流の夜の商売のやりかたが分かった。1年半掛かってしまったが、その自分流がようやく板についてきた。自分流のやり方とは、つまり本田流であり、フォワイエ・ポウの顧客の全員が、本田のフアンであった。ただ、それだけのことであった。

いつしか本田フアンの取り巻きは、構築されていた。
その取り巻き連中が、入れ替わり立ち代り本田を尋ねてフォワイエ・ポウに足を運ぶ、その繰り返しが収入を発生させた。取り巻きの多くは現役の大学生、限られた企業の若手社員。2~3年もすれば、フォワイエ・ポウの常連学生は卒業を迎え、おのずとフォワイエ・ポウから去っていくが、あらたに入学した新入生に引き継がれるから、店に出入りする学生の数の減少はない。若手サラリーマンも毎年新入社員が入る。新入社員は先輩によってフォワイエ・ポウが紹介される。
ただそれだけのこと、フォワイエ・ポウの本田オーナーのフアンクラブのメンバーだけが、店に出入りする。もし、本田がいなくなれば、今迄の顧客は出入りしなくなるであろうし、良かれ悪しかれ本田のパーソナリティーに相当する人材がいなければ、この店は維持できない。本田がいなければ何もない、何も残らない、何も与えられない、それがフォワイエ・ポウの現状であった。
だから、本田が毎日元気にカウンターに立つ限り、フォワイエ・ポウの営業は継続できる。現在の店の客層と基本的営業方針から推測して、今後しばらくの間、安定的営業を継続する可能性は十二分にあったと判断できる。

しかし、ここでまた、繰り返し言う。
フォワイエ・ポウ一店舗による売上げには限りがあった。
つまり、どう足掻(あが)いても、月間平均売り上げは120万円が精一杯であり、したがって本田の手元に残る利益は、せいぜい4~50万円が限界であった。この金額は、本田がサラリーマン時代の所得に届かないものであり、フォワイエ・ポウの経営を継続する限り、永久にサラリーマン時代の所得を上回る可能性は無かった。今はしかし、本田は脱サラし独立して商売をしている限り、あまり銭金に固執しない本田。しかし、せめてサラリーマン時代の所得の倍額の収入は得たい。と、常に考えていた。
しかし、この先、あらたに店舗数を増やすような投資行為については、疑問を持っていた。まして、ホステスをつかってさらに発展拡大的な水商売をする気など、本田は全くなかった。

<・続く・・>

(小説フォワイエ・ポウ既掲載分、ならびに前号確認などは、こちらから参照可能です)

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1.『参考資料』
『エドゥアール・マネ』
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
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エドゥアール・マネ
草上の昼食エドゥアール・マネ(Édouard Manet, 1832年1月23日 - 1883年4月30日)は、19世紀のフランスの画家。

西洋の近代絵画の歴史の冒頭を飾る画家の一人である。マネは1860年代後半、パリ、バティニョール街の「カフェ・ゲルボワ」に集まって芸術論を戦わせ、後に「印象派」となる画家グループの中心的存在であった。しかし、マネ自身が印象派展には一度も参加していないことからも分かるように、最近の研究ではマネと印象派は各々の創作活動を行っていたと考えられることが多くなっている。

マネは画家仲間のみならず詩人、作家との交流もあり、近代詩人の祖であるシャルル・ボードレール、エミール・ゾラ、そしてステファヌ・マラルメなどと深い親交があった。ボードレールはエッチング、ゾラとマラルメは油彩による肖像画がマネによって描かれている。

マネは1832年、パリのブルジョワの家庭に生まれた。父は司法省の高級官僚であった。はじめ海外航路の船員となるが、1850年、18歳の時に画家になることを決意し、当時のアカデミスムの大家、トマ・クーチュールに弟子入りする。1861年、サロン(官展)に『スペインの歌手』が初入選する。マネの画風はスペイン絵画やヴェネツィア派の影響を受けつつも、明快な色彩、立体感や遠近感の表現を抑えた平面的な処理などは、近代絵画の到来を告げるものである。(続きは、こちらから入れます・・)

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2.『参考資料』:(ビールの適温とレーティングビールについて)
"BEER MEMO"
"Serving temperature"
The temperature of a beer has an influence on a drinker's experience. Colder temperatures allow fully attenuated beers such as pale lagers to be enjoyed for their crispness; while warmer temperatures allow the more rounded flavours of an ale or a stout to be perceived. There are no firmly agreed principles for all cases; however, a general approach is that lighter coloured beers, such as pale lagers, are usually enjoyed cold (40-45F/4-7C), while dark, strong beers such as Imperial Stouts are often enjoyed at cellar temperature (54-60F/12-16C) and then allowed to warm up in the room to individual taste. Other beers should be served at temperatures between these extremes.

"Rating"
Main article: Rating beer
Rating beer is a recent craze that combines the enjoyment of beer drinking with the hobby of collecting. People drink beer and then record their scores and comments on various internet websites. This is a worldwide activity and people in the USA will swap bottles of beer with people living in New Zealand and Russia. People's scores may be tallied together to create lists of the most popular beers in each country as well as the most highly rated beers in the world.

小説「フォワイエ・ポウ」7章(第40回掲載)

2006-06-23 12:18:45 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
<添付画像>:「落ち着かない画廊喫茶」

 絵画を鑑賞しながら、Coffee Time を寛ぐ?楽しむ?といった雰囲気に、決して為り切れない!
 店内照明の拙さ「ひとしお?」。この空間と照明、いかにもスペイン的?か。どうも日本人の感性を逆撫でするのではないか!と、思いますが、如何?いや、撮影者(不肖エセ男爵)の拙さでしょうか?・・・(撮影:スペイン滞在中バルセロナ市内、某ビジネスホテル内のロビーコーナーの一角、半端なコーヒーショップにてにて)

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 BAR「フォワイエ・ポウ」を巡る人間アラカルトの描写、いよいよ核心に迫っていきます。
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          7章
                           著:ジョージ・青木

         1(転換期)―(3)

木村栄はサンチョパンザのドアを押した。
小声で、
「おはようございま~す」
出勤の挨拶をしながら、彼女は静かに店の中に入った。
すでに2名1組の客が来店している。
その客は、2~3人のホステスに取り囲まれ、静かに歓談していた。
カウンターの中にいたオーナーマスターの寺元は、木村栄の出勤を待ちわびていた。
「おはよう、さかえちゃん、早かったな・・・」
「おはようございます」
「ま、とりあえずカウンターに腰掛けてよ、話聞かせてよ」
「何の話ですか?」
「分かってるじゃない、フォワイエ・ポウの話しさ・・・」
「あ~ 本当に美味しかった。本田さんのところで生ビール、中ジョッキに2杯も飲んじゃった。のどか沸くんだな~、ビール飲んだ後は、、、」
「マスター、使い立てして申し訳ない。とりあえず冷たいお水ください」
グラスいっぱいに注がれた冷たいミネラルウオーターを一気に飲み干した木村栄は、大きく息を吐き出し、一息ついた。彼女は、空になったグラスを眺めながら、何かの思いに耽っているようで、すぐには話し始めなかった。その間、寺元は無言で彼女からの話を待った。

「まず、本田さんの店、もう大丈夫。もう、完全に、お客さんは定着しています。1日平均10人を上回っているはず」
「となると、1月300人以上、客単価4000円と考えても、ひと月平均の売上げは、そう、120万円以上でしょう。年末年始、さらに3月4月の以上の時期、この時期には平常月の倍の売り上げになるはず。このままですと本田さん、必ず儲かりますよ。毎月40万円。3~4月のサラリーマンの転勤や移動の時期と究めつけの年末年始には、それぞれ100万以上、合計200万円以上残るでしょう。年間で、500万以上の利益は残せるでしょう・・・」
「なるほど、ウム、ウム・・・」
いっそう真剣になった寺元は木村栄の話に集中して耳を傾け、木村栄はさらに話を続けた。
「ま、あくまでも本田さんが手堅く財布の紐を締めて、無駄遣いしなければ、、、。という前提でね」
木村栄は、ここでまた一口、グラスの水を飲む。
「まあ、そんなストーリーですけど・・・」
この間合いから、自然に、寺元の喋る順番になる。
「でも、今までの本田さん、どのくらい借金があったか、まったく分らない。でも、どう考えたって1千万以上の借金はないはず。そして、フォワイエ・ポウをはじめて、もう、かれこれ1年と半年になる。借金があったとしても、すでに本田さんは借金など全額返しているでしょう。僕はそう思いますよ」
パイプタバコを詰め替えながら、めずらしく寺元は、自分の店で飲まないアルコールに手が走り、すでにビールを飲み始めている。
「どう、本田さん、今、奥さんとどうなってんの?」
本田がサラリーマンを辞めるとき、夫婦間でひと悶着あったこと、当然ながら家庭争議があったことを、寺元は聞き及んでいた。そんな寺元は、その後の本田の女性関係が気になる。
「それについては、私もよくわかりません。どうも別居してらっしゃるはずです。弟さんの譲治さんから、それとなく聞いたことがあります。ですから、今も、たぶん別居中でしょう。お寂しいでしょうが、また逆に気楽なのでしょう。だから飲み屋ができる・・・」
「そう、僕もそう思う。なぜか本田さんからは生活の匂いがしないんだよな~」
「・・・」
「家庭の疲れというか、仕事の疲れというか、サラリーマン時代の本田さんからは少しも感じ取れなかった。今は、どうなのかなあ・・・」
「本田さんの場合、そう、以前からそうでした。疲れた生活の匂いがしない、今もそうでしょう。今の本田さん、以前と全く変わっていませんよ」
木村栄は言い切った。言い切って、さらに彼女自身の解説が付いた。
「最近の本田さん、飲み屋のマスターが板についてきた。なぜか夜の雰囲気がある。さぜか、すでに何十年も経験していた人のように、夜の業界にスマートにとけ込んでいらっしゃる。なんだか世界の違う人が、つまり違う世界の本田さんが、私たちと同じ世界の中で生きてらっしゃるのに、なぜか違和感がないんだよな・・・」
「・・・」
「でも、ちょっと違う。平均的な夜の業界の男の人とは違う。どこが違うのか?と、問われても、すぐには答えられない。いや、今からも、長く長くしばらくは答えられないと思う。なんだか、よくわからないのよ。とにかく不思議な人なの・・・」
ようやく火の付いたパイプタバコをふかしながら、寺元は無言で頷く。
「あ~、忘れていました。寺元マスターごめんなさい。昨夜、美智子さんが本田の店に行ったこと、様子など、何も聞いていない。それその事、本田さんから聞くの、忘れていました。いや、忘れていた、というよりも聞く時間、無かったのよ・・・」
突然パイプから口を外した寺元が、無言のまま吹きだし笑いを始めた。
「おいおい、さかえさん。一時間以上も本田さんの店にいて、肝心な事何も聞いていないじゃないか・・・」
「いや、寺本さん。ほんとうにごめんなさい。私が本田さんの店に行って10分と経たないうちに、団体さんが入ってきて、それから私、少しお手伝いしてたの。そうしていたら、そこそこの時間になっちゃった。だから慌ててサンチョパンザに向かったのです、ほんとうにごめんなさい、最初に寺元マスターに謝らなければならないのに、てっきり忘れてました」
「さかえさん、君、本田さんの店を手伝ったの? さかえさん、かんべんしてよ! 君ね、自分の店を遅刻して、本田さんの店、せっせと手伝っていたの? 本末転倒もはなはだしいじゃないか!」
ここまで話した寺元は、奥のボックス席のお客への体面もマナーも無視し、いや、忘れてしまい、たまらずに声を出して笑い始めた。
「いいいい、わかった。もういいよ・・・」
「・・・」
「さかえさんが忘れているくらいだから、どの道、たいしたこと無いわけだ。ひょっとすると本田さん、みちこが店に行ったのに、なんだかもう、彼女の顔、たぶん忘れていたんじゃないの?というか、最初から記憶するのが面倒だ、だから、記憶していない。となると、思い出せないわけ。知らない人間を、最初から記憶していない人間を、その顔を、思い出せるわけがないじゃないか・・・」
寺元はさらに、自分自身納得させるべく、
「いや、本田さん自分でそ知らぬ顔して、山本美智子の来店を私には言わずに、わざと内緒にしていたのかも・・・」
と、自分自身、理屈の辻褄を畳み掛けていた。
寺元も木村栄も、お互いの顔を見合わせ、いよいよ吹きだして、本格的に笑い始めた。
木村栄はさらに、ひと言付け加えた。
「いや、それって、ほんとうです! 絶対に本田さんは忘れてたはず。美智子さんのこと覚えていないはず・・・」
「さかえさん、本当にそう思うかい?」
馬鹿笑いを止めた2人は、再び真剣に話しを始めた。
「間違いない。そう思います。本田さんは、たったの1度くらいで、しっかりと女性の顔を覚えるほど女に対してこまめな男ではない。特に女性に対してね。逆に、ああ見えても女性を観る目は結構厳しいのよ、本田さんは。でも、ちゃんと頭のテッペンから足の先まで、女性を観察する人なの。そして、直ぐに忘れてします。私ね、以前からそう思っています」
本田のサラリーマン時代から、この店サンチョパンザで本田を直接接客し、そばで観察していた木村栄の体験と経験から、この言葉が出た。

<・続く・・>

(小説フォワイエ・ポウ既掲載分、ならびに前号確認などは、こちらから参照可能です)

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小説「フォワイエ・ポウ」7章(第39回掲載)

2006-06-20 16:16:30 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
Duch Beer from wikipedia

本田マスターの大好きなオランダビール[Duch Beer]、ビール党の方も、そうでない方も、「フォワイエ・ポウの応援」宜しくお願いいたしたく、下記ランキングバーのクリックを・・・!

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              7章
                           著:ジョージ青木

   1(転換期)―(2)

翌日の早い時間、出勤前の木村栄が顔を出した。
しかも彼女ひとりの来店である。
「いらっしゃい、さかえさん。おひさしぶりですね、お元気でしたか?」
「本田さん、いや、マスター、お久しぶりです。私このごろあまり元気ない。この月曜日から昨日まで3日間、お店休んだの。今日も店に出たくないなあ~・・・」
タバコを取り出し、吹かし始めた。
「珍しいな、さかえさんがタバコを吸うなんて・・・」
以前から木村栄がタバコをやっていることは本田には分かっていたから、特に驚きはしなかった。
「ところでさ、本田さん。いや、マスター」
「さかえさん、マスターと呼ぶのは止めてくれないかな。さかえさんからマスターって呼ばれると、どうもしっくり来ない。おたくの店、サンチョパンザのタコ・マスターみたいじゃないか。なんだか嫌味(いやみ)に聞こえるよな~」
「本田さん、そんなことない。うちのマスター、本田さんの大フアンです。ですから、あまりタコ呼ばわりしないで。だってかわいそうじゃない・・・」
「なんだ、タコ呼ばわりはさかえさんから習ったのだから、私のオリジナルじゃないよ」
「・・・」
本田との会話のやり取りに対し、木村栄は声を出さずに笑って聞いている。
「ま、冗談だ、本気にしないで、冗談だよ!私だってもちろん彼を尊敬しているよ。いろいろとよく勉強しているし、私だって彼から業界のことたくさん教わっているし・・・」
あえて冗談めいた本田の話しを聞いていた木村栄は、ようやくリラックスした気分になった。
「あの~、実は、今日は、ちょっと教えてほしいのです。お尋ねしたいことがあるの、昨夜の事で・・・」
「昨日の事?」
「はい、昨夜夜遅く、サンチョパンザのお客さんと一緒に、美智子さんが来たでしょう」
「ウム、そういえば、店を閉めようかと思っていたら、なんだか電話がかかってきた。バイト生が電話をとったので、内容はよく分からなかった。でも、それから2人連れで、誰か来た・・・」
「本田さん、もう忘れたの。美智子よ、開店祝いで最初に連れてきた子、あの子ですよ。山本美智子がうちのお客を連れてきたの・・・」
「え~、そうだったのか。ぜんぜん覚えてないよ、山本美智子という名前すら忘れていた。それは山本美智子さんとやらに、たいへん失礼したな・・・」
「そうだろうと思いました。そこが、本田さんらしいんですよね。若い女性のお客さんに対して、全く意識がないの。商売気もないし、特に女性客を無視しているのだから」
「そうかなあ~」
「まあ、そんなことだろうと思っていました・・・」
「いや、名前思い出せなくて、たいへん失礼しました。でも、それ以外に、なにか私が粗相でもしたのか? それはないと思うが・・・」
「いいえ、フォワイエ・ポウ側の粗相なんて、全くありません。それとは別に、いや少し関連してますけど、私の話があるの・・・」
木村栄がここまで話したとき、にわかに3階の通路が賑やかになり、数秒も経たないうちに店のドアが開いた。
「こんばんは! マスターお久しぶりです。ちょうど10人ですが、奥のボックス使っていいですか? 空いていますか?」
入り口のドアを半開きにし、眼鏡ばかりが目立つ小さな顔をドアに突っ込んだままJGBの栗田係長が声を出す。
「あ~、栗田さんお久しぶりです、空いてますとも!どうぞお入りください。さ、どうぞどうそ」
「皆さん、空いてますって。よかったな~ 空いていて良かった!
サア~ みんな入った入った・・・」
あいかわらず、栗田の機嫌は今夜もすこぶる良いのである。
顔ぶれは、ほとんど女性。五反田と歌姫の檜木田に加え、なんと今日は太田君が加わっている。
「栗田係長、みなさん、水割りでよろしいですか?」
「はい、水割りでOK、マスター任せです!」
「了解です!」
木村栄の話を聞こうとしていた本田が、にわかに忙しくなったのを見ていた木村栄が、小声で本田に声をかけた。
「ちょっと、私、すこしマスターのお手伝いしましょう。水割りのセット、私が運びますから、マスターはカウンターの上にグラス、それからアイスペール。そう、先に、おしぼり! そう、本田さんはチーズクラッカーセットの用意だけに集中しておいてください。あとはご心配なく。お運び、私が全部やってしまいます・・」
本田に指図するための口が忙しく動くが、身体も動いている。通常、忙しくしゃべるとしゃべっている間の身体は止まるものである。が、木村栄の場合は身体も止まらない。
「ごめんね、さかえさん、では遠慮なくおねがいします!」
さすが、木村栄の手際は良かった。みるみるうちに、しかもスマートに、自然に、本田自身がセットするよりも数倍の速さで最初の手順を立ち上げた。
(さすがだ! さすがに違う。やはり、さかえさんはプロなのだ!)
(水割り作るの、なんと、こうも早いのか!決してもたつかない。そして、動作が、所作がきれいだ!)
木村栄の立ち居振る舞いを一部始終観察していた本田は、なぜかうれしくなった。が、しかし、本田の感謝の気持ちを木村栄に伝える時間がなかった。10人の団体客は、すぐさまカラオケを歌い始めた。予約に次ぐ予約、カラオケの予約はすでに30曲になっていたのに本田は気が付かなかった。客からのリクエストは木村栄が受けつけているし、メモを整理しながらカラオケの操作までこなしているのだ。
「さかえさん、どうもありがとう。助かったよ。こんなときに限ってバイトの連中のシフトが噛み合わないんだよな・・・」
本田は声をかけた。
「そうか、私、実はわたし、今日フォワイエ・ポウに入ってきた時、それを心配していたの。だれか、バイトの学生さんがドタキャンでもしたんじゃないか、今日になって急にバイト生が休んでしまったのかも、なんて・・・」
「違う違う、今から来ますよ。今日は遅番で組んでしまった。8時半からの勤務になってるからね。でも、ここまで手伝ってもらったら、もう大丈夫・・・」
「それをお聞きして安心しました。もうすぐ8時、私は今から店に入ります」
「あ~ そうなんだ、申し訳ない、さかえさん・・・」
「いえ、大丈夫、タコのマスター知ってるから、私がフォワイエ・ポウによってくること知ってますから心配ないの・・・」
「ありがとう、マスターに宜しく!」
「・・・」
「そうだ、さかえさん、貴方の話したい事、なに? そうか、もう聞く時間がないよな、どうしよう?」
「いや、大丈夫です。今夜、店がはねてから、もう一度フォワイエ・ポウに来ますから、その時に・・・」
「なんだって、今夜、もう一度来る?」
「はい、来てはいけませんか?」
「もう一度今夜、ここに来るのだね? 必ず?」
「はい」
「了解。その時にしっかりと聞かせて頂きましょう」
「マスター、お会計して下さい」
生ビールを2杯飲んでいた木村栄は、律儀にもお金を払おうとした。それを本田は断った。
「いいよ、さかえさん。バイト料だ。逆に私のほうが貴方にお金払わなければならなくなった。とにかく、受け取れません。さあ早く行った行った、早く出て!いいから、早くお店に出ないと・・・」
「ありがとうございます。あ~ 今から店に出るの、気が進まない。でもしかたないから店に出るか」
「なにをぶつくさ言ってんだ。フォワイエ・ポウを手伝う元気があるのに、本職の方はやる気が起きないの?可笑しいな~」
「・・・」
一旦明るくなり、元気にフォワイエ・ポウを手伝っていた木村栄は、いざ自分の勤務先への出勤となると、また元気がなくなっていた。
「もういちど元気出して、行ってらっしゃい!」
「わかりました。元気出します。いまからお勤めに行ってきます。それで、仕事終わったら、今夜、必ずもういちどお酒のみに来ますからね・・・」
「かしこまりました、さかえさま」
「・・・」
「とにかく行ってらっしゃい・・」
「・・・」
「そして今夜は、さかえお嬢さまのために特別にお夜食などをご用意し、必ず、お待ち申し上げております」
「・・・」
うつむき加減、顔を下に向けたまま、いささか照れた感じの木村栄は、自分から本田には何も返事をせず、フォワイエ・ポウを出て行く。
本田は木村栄に対し、いかにも真面目そうな表情で、このセリフをしゃべった。
自分としては単なるジョークのつもりで、わざと馬鹿丁寧に対応した本田の言葉は、嫌味のないセリフとして彼女の耳に届いた。ジョーク、軽い冗談のつもりで喋ったセリフが、木村栄にはジョークになる一歩手前の爽快さとなって、彼女の心に届いていた。
本田の店を出た。サンチョパンザに向かう道中は、今夜も彼女にとって十分に考える時間があった。店に向かって歩きながら、何度も本田のセリフを思い出し、自分が同じセリフを繰り返し喋ってみた。
本田のセリフを言われた対象、つまりそのセリフを受けた自分自身をふり返ってみたら、やはり可笑しくなった。考えれば、図らずも本田から、あたかも中世の貴婦人に対する言葉を受けた。こんな言葉がスムーズに出てくるのは、本田らしくない。いや、本田らしい対応なのかもしれない。
思いがけない本田のセリフを思い出しながら歩いていたら、木村栄は訳もなく可笑しくなった。むしょうに笑いたくなってきた。ジョークになっていないセリフは、木村栄を微笑ませ始めた。本田のセリフを自分で繰り返せば繰り返すほど、彼女の気分は爽快になり、一両日にわたって鬱蒼としていた気分は転換し、気分よく足が動く。いつのまにか1人で笑いながら、木村栄は夜の繁華街を歩いていた。1人で笑いながらも、周囲の他人の視線は全く気にならなくなっていた。

      <・続く・・>

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PS:
ビールの美味しい季節になりました。同じ飲むなら美味しく飲みたいものです。常識だ!と、ビール通の方にはお叱りを受けるかもしれませんが、一度ご覧になってください。間違った知識、古い知識など、本当に美味しいビールの飲み方誤解しているかも?
おもしろい資料を見つけました。是非ご一読下さい!
知って美味しい「読むビール」(サッポロビール資料提供)

連載小説『フォワイエ・ポウ』7章(第38回掲載)

2006-06-15 00:28:35 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
<添付画像>:(Steep rock slope at the Moselle River, from Wikipedia)

 フォワイエ・ポウのオーナーマスター本田氏の大好きな「ドイツ・モーゼルワイン」の故里です。
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長編連載小説「フォワイエ・ポウ」
                        著:ジョージ青木

7章


1(転換期)


(1)

「マスター、今夜はひまですね・・・」
「石井君、その通りだよ。今夜は早い時間に2組で合計5人。いやいや、ため息出るよな・・・」
時計は深夜12時を回っていた。
「ところで、おなかすかないか?」
「・・・」
「忙しくない日に限って、腹が空くんだよなあ、石井君よ、君はどう?」
10時過ぎから本田は、生ビールを飲んでいた。ビールを飲めばトイレに立つ回数が多くなる。バイト学生の石井に話し掛けながら、本田はまたトイレに立つ。
席を立ちながら、石井に向かって話す。
「ビール飲んでたら逆におなかすいて、焼肉食べたくなった。なあ、そろそろ店閉めて、ドカ~ンと景気付けに、久しぶりに焼肉でも食べに行こうか?」
本田の発したこの一言は、退屈も極限になり眠りかけていた石井の目を覚ました。
「は~い、待ってました!はい、是非お供します・・・」
今から客が入ってきても大丈夫。逆に、いつでも仕事のできる体勢に気分を切り替えた。
本田がトイレに入ったとたん、店に電話がかかってきた。
石井が電話を取った。
本田はその電話の内容が気になっていたが、トイレで電話の受け答えもできず、トイレから出てきたときには、かかってきた電話は切れていた。
「何だって、誰からの電話だ?」
「はい、女性からの電話でした。まだ、店が開いてるかどうかの確認と、今から3~4人でこちらに向かうから奥のボックス席を用意しておいて欲しいとの事でした」
「誰だ、名前聞かなかったの?」
「すみません。お聞きしたのですが、なぜか、名前はおっしゃいませんでした・・・」
「わかった。しかたないな・・・」
すでに店仕舞いする気になっていた本田は、あらためて客を迎え入れる気分になれなかった。まして、誰が来るのか分からない状態では、ますます気が重くなる。
「しょうがないな。店閉めれなくなったな。よし、しばらく待ってみるか、15分以内に来なければ店閉めちゃおう・・・」
電話がかかってから約10分、確かに客は来た。
「先ほど、電話をしたものです・・・」
男女1名ずつ合計2名の来客に対応し、
「いらっしゃいませ!」
という、こちらの挨拶にも答えずに、女性を先頭に、勝手に奥のボックス席に入っていく。常連客のようでもあり、そうでもない。つまり本田も石井も知らない客である。分かっていることは唯ひとつ、クラブのホステスが自分の勤務している店が閉店した後になって、自分の店の客をフォワイエ・ポウに連れてきた。たぶん、そうである。
状況だけは判断できた。
しかし、
「フォワイエ・ポウに行こう・・・」
と、ホステスの方から誘ったのか、客がホステスを誘ったのかは定かでない。が、本田は全く気に留めなかった。
客の対応、すなわち注文取りは、とりあえず石井に任せた。
注文を受け終わった石井は、
「白ワインをボトルで1本。それから適当におつまみが欲しいとの事です。チーズクラッカーが良いそうです・・・」
「了解、なんだかこの店のメニューがわかっているようだな・・・」
「そうなんです。でも、常連さんではないと思います。私は、あのお二人の顔を知らない。店でお会いしていたとしても、さて、どうもわからない・・・」
石井は首をかしげている。
「その通り、常連さんではなさそうだ・・・」
本田も、わからない。
本田が注文の飲み物とおつまみを準備し、石井はボックスに運んだ。その後は声も掛けずに放っておいた。
いちばん奥のボックス席に客が入ってしまえば、カウンター席からはまったく客の姿は見えない。が、なんだかひそひそと男女の話している雰囲気は、かろうじてカウンターの内部の本田にも伝わってくる。
約30分経過した頃、ようやくボックス席から声がかかった。
「ちょっと、おあいそして・・・」
屋台か、居酒屋風、ぶっきらぼうな言葉である。
「はい、かしこまりました。ありがとうございます」
カウンターの中にいた本田は即座に反応した。
しかし、わざわざ自分からすすんで奥のボックス席へ出向いてまで、この客の対応をする気になれなかった。
代わりに石井がボックス席へ出向き、計算書を手渡した。ボックス席で男性客が清算を済ませている間、先に女性客が席を立って店を出た。女性客の後から席を立ち、店を出ようとする男性客に対し、本田はカウンターの中から少し頭を下げる程度の挨拶をした。
客が立ち去った後、石井はテーブルのかたずけを始め、ボックス席からワインボトルとグラス類を下げてきた。
「マスター、見てください。ワインのボトルは空っぽです。おつまみは、クラッカーだけ残っていて、チーズは消えています。どういうことでしょうか?」
「へえ~、なんだって、チーズはホステスがお持ち帰りしたんだろうぜ。うれしいじゃないか、全然チーズに手をつけないより、もって帰ってもらったほうが、むしろ逆にうれしいよ・・・」
「たったチーズのおつまみだけ?2人でボトル1本を空けるなんて、、、。面白い客がいるんですね・・・」
「若し、私なら、どうだろう。ワインだけ飲め。といわれても、飲めないね。ワインは食間酒のイメージだから、しっかりとそれなりの時間の中、食事しながら、でなければ私は飲めない・・・」
もともと本田はビール党。ワインの話をしながら、生ビールのジョッキを傾けている。店内整理のための手の動きは休ませない。忙しく手元を動かしながら、石井は続けて本田に話し掛ける。
「そうでしょう?でも、今、ワインだけを飲んで、やたら『ワイン通』だと勘違いしている連中、増えていきました。その類の連中、今、たくさんいますからね・・・」
「まあな、人間いろいろいるからねえ・・・」
本田は直感的に思った。
(ウム、あの連中、2度とフォワイエ・ポウには来ないだろう・・・)
(でも、どうしてわざわざ電話してまで出向いたのか?どうして電話番号とこの店の場所を知っているのだろうか?)
むしろその事の方が気になった。しかし、直ぐに忘れようとした。あわせて、夜の商売をしているホステス連中の対応に関し、本田は迷っていた。どう対応していけば良いか、分からなかった。
本田にとって、
「水商売の女性を相手にすることは、自分には不向きである」
と、思うようになっていた。
「お~い、石井君よ。今から焼肉食べに行くか?」
「はい、マスターの『その一声』、待ってました!行きましょう行きましょう!今から大急ぎで店仕舞いしますから、でも、僕一人に任せてください。マスターはそのままビールでも飲んでいてください!」
「ウム、わかった。石井君に任せるよ・・・」
アルバイト学生の石井は、全ての手順を理解し、本田の動きを完璧に理解しながら、自分の位置を理解し、本田を差し置いて出すぎるような行為は慎む。本田の補佐を完全にこなせる、本田との間合いをうまくとれる。そんな対人関係のバランスと、つかず離れずの適切な距離を保てるのである。なぜか、そんな感覚に優れた男であった。確かに、まだ学生の石井、しかも二十歳(はたち)になったばかり。わずかこの1年間の経験しかないにもかかわらず、すでに本田マスターの代行を立派にこなしていた。

   <・続く・・>

(小説フォワイエ・ポウ既掲載分、ならびに前号確認などは、こちらから参照可能です)

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小説「フォワイエ・ポウ」6章(第37回掲載)さて?真理子は何を切り出すか。いよいよ6章、終章です・・

2006-06-08 12:05:05 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
<from Wikipedia>:A racing bicycle made by Cyfac using shaped aluminum and dual carbon fiber chain- and seat-stays. It uses Campagnolo components.

"ROAD BICYCLE"
From Wikipedia, the free encyclopedia
A racing bicycle made by Cyfac using shaped aluminum and dual carbon fiber chain- and seat-stays. It uses Campagnolo components.A road bicycle is a bicycle designed for use primarily on paved roads, as opposed to off-road terrain. Sometimes road bicycle is used as a synonym for racing bicycle.


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* 長編小説『フォワイエ・ポウ』前号掲載分「全36回」、、(回読ご希望の方は、こちらから入れます・・・)

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長編連載小説「フォワイエ・ポウ」6章

                     著:ジョージ青木

1(客のマナーと店の方針)-(6)

   (4)-2

「ところでマスター、これ、少し、ドロップハンドルの幅が狭いのですが、ひょっとしたら女性用のハンドルじゃないですか?でも、サドルの高さは高い。というより、フレームそのものは長いのですから、女性用といったって、日本人向きではないし・・・」
「いや、これはね。半年前まで女性が乗っていたの。身長172センチの女性。大学病院の女医さんが乗っていた。実は、その女医さんに、一度は、プレゼントでこの自転車を差し上げたのです。その時に、ハンドルだけ替えた。だからハンドルは日本製ですよ。でも1年と半年前、なぜかアメリカに留学する事になったので、私がまた引き取った。その時のハンドルをそのまま使って、今も乗っているのです」
「エ~、その女医さん、マスターの彼女だったのか?」
熱心に自転車を眺めていた真理子は、上目使いに本田を覗き込んだ。
「違う違う!そりゃ美人で背が高くて、ステキな女性でしたよ。でも、彼女ではない。私はね、ステキな女性や美人は見慣れていますから、とっくに世界中で見ていますよ。ちょとやそっとで手当たり次第にね、とっかえひっかえ、あちらこちらの女性を好きになったりはしないよ!」
「へ~、マスター。世界中歩いているのか・・・」
決して驚いてはいない真理子は、本田の話に口裏を合わせた、間合い程度の言葉を喋る。そんな真理子の間合いに対し、さらに本田の話は続く。
「その女医さんね、私の以前の仕事の上得意さんだった。毎年、アメリカとヨーロッパで学会のある度に、海外出張された。彼女は国家公務員だから、担当官庁の許認可を取らなければ海外に出れないのさ。時に文部省、場合により厚生省に事前の許可を取って下さってくださった。そしてその後の手続きは、私の会社の本社の関係になる。つまり東京本社事業部に指名していただき、全国から参加する5~60人の医者や学者、さらに関連の企業人や研究者達が海外渡航する。そんな学会参加団体旅行全体の仕事を、我社を挙げて受け請うのです。大きな仕事ですよ。この周辺は私が担当していた。そんなこんなで、我が社全体、会社と全国の支店を挙げて、厚生省の仕事をもらっていた理屈になる。ずいぶんと、その女医さんにはお世話になっていたのですよ。だからプレゼントした」
「話は、いたって簡単です・・・」
簡単だと思っているのは、本田だけであった。
「ヘエ~、その女医さん、きっとマスターのフアンだったのよ。きっとそうだわ!」
「真理子さんよ、それとこれは違うよ。女医さんは家財道具や自転車を手放して裸一貫、仕事もやめて単身、留学と称してアメリカの婚約者のもとに旅立ったのだ。とにかく、それ、真理子さん誤解だよ。まったく、あなたって云う人は、初めて会った私に対して遠慮もなく、しかも唐突に、まして、ぶっきらぼうに、そしてこの真夜中に。いや、もう明け方か?朝っぱらから、何を云い出すやら・・・」
「マスター、若し、私がこの自転車ほしいといったら、私に下さいますか?」
さらに唐突な真理子の質問に、本田は即答した。
「あ~、いいですよ」
本田の発言に驚いたのは真理子だった。
竹本は、一言一句逃さずに2人の話を聴いていた。本田と真理子、その2人の会話の始まった時点から、竹本の頭の中は真っ白になっていた。
一瞬、次の言葉を失っていた真理子に対し、本田は、さらに畳み掛けた。
「若し、よかったら、今夜このまま乗って帰りますか?」
和風的な端正さ、しかも左右対称、何の特徴もない能面のような、いや、コケシのような小さな面持ち。真理子の無表情な目は輝き、突如として大きく見開いた。そして再び、こけしの目のように点になって、動かなくなった。
「ほんとにいいのですか?」
「あ、いいよ・・・」
「ほしいほしい、今から乗って帰る!今日、いまから絶対に乗って帰る・・・・!」
「ちょっと待ってくれよ、真理子さん。ライトの電池を取り替えておこう」
本田はわざわざ店に戻り、新品の単一乾電池二本を持ち出し、自転車のランプにくっ付いていた古い電池と取り替えた。
「それから、これが自転車の鍵。キーチェーンの番号は・・・」
「ちょっと待ってください、マスター」
真剣な口調で、竹本が口を挟んだ。
「真理子さん、失礼ですが、自宅まで何分かかりますか?」
「竹ちゃん、どうしてそんな事聞くの? そうね、20分位かかるかな・・・」
「あの、マスター、もうこの時間ですから、女性が自転車に乗って帰るのは危ないです。お昼間に帰らないと、やばいです。それから、今夜はエレベーターが動かないから、階段を自転車もって下りるの、たいへんですよ。俺は手伝いませんよ」
全員、沈黙した。が、本田が口を切った。
「竹ちゃん、ありがとう。よくわかった、やはり今夜は危険だな、止めとこう」
「・・・」
「よし、自転車は、今夜のところは店に入れておこう。私はタクシーで帰る。みんなタクシーで帰るでしょう」
「・・・」
「この自転車の鍵一式、竹ちゃんに預けておこう。真理子さんたちも竹ちゃんも、来週の日曜日に、またいらっしゃい。その時に竹ちゃんから真理子さんにこの鍵を渡してくださいよ・・・」
今度は竹ちゃんが目を丸くした。
その瞬間、真理子が大声で笑いはじめた。
「マスター、ありがとうございます。来週日曜日まで竹ちゃんに鍵預かってもらいます。次の日曜日も、またお店に参ります」
本田は、ホッとした。
「真理子さん、ありがとう。この自転車、中古だけどまだしっかりしているからね。でも、そろそろタイヤをとっ替えないと、かなりちびてますよ。そろそろパンクの危険あり!この手のタイヤは、高いよ。だいじょうぶか?」
「わかってます。タイヤ替えると、前後輪の2本で4~5万はかかります。だいじょうぶです。この自転車を買ったとおもえば安い安い・・・」
「わかった、タイヤがパンクする前に、新しいタイヤ買って取り替えるか? 私に約束できますか?」
本田は微笑みながら真理子に問いかける。
「約束します」
「OK! じゃ、これで決まり。真理子さんにこの自転車プレゼントしよう!」
「ありがとうございます。でも、すこし寂しくなるなあ~・・」
真理子が意外な発言をした。
「どういう意味なの、まりこさん・・・」
本田が理由を尋ねた。
「もう2~3年になるかな~、実は、隣のおでん屋に寄っています。もちろんウイークデーに・・・」
「ウム、なるほど」
「フォワイエ・ポウの入り口に電気が灯り、お店の中から音楽が聞こえてくる。以前はモダンジャズ、このところは誰かカラオケを歌っている音が聞こえ始めた。そしてこの赤い自転車が入り口の左側に立てかけてあるの、最近になって気が付きました」
「・・・」
「入り口ドアは、深みのあるネイビーブルーの1色だけ。お店の名前は白銀色のぶち抜きで、いかにもクール。バランスが良い。さらに左側に、真紅のフレームの高級自転車がさりげなく立てかけられている。紺碧の海の色と真紅の自転車の色。力強くてお洒落、とにかくバランスがいいのです」
真理子の会話をぬって竹ちゃんが質問する。
「なに、なぜ、何のバランスがいいの?」
「色のバランスが好い、竹ちゃん見てごらんよ。入り口の濃紺は、キャンバスの大半を占める、そのキャンバスの右上にある白銀の店のシンプルな飾り文字。さらにやや左下の自転車の三角フレームの真紅。右下の真紅の背景は、このビルの壁の色。その壁って、薄い山吹色じゃないの。もう完全に、構図は完成しているの。最高よ・・・」
「・・・」
「これ、絵になると思わない?」
真理子は、フォワイエ・ポウの入り口付近を自分の視野と視界で切り取って、大きな絵画のキャンバスを想像している。
とっさに気が付いた本田、
「そういえば、そうだよな・・・」
真理子は本田を見上げながら、
「そうでしょう、マスター。これは絵になっています!」
本田は、初めて気が付いた。
(そういえば、絵になる。絵になっている。真理子の審美眼には恐れ入った・・・)
「だから、私が、自転車を持っていくと、この絵のバランスが崩れるのだ・・・」
本田はますます、そんな感性の持ち主である真理子に自転車をプレゼントする気になった。
自分の「持ち物」を褒めてくれる人間がいれば、喜んでその人間に与えてしまう、そんな本田の悪癖は、再び蘇ってきた。
「この絵のバランスが崩れても、いっこうに構わない。その崩れたアンバランスは、真理子さんが来店してくれる事で修正できる。新しい自転車の持ち主が、しょっちゅうここに顔を出せばいい。持ち主が現れると、それで十分にバランスは取れる。それでいいじゃないか!」
「マスター、すてきです。そんな風に解釈してくださるなんて、私、うれしくてたまりません。今夜眠れないな~・・・」
「眠らなくても、もう朝だよ、真理子さん。でも、自転車大切にして、かわいがってください。私が持っているよりも真理子さんが持ち主になった方が、よく似合う。自転車も、そのほうがいい。喜ぶと思うよ」
「ありがとうございます!」
二人の会話を聞いていた竹ちゃんは直立不動のまま、彼の目だけが輝いていた。が、今夜の竹ちゃんの目は、なぜか、まばたきの回数が多かった。

竹ちゃんは店仕舞いする本田を手伝った。
自転車のフェラーリは、竹ちゃんの手によってフォワイエ・ポウの店内フロアーに運び込まれた。
「エ~ マスター、この自転車こんなに軽いんですか? 見てください。僕の小指だけで、持ち上げられる・・・」
「そう、自転車の重量は、8キロもないでしょう。ペダルに足を置いているだけで、何もしなくていい。べつだん、足に力入れなくても、ペダルに乗せた両足の重みだけで十分。この自転車なら、するすると前に進み始めるよ・・・」
「へ~、そんなものなのか・・・」
竹ちゃんは一人、はしゃいでいた。
おしゃべりの疲れが出たのか、真理子と連れの若い女性の2人は、おとなしくなっていた。しかし真理子の細長い目は、くりくりと輝いていた。そして、なぜか神妙であった。
店のドアの鍵を閉め、一同賑やかに非常階段を下りて雑居ビルの外に出た。
ようやく解散した。
空を見上げれば、先ほどまで真っ暗だった夜空を見上げれば、すでに東の方向から夜明けの気配がする。
(あ~ 長い日曜日だった。でも、楽しかった・・・)
独り言をつぶやきながら、
(今から30分かけて自宅に帰ってもしかたない。まして、タクシーなんてこの時間つかまりゃしない。こうなったら事務所で仮眠するか。事務所まで歩くか・・・)
一歩一歩の歩幅は広いけれど、しかし、ゆっくりとした足取りで、本田は事務所に向かって歩き始めた。
さわやかな五月中旬の早朝、まだ日の出の時間までの間合いは、ある。
早い朝のこの時間、排気ガスで汚れる前の時間帯である。水気のないクラッカーのように清々しく乾いた、初夏の朝の空気感。さわやかな空気を胸いっぱいに吸い込む。本来、人がいるはずの場所に、全く人の気配のしない殺風景な繁華街を通り抜ける本田の姿があった。

<6章・完>

(次回7章に続く)


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* 長編小説『フォワイエ・ポウ』の過去掲載分、「全36回」、、(ご参照希望の方、こちらから入れます!)


小説「フォワイエ・ポウ」6章(第36回掲載)

2006-06-06 16:41:45 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
<Attached Poto, from Wikipedia>(A racing bicycle made by Cyfac using shaped aluminum and dual carbon fiber chain- and seat-stays. It uses Campagnolo components.)


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6章

1(客のマナーと店の方針)-(6)

「おあいそ」を済ませた真理子たちは、賑やかにはしゃぎながら店を出た。が、しかし、3階のエレベーター入り口に行くまでの通路で、なにやら立ち話をしていた。
わずか数分と経たないうちに、2人は店に舞い戻ってきた。
「ごめんなさい、マスター」
「どうしました?」
「あの、エレベーターが動かないのですが・・・」
とっさに時計を確認した。すでに午前3時過ぎになっている。本田がフォワイエ・ポウをはじめてから現在に至るまで、日曜日のこの時間まで営業した経験は、今夜が初めてであった。
「あ~、ひょっとしたら大家さんがエレベーターの電源を切ってしまったのかも・・・」
と、言いながら、本田は店を出てエレベーターに向かい、自分で確認しようとした。
「竹ちゃん、ちょっと待っておいて。エレベーターまで行って見てくるから・・・」
「いえ、僕も一緒に行って、見てみましょう」
会計の済んでいない竹本は、まだ、カウンターにいたが、本田と一緒にエレベーターについてくる。
エレベーターの電源は完全に落とされていた。こうなると、帰り道はただ一つ、非常階段を下りる以外にビルの外に出る方法はない。
「おう、こりゃダメだ。階段下りるのに懐中電灯がいるぜ。店の常備灯があるから、それ使おう。真理子さんたちも竹ちゃんも、ちょっと待って。もう店閉めるから、一緒に出ましょうよ」
「はい、私たち、待ちます、お待ちます。一緒に階段下りましょう」
真理子たちは、また、はしゃいだ。
おでん屋さんも居酒屋さんも、日曜日は完全に店を閉めている。非常灯は点灯しているものの、全部のお店が閉まっていれば真っ暗になる3階の廊下である。灯りのない7~8メートルの距離を、また店の入り口方向に進んだ。
薄暗い通路の突き当たり右側に本田の自転車が置いてあり、さらにその突き当りがフォワイエ・ポウの入り口である。

「ちょっと待って。マスター、ちょっとここで停まって下さい」
薄暗い通路を進みかけた真理子が、突然本田に声をかけたので全員が立ち止まってしまった。
「あの赤い自転車、この前の日曜日も見かけました。あの自転車、竹ちゃんが乗ってるの?それとも、マスター?」
本田が声を出す間がなかった。真理子が質問すると直ちに竹本が答えた。
「とんでもない! 俺の自転車じゃない・・・」
竹ちゃんは真剣な顔つきになっている。
「こんな高級自転車、欲しくても僕は買えません。これ、自転車のロールスロイスです。これはマスターの自転車ですから・・・」
「そう、マスターの自転車なんだ。やっぱ、そうか・・・」
「・・・」
真理子と竹ちゃんのやり取りを聞きながら微笑んでいるだけで、本田は何も答えようとしない。どちらかといえば口の重い竹本をさしおいて、さらに軽快に真理子の話が続く。
「でもさあ~、竹ちゃん、ちょっと違うな。これはロールスじゃないよ!」
「でも、ですね、この自転車は高級車ですよ、だからロールスロイスといってるんだ、フォワイエ・ポウのお客のほとんどはそう思っている。もちろん僕から見ても判る。僕はですね、もうすぐ一級整備士の資格を取るんです。いや、実力は、とっくに一級整備士以上です。この自転車のボディーも部品も、高級ステンレスとアルミ合金でできているんだから、ひょっとするとチタン合金やカーボンなど、使ってあるかも知れないし、、、」
熱くなった竹本は、本田の自転車の価値を説明しようとする。合わせて、いつの間にか自動車の整備士の話題も混入してくる始末である。
「竹ちゃん、私が言っていること、ちょっと違うのよ」
「真理子さんと俺とは、どう違うのですか?」
「よくわかっています。この自転車は高級車よ。そこは竹ちゃんと同じなの。私も自転車大好きだから、とっくに分かっているの・・・」
「そうですよ、高級だからロールスロイスだ。と、俺は言ってるんだ」
真理子は、いよいよ落ちをたたみ掛けてきた。
「高級?あったりまえよ、分かってるよ。でもさ、私はね、この自転車はフェラーリだと思うな・・・」
「え? フェラーリですか?」
竹本は驚きの声を発する。
「その理由はね、簡単よ」
「・・・」
「この自転車のフレーム、見た?」
「・・・」
「今日は暗くて見えないけど、先週の日曜日、店の前まで来たとき、この自転車しっかりみました。この自転車はイタリア製なの。そうでしょう、そうですよね、マスター・・・」
「ウム、その通り!というより、間違いなくイタリアで買ったもの。部品はフランス製と日本製も混ざっているかも・・・」
微笑みながら、ようやく本田は話し始めた。
「事の始まりは、もう10年位前になるか。イタリアのミラノに行ったとき、街中歩いていて、同じ自転車屋さんの前を何度か通っていたら、このての自転車が目に止まってしまって、、、。その後数回ミラノに行けば、必ずこの店に行きたくなり、ついに店の中に入ってしまった。自転車に触った。もういけない。どうしてもほしくなったので買ってしまった。値段忘れたけど、米ドル換算で、500ドルまではしなかったと思うよ、当時の日本円で、そう、あの頃、3~4年前になるか。1ドル220円少々だったかな。そう、輸送コスト入れて14~5万円位かな。ま、輸送コストといっても輸出通関と日本に入ってきた時の関税のコストと、日本に着いてから私の自宅まで送ってもらった日本国内の「横もち輸送料金(輸入製品の国内輸送料金の意味)」は、もちろん私が支払わないといけない。コストは、たったのそれだけ。とにかく手間賃だけは友達に払った。友達に対する寸志?程度かな。ローマに駐在している友達の引越しの時に一緒に送ってもらったから、輸送費は掛かっていない。つまり0円。タダかな・・・」
さりげなく本田は答えた。
「エエ~、これが、たったの15万円? うそでしょう!」
真理子は本当におどろいた。日本で購入すれば、どう考えたって5~60万円前後だと、彼女は予測していた。

  <続く>(次回掲載予定日≒6月8日木曜日)


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* 長編小説『フォワイエ・ポウ』の過去掲載分、「全35回」、、(ご参照希望の方、こちらから入れます!)

小説『フォワイエ・ポウ』6章(第35回掲載)

2006-06-02 10:05:15 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
(添付画像):"Ann Lewis from Yahoo Info."

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* 長編小説『フォワイエ・ポウ』の過去掲載分、「全34回」、、(ご参照希望の方、こちらから入れます!)

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長編連載小説「フォワイエ・ポウ」6章
      
                    著:ジョージ青木

1(客のマナーと店の方針)-(4)

「カウンター?ボックス?どちらにおかけになりますか?」
いつものかたち通りの挨拶をしながらも、直ちに客の好みの席を選ばせるように誘導し、案内する。
「私たちも、カウンターにする?カウンターがいいよね?」
やや年上のリーダー格の女性は、連れの女性の了解を取るまでもなく、カウンター席に座り始める。
さっそく本田は、2人に飲み物の注文を聞いた。
リーダー格の女性は、バーボン。当然といえば当然だが、バーボンは銘柄指定で、ジャックダニエルを注文。もう1人は、ジントニックを注文した。
「わたしたち今日初めてお伺いします。私は、真理子。こちらは、知子。漢字は、しんりの「まり」、知るの「ともこ」・・・」
本田も直ちに、自己紹介する。
「本田です。まりこさん、ともこさん、宜しくお願いします」
本田に対して、真理子ひとりがしゃべっている。
「こちらこそ、宜しくお願いします。もっと早く来たいと思っていました。ウイークデーは仕事です。それで今日、初めて来ました。日曜日にお店開いているの、知らなかった」
「はい、お盆とお正月を外せば、年中空けていますからどうぞお越しください」
「先週の日曜日、お店のぞいたのですが、団体さんで満席だったから、のぞいただけで直ぐに帰っちゃった・・・」
「あ~ ごめんなさい。先週の日曜日は、たまたま予約がありまして、結婚式の披露宴の二次会がありまして・・・」
「そうなんだ、だからあんなに賑やかだったんだ・・・」
「そう、貸切状態でしてね、予約の20数人のお客様だけでした。な~に、こんな事は2月間で1回あるかどうか、めったに無い事でして、、、。いつも日曜日は、がら空きですよ。ですから、ご遠慮なくいらして下さい」
「毎週日曜日にカラオケの練習に来ますから、よろしくお願いします」
「カラオケの練習!」
本田好みのセリフである。
「何と、この店に来ていただく理由は『カラオケの練習』、この趣旨、いいですね。是非、是非、日曜日に思いっきりカラオケの練習やってください!」
女性客2名の来店と合わせ、入れ替わりに竹ちゃんが帰ろうとした。しかし本田が彼を引き止めた。
マスターの本田と女性客との会話が一通り落ち着いた段階で、真理子は竹ちゃんにも話しかけた。本田はすかさず竹ちゃんこと竹本を女性客達に紹介する。
遠慮がちな竹本に対し、真理子から声をかけた。
「竹本さん、おねがいします。店のドアの外まで、玉置浩二の歌きこえていましたよ。すてきな声ですね、ちょっとハスキーな声で」
「うわ~、はずかしいな」
彼は、確実に照れている。
真理子は、さらにたたみかけて来た。
「どうぞもう1曲、玉置さんの歌を聞かせてくださいよ」
「そう、もう1曲分、竹ちゃんのカラオケの予約が残ってますよ!」
一旦カラオケのコインボックスに百円玉を二枚入れてしまうと、誰かがカラオケを歌わなければならない。
「さあ、竹ちゃん! 歌った歌った。ここで引っ込んではいけないよ」
遠慮する竹本に対し、本田は巧みに気合をかけ、見事に彼をその気にさせる。
恥かしがりながらも、竹本は歌った。
今夜、彼の歌った歌の中でも、最も出来の良い歌になった。竹ちゃんは乗りに乗っていた。彼自身の流儀を発揮して彼独特の真心を込め、哀調のある玉置の歌を歌いきった。結果は、すばらしい出来栄えであった。それは熱唱というより、絶唱であった。
竹本の歌を聞きながら、
(ウム、竹ちゃんは大きくなった。成長した!今までの彼とは何かが違っている・・・)
と、本田は思った。
歌の巧い下手のうんちくを言うような本田ではなかった。初めて竹本と出会った当初の彼と、今夜の彼と単なる比較の問題である。竹本自身の僅かな成長ぶりに、本田は心から拍手を送った。
(細かい事はどうだっていい。竹ちゃん、この調子でがんばれよ、前に進んでくれ・・・)
竹ちゃんの熱演に続き、女性客の2人からもカラオケの歌が続出した。
真理子は、さすがに歌が上手だった。「フォワイエ・ポウを、カラオケの練習場にしたい」といった彼女は、プロ歌手以上の歌唱力を発揮した。
約20曲のカラオケが連続し、日曜日だというのに深夜過ぎても、連中は歌い終わらなかった。

さらに2~30分が過ぎた。
「あ~今夜は楽しかった。マスターごめんなさい。でも、ちょっと歌いすぎた・・・」
「そんな事ない、だいじょうぶですよ。どうぞごゆっくりしてください」
「いいえ、今夜はこのあたりで、そろそろおひらきにします」
「・・・」
「マスター、ありがとうございました。私たちのお会計、お願いします」
真理子から声が出た。
手元の時計に視線を移せば、すでに店仕舞いしてもおかしくない時間になっている。
適度に酒を呑み進めながら思いっきりカラオケを歌い、時間を見計らって切り上げる。
飲み屋遊びを切り上げる呼吸も間合いも、いかにも場数を踏んで磨き上げられたもの。カウンターの中に立つ本田にとって、客である真理子の洗練された間合いは、お洒落と表現するにふさわしい粋なマナーであった。

<・続く・・>


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<添付画像>:「アン・ルイス」
アメリカ人と日本人のハーフとして生まれ、英語をFirst Languageとして、日本の中のアメリカという環境で育った。日本でいうところの小中学校の頃、いわゆるオールディーズポップスだけでなく、1960~'70年代にかけてのクリームやツェッペリン等をリアルタイムで聴いて育つ。その、自らが体験したROCKを、日本語で、日本のメロディーで表現するために、自らの音楽を「Kayo-Rock」と呼称し、現在のJ-POPのルーツとなった。 オールディーズポップスから学んだ、ポップでメロディアスなボーカル。 ハードロックから得たダイナミックでビート感あふれるハードなギターサウンド。 そして、女を歌う詩。これがアン・ルイスの音楽です。 最近では、ファッション、インテリア、アクセサリー、ペット・グッズと幅広い分野でデザイン&プロデュースで活躍中。 その才能をブイブイ言わせて発揮しています。 1956/6/5 神戸生まれ。
1971/2/25 シングル「白い週末」でデビュー。
おもな代表曲:グッド・バイ・マイ・ラブ、LINDA、恋のブギウギトレイン、 六本木心中、あゝ無情、WOMANなど(資料引用):"Ann Lewis from Yahoo Info."