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長編連載小説『フォワイエ・ポウ』(連載12回) ついに、開店当日となった・・・

2006-03-17 00:47:27 | 連載長編小説『フォワイエ・ポウ』
    
      長編小説「フォワイエ・ポウ」3章

                   著:ジョージ青木

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3章

1(開店)

(1)-2


 開店当日がやってきた。
時間は、すでに午後3時過ぎになるか。
本田はゆっくりと、自称「赤いロールスロイス自転車」のペダルを踏んでいた。いつもに増して、赤いロールスロイスは今にも止まって倒れるくらい、街の中心地の人ごみの中をノロノロと進んでいた。
うつ病的な気分になって一週間、今日の本田の気分は、ことさらに重かった。
さほど多くない人ごみをかいくぐりながら、自転車は並木通りを平和大通り方面に南下していく。自転車で歩道を走っていること事態、歩行者にとっては迷惑な話である。そんな自転車の運転者は、歩行者の迷惑など全く気にしていなく、歩道を歩く人間の存在すら眼中に無く、ひたすら勝手気儘にノロノロと、ペダルに足を絡ませていた。気が付けば、店のビルの前に着いてしまっていた。
エレベーターのボタンを押すと、直ちにエレベーターの扉は開いた。約7~8キロの重量の自転車を片手で軽々と持ち上げ、前輪を上に向けてエレベーターに乗り込む。3Fまで昇ったエレベーターのドアーが開く。自転車を本来の位置に戻して店の入り口前まで移動した。

少し驚いた。
自転車を置くいつもの場所に、
なんと、花輪が、たった一つ・・・
店の入り口の右横に、立てかけてある。

『祝開店』
『フォワイエ・ポウ 様へ』
『贈 岡本酒店』・・・

(あ~ これ、開店祝いの花輪なのだ・・・)
唯一、本田の店の仕入先である酒屋から、花輪が届いている。
それを見た瞬間の本田は無感情であった。
その次の瞬間、なぜか、もの悲しくなっていた。
(葬式でも祝い事でも何でもそうだが、そもそも花輪ってのは、それが数多く贈られて来て賑やかに飾ればカタチになるが、、、この花輪、たったの一つだけではなあ~、どうしようもないぜ。みっともないよなあ~・・・)
あらためて花輪を観た。
みっともないから、今すぐにでも取り外して人目に触れない場所を探し、大急ぎで、しまいこみたい気持ちである。が、贈っていただいた先様に対しては、礼を欠く事になる。だから撤去するわけには行かない。
(今さらどうしようもないか… )
(しかたない)
(ウム、暫くは、このままにしておくか・・・)
花輪を支えている三脚の右前と自転車の前輪を、いつもの鍵チェーンで結びつけた後、いつも通り店のドアーの鍵を開き、店内に入った。

入り口のドアーは右開きになっている。
開いたドアーに隠れるように配置された場所に、店内の各種電源スイッチがある。
ドアーを開くなり、主電源スイッチを押した。店内の照明を最大限に明るくした。
照明をつけるなり、まず、店内右手のカウンターが視界に入る。さらに、カウンターのど真ん中においてある生花が視界に入ってきた。その横に、洋酒一ダース入りの箱が置いてある。

生花には、名札が付いている。
『フォワイエ・ポウ様へ 贈 岡本酒店』・・・
さらに、洋酒の箱を開いた。
洋酒が3本になぜかモーゼルワインが6本、さらにクリームチーズが3箱入っているではないか。
(ウム?どうしたのだ!)
(開店のための初注文は、昨夜配達してもらっているし、たぶん、これは岡本君の配達ミスなのか?)
しかし直にメモが見つかった。酒屋の封筒が副えられているのを見落としていた。
少しずつ、状況が解かりかけてきた。
間違いなく、本田が店に入る前、酒屋の岡本洋一が店に入り、これらの品々をカウンターに置いて帰ったのである。酒屋との最初の約束で、店の合鍵は必ず酒屋に一本預けておくという飲み屋と酒屋の習慣がある。空いたボトルの回収と、仕入れ注文に合わせた納品を開店の前に済ませる。だから鍵を一本預けて欲しい。と、洋一からの依頼があり、それで合い鍵を預けた事、本田はようやく思い出した。
おもむろに封筒を開け、岡本洋一の手書きのメモに目を通し始めた。


<以下、岡本メモの内容・・・>

本田様 
フォワイエ・ポウ ご開店 まことにおめでとうございます。
あらためて 岡本酒店をお引き立てくださいますよう どうぞ宜しくお願い申し上げます。
また本日は、私が勝手にご注文をお受けしてない洋酒をカウンターに置いて帰りましたこと、お許し下さい。ボックスの中のお酒について、少しご説明させて頂きます。
実は、私の母の兄、つまり私の叔父から数日前に預かっていたものを、本日開店日に合わせてお届けした次第で伯父の名は、本郷修一と申します。母方の伯父ですから姓が違いますので、申し副えます。
一週間前、久しぶりに伯父に会いました。
我々の商売柄、ついつい酒の話しになり、いろいろと訪ねられ、ついつい新規開店される本田マスターの話をしました。そうしたところ、なんと、逆に伯父の方が興味を持ち、マスターの事、いろいろ訪ねるもので、それに答えておりました。答えておりましたら、今度は伯父の方から、
『本田氏は、君よりももっと以前にお会いし、私のほうがもっと彼のことをよく知っている。そして、本田さんにはずいぶんお世話になった当時の記憶がある。間違いない。元々、私の良く知っている旅行会社にいた本田さんだ・・・』
『やはりそうか!なんとなくわかる・・・』
『そうか、会社を辞めてしまわれたのか!』
『実は10年くらい前に、夫婦でヨーロッパに行ったとき、添乗員で案内されたのが本田さんだったのだ。当時はまだ学生のようにフレッシュで、たいへん若かった。お若いにもかかわらず、礼儀正しく、丁寧で親切で、たいへんお世話になった・・・』
と、言うのです。
そして、この数本のお酒を預かり、マスターにお渡しするよう、伯父から頼まれたのです。
伯父との話の内容、詳しくは直接マスターにお話しします。
初日は、何かとお忙しいでしょう。近日中には必ず、できれば業者の方と一緒して、お店にお伺いするつもりです。
どうそ宜しくお願いします。

    昭和六十二年十一月 吉日
    岡本洋一

これがメモの内容であった。
決して上手な文字とはいい難いが、心のこもった丁寧なボールペンの筆跡である。店に入って走り書きしたものではない。このメモはたしかに事前に用意されたもの、時間をかけて何度も書換えた様子は、本田にとっては充分に伺える。


   <・・続く・・>
 
 (次回掲載予定日:3月22日水曜日)


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掲載済み「小説・フォワイエ・ポウ」を遡ってお読みになりたい方、以下各掲載日をお開き頂き、ご覧頂けます。

「第1章」
1)第1回掲載「第1章」(メタリックレッドのロールスロイス)(2月9日)
2)第2回掲載(2月10日)
3)第3回掲載「1章」(クリームチーズ・クラッカー)(2月15日)
4)第4回掲載(2月17日)
5)第5回掲載:「1章」完(2月22日)
「第2章」
6)第6回掲載「2章」(安易な決断-1)(2月24日)
7)第7回掲載「2章」(安易な決断-2)(3月1日)
8)第8回連載「2章」(安易な決断-3)(3月3日)
9)第9回掲載「2章」(安易な決断-4)(3月8日)
10)第10回掲載「2章」(安易な決断-5)最終章(3月10日)
「第3章」
11) 第11回掲載「3章」(1開店)(3月15日)