Papa told me~私の好きな惑星~ (クイーンズコミックス) 価格:¥ 440(税込) 発売日:2009-04-17 |
「コミックダッシュ!」で新刊(と言っても今年4月刊行だが)の存在を知り、アマゾンで購入した。
『Papa told me』は私が最も好きなコミックであり、私にとって「ファンタジー」が指し示す世界がこれだ。「現代の東京」が舞台ではあるが、それがリアルかどうかはたいした意味を持たない。確固とした世界があり、そこに暮らす人々がいて、哀しみも喜びも普遍に在り、ひとつひとつは小さいけれど煌きのある物語が語られている。
その物語はお菓子のようで、細部まで丁寧に煌びやかに飾られ、時にひたすら甘く、時に上品な味わいで、時にほろ苦く、洋菓子のシャープさや、焼き菓子の暖かさや、和菓子の風流さを味わうことができる。主食のような力強さや、スナック菓子のような軽やかさには欠けるが、宝物のような輝きが満天の星のように降り注いでいる。
クリスマスを舞台とした「ローズキャンドル」は「マッチ売りの少女」をモチーフにした作品。”私はマッチ売りの少女の夢のこっち側に住んでるんだなあ”と言う知世の言葉はとても切ない。
「コレクションボックス」は知世が可愛い箱を集めるように、信吉が亡き妻の想い出や彼女の印象に近い雰囲気を持ったものを集めずにいられないという話。「熱い」愛というよりも「深い」愛を示すもの。書き下ろし。
「ラウンドテーブル」は信吉の大学時代の仲間で、世界中を放浪している男が訪ねて来る話。信吉と知世の家族の姿に、自分が手に入れなかったものを見る。”いったん選択したらそれに関わるすべてを受け入れなきゃならないけどね”という信吉の言葉は、エピソード51「ピンク ストローハット」で語られた”たぶん我々は何かを得れば何かを失うんだよ””大きなものを得れば失うものも大きい”と同じ理念によるものだ。何かを選ぶということは、選ばなかったものを失うということ。それは一念発起しての選択であろうと、日々の出来事の中の些細な選択であろうと変わらない。その選択を自分で引き受け、他人のせいにしないために、読書や様々な芸術に触れ、人々の心を知り、日常の中から様々な発見をして、自分を磨き上げる必要がある。もちろんそれは決して楽な生き方ではないし、常にそうできるものでもない。それでもなお、そうした生き方を目指すこと、それがこの作品のテーマと言えるだろう。書き下ろし。
「コズミックランチ」は博物館で、未来から現代にやって来たという設定で会話する信吉と知世を描いた8ページの短編。知的な会話遊びが楽しい。
「フラワーハンドル」は、「親子いっしょのケーキ教室」に参加する約束をしたのに照れくさくなってキャンセルした信吉が、代わりにケーキを焼こうとする話。母と娘のケーキ作りというメディアの刷り込みを気にする姿はどう見ても親ばか。参加できなくて落ち込む知世だが、その訳はお得だったのにといういかにも彼女らしい理由だった。書き下ろし。
「エンジェルズアイ」はレトリーバー系の犬たちが人々を癒す姿が描かれる。宇宙のWHOから派遣されたエイリアン説を唱えるとろこは知世の面目躍如。すっかり宇佐美氏のカウンセラーとなっている知世も可愛い。
全国コンクールで金賞に輝いた知世のポスターが盗まれた話を描く「スノースケープ」。悲しい気持ちを振り払うために、宇宙船ごっこをする知世。雪の惑星にたどり着いた彼女にポスターが見つかったという知らせが届く。
「フラワークロック」は転んで膝に大きな青あざを作った知世の話。大騒ぎする信吉に対して、全く平気な顔をしている知世。知世の想像はノーベル賞授賞式にまで達するのだった。書き下ろし。
「ストロベリーキャンドル」は「フラワーハンドル」と同じように知世と信吉の想いの差を描いている。二人で美術館のはしごをして、信吉は自分の好きな作家の作品を知世が気に入ったことに喜ぶが、知世は父が喜びそうな言葉を言ってあげたに過ぎない。知世のこのような態度は、西原理恵子が『毎日かあさん』で娘の他人に自分を良く見せようとする言動を描いているのに通じている。これもまた女の子らしいと言うべきだろう。
北原さんの出番がなかった!といった不満はあるものの、いつものこの世界に触れられてただただ嬉しい限り。現在は不定期連載&書き下ろしという形になっていて、単行本も巻数明記のものとは違う形式になってしまった。次が読めるのがいつになるやらさっぱり不明で、刊行ペースも相当遅いが、それでも終わってしまったわけではないから希望は持てる。
何度も何度も繰り返し読んだ作品ではあるが、最近は読み返していないので、久しぶりに一からちゃんと読みたいという気持ちは募っている。しっかりと感想を書くことができれば尚いい。ただそれだと時間が掛かるので、時間の確保の問題ができてしまうが。機会があれば……。