福岡で学会を開催中の日本原子力学会はでは、東工大の二ノ方教授が「自分たちが安全神話を生みだしたといわれてもやむを得ない」との発言があった(テレビ・ニュース報道→
http://www.youtube.com/watch?v=w5-VgWLNTbc)。
また報道で伝えられているところでは、津波の専門家である首藤東北大名誉教授を招いて講演会を開催している様子が流された-会場はガラガラだったが。
このような姿勢からは一見、原子力学会の関係者が真摯に反省しているかに見える。
しかし以下の声明をみると到底そうはいえないことが見て取れる(スクロールして下の方を見ていただければ、プレスリリース全文を引用してあります。①②③の数字は筆者が便宜上つけたものです)。
以下の声明文は2011.7.7日、つい2か月ほど前にプレスリリースとして出されたものである。
タイトルは
「福島第一原子力発電所事故「事故調査・検討委員会」の調査における 個人の責任追及に偏らない調査を求める声明」である。個人的には、この期に及んで当事者の一角をなすともいえるこの学会が、「何をかいわんや」という気持ちであるが、少し詳しく見ていくことにしよう。
(→
http://www.aesj.or.jp/info/pressrelease/pr20110707.pdf)
私はこのプレスリリースの中で三か所気にかかった文章があった。以下ではそれを順を追って検討したい。
まず①の赤字部分「
①これまで、我が国の重大事故の調査においては、本来組織の問題として取り上げられるべきことまでが個人の責任に帰せられることをおそれて、しばしば関係者の正確な証言が得られないことがあった。」とは何のことか。
これはつまり責任ある個人が自らへの責任追及を恐れて真実を隠ぺいしたということではないのか?
また「本来組織の問題として」というのは、日本の組織社会の中で個人の責任をごまかすための常套句ではないか。その「組織」を構成し、行動し、発言し、決定した・あるいは決定と実行に関与した「個人」としての責任が、そこに存在しないはずがない。それを明晰に区分し、各々の責任の軽重を明確にすることこそ重要なことではないのか。
次に②の赤字部分を見てみよう。「
②今回の事故調査においては東京電力㈱福島第一原子力発電所及び原子力防災センター(OFC)等の現場で運転、連絡調整に従事した関係者はもとより、事故炉の設計・建設・審査・検査等に関与した個人にたいする責任追及を目的としないという立場を明確にすることが必要である。」と言っている。
つまり福島第一原発の始まりからプロセス、そして最後まで、かかわった人間を全て免責しろと言っているのである。
そして最後の③の赤字部分。事故調査を行う畑村委員長はつぎのとおり。すなわち「
③既に畑村洋太郎委員長が就任時の抱負として「責任追及は目的としない」方針を示しているところである。」
何と物分かりのいいことだろう。原子力学会の会員―それは大学の研究者にとどまらず、関連企業のトップ・役員や、エネルギー産業関係者、官僚も含まれる-はみんなこのお墨付きをもらって安心したことだろう。
組織の構成員の一人だったから、その組織の一部を構成する個人として発言したり、関わったりしたことについては、それがどれほど悲惨な結果をもたらし、多くの命を奪い、将来にわたって多くの禍根を残そうとも、その原因をなした個人の責任を追及しないというのである。また過去において、個人が責任逃れのために真実に口をつぐんだことについて、その個人を批判するのではなく、責任を追及したことに問題がある、というのである。
物事の結果には原因がある。
それが社会の中で、多くの人間のかかわりの中で生じたことであれば、原因を生みだした人が必ずいるはずである。
原因の徹底追及は、それに基づいてより良い「技術」を生みだすためだけに行うのではない。
今回の問題には、明らかに膨大な利権、政治的圧力、事実の隠ぺい、世論工作等、利権とかかわった多くのことがかかわっている。福島原発の計画から竣工、そして今回に至るまで、それが単なる「技術」の問題では済まないことは-先日9/18放映のNHKのドキュメンタリー-でも明らかなところである(→
http://blog.goo.ne.jp/baileng/e/5b60663842be4881bb490d326bca1239)。
あらゆる関係者を徹底的に追求しその個人としての刑事責任を取らせることこそ、後世に再び過ちを繰り返さない礎になる。
考えてもいただきたい。もしその個人が罰せられなければ、何をやっても地位も収入も失わないのだ。誰が深刻にとらえるだろう。何よりその原因そのものであったかもしれない個人が、社会的影響力を持ち続けることになる。その社会が過ちを繰り返さない社会になりうるだろうか。
日本原子力学会には反省はない。彼らはまず自分たちを免責し、次にそれを社会全体に周知徹底しようとしている。
その学会の会長・副会長は以下の通り。(学会HPより→
http://www.aesj.or.jp/index.html)
日本原子力学会会長・田中知東大工学部教授
副会長・澤田 隆 三菱重工業㈱
野村茂男 独立行政法人 日本原子力研究開発機構
堀池 寛 大阪大学
言語道断。
*日本原子力学会の7月7日のプレスリリース
「福島第一原子力発電所事故「事故調査・検討委員会」の調査における
個人の責任追及に偏らない調査を求める声明
東京電力㈱福島第一原子力発電所事故に関する事故調査・検証委員会が事故原因の調査を進め
ている。
多くの被災者の皆さまに対する責任はもとより、我が国がこのような重大事故を起こし
てしまったことに対する国際的責任を果たすには、事故原因の徹底的解明は不可欠である。
そのためには事故対策に当った政府並びに東京電力の関係者の正確で詳細な証言が必須となる。
しかし、
①これまで、我が国の重大事故の調査においては、本来組織の問題として取り上げられるべき
ことまでが個人の責任に帰せられることをおそれて、しばしば関係者の正確な証言が得られない
ことがあった。今回、もしそのような理由から十分な原因究明が行われないこととなれば、重要
な技術情報を得る機会を失うこととなる。
②今回の事故調査においては東京電力㈱福島第一原子力発電所及び原子力防災センター(OFC)
等の現場で運転、連絡調整に従事した関係者はもとより、事故炉の設計・建設・審査・検査等に
関与した個人にたいする責任追及を目的としないという立場を明確にすることが必要である。
この点については、
③既に畑村洋太郎委員長が就任時の抱負として「責任追及は目的としない」
方針を示しているところである。
日本原子力学会としては、この方針に則り、また、学術会議報告書にも述べられているとおり、
結果だけをみて直接関与した個人の責任を追及するのではなく、設置者のみならず規制当局等も
含めた組織要因、背景要因などについても明らかにされ、関係者間で共有されて再発防止に活か
されることが重要と考える。今後の調査において、事故関係者からの証言聴取が、国際的に整合
性を持った手法で、実効性を最大限高めるべく進められることを求める。
参考文献:日本学術会議人間と工学研究連絡委員会安全工学専門委員会」