べそかきアルルカンの詩的日常“手のひらの物語”

過ぎゆく日々の中で、ふと心に浮かんだよしなしごとを、
詩や小さな物語にかえて残したいと思います。

まるでメープルシロップのような

2007年08月05日 18時45分11秒 | 慕情
おぼえていますか?
あれは春のおわりと夏のはじまりがふうわり溶けあった
まるでメープルシロップのような季節の出来事でしたね

ぼくらは夜の海原に青く澄んだガラスの小舟を浮かべ
なにをするでもなく ただぼんやりと
時のうねりに身をまかせていたのです
静かな波音に耳をかたむけながら・・・・・

あの夜
うす暗がりの中で耳にした波のささやきは
遠い昔どこかで聴いた子守唄のように
あまく せつなくぼくらの胸をみたしてくれましたよね

海岸の砂丘の上には
あわい黄金の光につつまれたまん丸お月さまがひとつ
所在なげにぽっかり浮かんでいましたっけ
そのあまりに重量感のないまん丸さは
ちょうどほど好い丸さかげんとでもいうのでしょうか
思わず笑みがこぼれてしまいましたね

月のあかりを照りかえす海のおもてはとろりとして
ぼくらの乗った船べりに
ゆるゆるまとわりついてくるようでした

渚の砂粒がおだやかな波に洗われて
小さな寝息をたてているころ
そんなふうにぼくらは長いながい時を
なにも語らず 黙りこくって
ただただ美しい沈黙の中で過ごしていたのです

そうそう
あれはカンパネルラの星が
ぼくらの真上にさしかかるころのことでした
どこからかクジラの歌声が聴こえてきましたよね
哀愁をおびたその声は
高く低く 
いまも消えずにぼくの鼓膜をふるわせているのです

きみは気づいていましたか?
月の光をあびたその愛らしい横顔に
ぼくの狂おしいまなざしが
秘かにそそがれていたことを

きみに恋していたぼくと
ぼくではないだれかに想いを寄せていたきみが
小さな手漕ぎの舟にのって
永遠を繰り返す波間をたゆたっているさまは
いま思い返してみても
なんとも不可思議な光景でしたよね

あれは夢とうつつがふうわり溶けあった
まるでメープルシロップのような
あまく せつない出来事でした

季節の狭間で 
月夜の海原にひとり取り残されてしまったぼくは
これからもずっと
月あかりに浮かぶきみの横顔を
静かに想い続けることでしょう

夢とうつつのあわいで
これからもずっと この先もずっと
たったひとりで





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コメント (2)    この記事についてブログを書く
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2 コメント

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素敵過ぎます。 (ふみかつ)
2007-08-16 01:55:06
溶けます。。。。
本当に。。。
贅沢な時間です。
あなたの詩は。
返信する
Unknown (べそかきアルルカン)
2007-08-20 20:36:25
ふみかつさんへ

いつもありがとーございます。

毎日暑くて、ホントとろけちゃいそーですネ。
返信する

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