脚と角

関西を中心に国内外のサッカーシーンを観測する蹴球的徒然草。

喜怒哀楽の真髄は蹴球にこそ有り。

直径33cmのボールを追いかけて

2010年01月31日 | 脚で語る奈良クラブ
 国内サッカーの様々なカテゴリーではシーズンオフの現在、電動車椅子サッカーではシーズン真っ盛り。この日は、奈良県心身障害者福祉センターにて奈良クラブビクトリーロードと大阪のファインフレンズとの試合が行われた。

 

 奈良クラブビクトリーロードの活動開始時期は1994年。当時関西では2番目のチームとして起ち上がった。その後2002年、2003年と日本選手権を連覇。2007年にはチームを率いる重松監督と3名の選手が日本代表として第1回のFIPFAワールドカップで世界第4位の戦績を収めている。
 現在、電動車椅子サッカー関西ブロック協会に加盟するのは10チーム。2部制でジョージ・シャドー杯(JS杯)というリーグ戦を戦っている。1部のJS1は、現在4チームでの戦いが繰り広げられており、現在2試合を終えて奈良クラブビクトリーロードは2連敗と苦戦中。何とか今季初勝利を挙げるべくホームでもある場所でファインフレンズを迎えることとなった。

 
 試合前にはきちんと両チーム整列。緊張感が漂う。
 もちろん、しっかりレフェリーも。

 試合は20分ハーフ。1チームの出場人数は4名(以下)。このリーグでは電動車椅子の速度が6kmと定められている。この競技で目を引くのは2-on-1(2対1)ルールだ。これは、ボールを保持している攻撃側の選手1人に対して、相手チームの選手が2人以上、半径3メートル以内のエリアに入ると反則となるというもの。つまり基本的には攻守で1対1の場面が目立つことになり、このルールがまた電動車椅子サッカーの独特の面白さを作り出しているのだ。
 試合が始まると、電動車椅子同士が激しくぶつかる衝撃音が体育館中にこだまする。奈良クラブビクトリーロードはこの日、日本代表経験もある田中、林が欠場。監督の息子でもある司令塔・重松を中心に試合の主導権を探る。

 
 試合は両チームの司令塔がスキルフルな攻防で火花を散らす。
 奈良の重松の前には常に相手の7番が執拗なマークを見せる。

 驚くべきは選手たちのそのボールコントロールと駆け引きの妙である。電動車椅子サッカーでは従来のサッカーと違って走力の差がなく、カウンターはほとんど通用しない。しかし、スペースを使った巧みなボールコントロールと選手たちのポジショニングで試合は動いていく。前述した2-on-1ルールも考慮しなければならない。白熱のゲームは、ファインフレンズの攻勢で0-0のまま前半を終えた。

 
 
 CKは貴重なチャンス。
 巧みな車椅子のコントロールからボールを配球。
 相手ゴール前の守りは予想以上に固い。

 後半に入って重松、小阪らが起点となり、前かがりになる時間が少し見られるようになった奈良クラブビクトリーロードだったが、ファインフレンズはダイレクトプレーを機能させ、その隙を突く。後半10分に右サイドからシュートを決めると、後半17分には相手の司令塔・7番のクロスを両チームで唯一の女性選手がダイレクトシュート。これが追加点となってファインフレンズが2-0と勝利を収めた。特にこの2点目のシュートは圧巻。抜群のコンビネーションとコントロールだった。

 
 試合が終わると一転和やかな雰囲気に。
 敵味方関係なくこの後に練習を兼ねたゲームを行う。

 
 選手たちの感想は「しょっぱい試合でした」。
 これで入替戦へと回る奈良は試合後しっかりミーティング。
 なんとかJS2降格を避けたい。

 残念ながら今季のJS1では3連敗となってしまった奈良クラブビクトリーロード。かつての名門が不振に喘いでいる様子だ。しかし、この試合では連携面や基本テクニックで明らかにファインフレンズの方が上回っていた印象。奈良はやはりベストメンバーでなかったのが痛かったのかもしれない。

 試合後に監督に勧められて、電動車椅子サッカーを体験させてもらう。コントロールレバーが実に敏感で容易に車椅子のコントロールができない。ボールに触れるのも一苦労だ。世界レベルでは、車輪とフットガードの間にボールを挟み込んで自在にドリブルをする選手もいるという。同じサッカーでも全くの別世界。納得させられる競技としての面白さがそこにはあった。

 ボールは直径33cm。かなり大きい。しかしながらそのボールを追いかけてゴールを目指すという点ではサッカーはサッカー。指導者や選手たちの熱意に圧倒され、底冷えのする体育館での足の冷えを忘れてしまうひと時だった。