今の日本の抱えている課題を、世界政治・経済の中で、そして国内の腐敗の問題も交えて論じた内容。もっともだなぁ、と思う箇所(正直ほとんどもっともだとは思うのだが)が多い反面、まぁ、20年やそこらでは実現しないのだろうな、と感じてしまった。今すぐ取りかかることができる内容も少なくない(技術的な課題や、原資の有無を考えた場合の話)、今の日本の国民性を考えるに、そのほとんどが、実現されることはないんだろうな。
大前さんも、自分でこの内容を言わずに、別の人に言わせればよかったのに、とは思う。いつも自分自身だけで言ってしまうものだから、仮に賛同する有力者がいたとしてそれを実現に向けて動いたところで、大前の言うとおりしている、とか大前の手柄だ、とか言われるのを考えてしまうのではないか?こういった本格的な改革(それをしなければ、将来の国が危うい)案については、本来は、国のリーダーの横で助言し続けるべきことなんだろう。
残念ながら、想定されるだろう読者(大前研一ファン、一部の社会に興味のある良識ある人々、経済に関心のある社会人、といったところ)が、この本を読んでも、それは誰かがやってくれること・・とか感じてしまう内容ではないか、と感じてしまう。
様々な改革案があるが、それらを実現するためには、お金が必要。10兆円規模のファンドを作るにしてもお金が必要だし、人にお金を使わせるためにもお金が必要となる。フラットタックスにするのは、案外、低コストで実現できるかもしれないが、それでも様々なコストはかかる。
端的に言えば、本書では、日本の個人金融資産1500兆円について、これらがどんどん消費や投資に向かえば、日本の世界における地位も取り戻せるし、国内の世代間の経済格差も解決に向かう、ということを言っている。これが動けば、どうなるどうなる、という話がいろいろ展開されているわけだ。
一方、改革を進めるための抵抗勢力というのが利権を持っている連中であり、国内利権ばかり見ているから世界からおいていかれているんだ、ということも言っている。船頭ならぬ利権にしがみついている人が多くて船が沈むということになってはいかん、というわけだ。翻って、1500兆円、って誰が持っているのか?という議論だが、平たく言えば高齢者がため込んでいるという話。だから、高齢者にお金を使ってもらいましょう、と。
ここからは、私の考えだが・・。その1500兆円を持っている高齢者って誰よ?って話をしていないなぁ、と感じている。おしなべて高齢者がお金を持っているというのならば、大前氏の議論もまぁ、実現できるのかもしれない。けれども、お金を持っている高齢者というのは、その多くが利権で蓄財してきた人ではないか?と思うのだ。貧乏で孤独な高齢者だって少なくない(もっとも、孤独な中にはそうした人でも将来を不安がって蓄財している人もいないではないだろうが)。自らが利権の構造で蓄えてきた人が、利権構造を壊すためにお金を出すだろうか?
心理経済学だなんて言うならば、そうした利権依存の人々の心理を解きほぐして、より効率よい社会運営を目指せるような誘導法を提案して欲しかった。氏の提案内容は、あまりに真っ当すぎる気がしてしまったのだ。黒(灰)色に対して、白をぶつけているようなもの。実現できればよい理想だが、当分混じることはないだろう。氏は相続税をなくして資産課税にしろ、と言っているが、私は利権の相続に課税ができないか?と思うのだ。サラリーマンにもバランスシートをとか、まぁ、できたらいいな、とは思うことを訴えるより、相続できる利権について、キャッシュフローで現在価値を推定し、その相続時の価値をもとに課税してしまえば、と考える。資産だって同様に評価されているわけだから、利権(自由競争にはさらされていないもので、維持するために努力をあまり必要としないもの)について、相続(贈与)する度に税金を徴収する仕組みだって実現可能だろう。
公益に貢献するための規制業種については、その税率を下げればよいだけのこと。例えば、(外れているかもしれないが)、医者、それもオーナー系の民間大規模病院などは、一族で安定して医療サービスを提供するための努力を続けているからこそ、価値が果たせるのだろう。
この提案の目的としていることは、ずばり、どこにどういう利権が存在しているかを明かにする、ことに他ならない。推測で、利権があってその人々が抵抗しているから、それをなくせ、と言っても、今回の郵政民営化のように隠れた利権を持ち続ける、ということが起きてしまうわけなんだし、いっそのこと、利権を見える化する方が、将来に遺恨を残さないだろう。
それだけ利権の構造が見えるようになり、利権に課税されるようになると、そうした非効率な体質に依存すること自体が、減ってはこないだろうか?
豊臣秀吉がやったという、太閤検地や刀狩りのような世の中の見える化を推し進めないことには、本当に打つべき手が見えてこないのではないかと思う。もっとも、今回の本は、港湾の問題や道路行政など、触れてはいるけれど、まだまだ、彼の知らないような利権がいっぱいあるのだと思う。
うーん。こうして書いてきたが、利権ってそもそもなんなんだろうね?何代も前から受け継いで来た土地は利権か?と言われると違うと言いそう。漁業権とかいうのも、利権かと言われると違うと感じる。どうやら、利権ってものを明確にすることが先に必要なんだろうな♪