あの青い空のように

限りなく澄んだ青空は、憧れそのものです。

みをつくし料理帖 『夏天の虹』 を読んで

2012-03-18 21:02:16 | インポート

やはり、このシリーズは、いいですね。主人公の澪はもちろんですが、登場人物一人一人が人間的な魅力をもった存在です。善人という言葉でひとまとめにはできない、温かく人情味のあふれた人々が、物語の世界を深みのある世界にしています。ふれあう思いや通いあう心情が、澪が苦難を乗り越える時に、響き合い、その励ましや支えとなります。日々の生活の中で忘れてしまいがちな情の大切や温かさが思い出され、心の中まで温かくなってきます。

窮地に陥った澪に、周りの人々の語りかける言葉が、何よりの励ましとなり支えとなります。

料理の番付で関脇の位置にあった「つる家」が、番付から姿を消すことになります。そのことに精神的にも肉体的にも打ちのめされた澪に、源斉はこう語りかけます。

「~医師見立、と呼ばれる番付が、医師にもあるのです。実は私は、その番付に一度も載ったことがありません。……目の前の患者を病から救うこと、それこそが医師の本分です。医師としての真の喜びは、本分を全うすることでしか得られません。番付に載ることが、即ち喜びでは決してない。……番付から外れたことで、多くの人を失望させてしまった。--澪さんは、そのことが何より辛いのでしょう。ひとの想いを大切に扱うことは間違いではない。けれど、その思いに押しつぶされてしまわないでください。料理人の本分は、その喜びは、きっと別のところにあるはずです。~」

源斉のこの言葉が、澪を 料理人としての本分に立ち戻らせてくれます。番付に店の名が載ることではなく、目の前にいるお客が喜んでくれ、食することの楽しさや幸せを感じてくれるような料理をつくることが 目指す料理人としての本分であったことに……。

料理人として大切な 匂いも味もわからなくなり、つる家に自分が必要ないのではないかと落ち込んだ澪に、名料理屋、一柳の店主の柳吾が、瀬戸物屋に連れて行き、こう語りかけます。

「~匂いと味がわからないのは、料理人にとって確かに試練でしょう。だが、鼻と舌が眠っている間に、すベきことはあるはずだ。……あなたは先ほど、『もっとよく見よ。』との私の助言を受け、器を叩いてその音を聞き、撫でてその感触を確かめた。器に何を盛り付けようか、考え悩んだ。鼻と舌以外で料理への理解を深めようとした。その姿を見て、嘉兵衛さんが何故、あなたに天満一兆庵の再建を託したのか、理解しました。その姿勢を失わない限り、たとえ何処に身を置こうとも、何が起ころうとも、必ず道は開けるでしょう。~」

料理人としての道をあきらめかけた澪にとって、なによりの力強い支えとなる言葉でした。

しかし、澪にとって過酷だったのは、失った味覚と嗅覚を取り戻すきっかけとなる出来事でした。支えとなる人が支えとなる人を守るために命を落とす場面を目の前で見ることで、その感覚がよみがえったのです。

一つ一つの試練を乗り越えていくことで、澪は一人の料理人として一人の人間としてこれからも大きく成長していくのでしょう。

半年に1冊の予定で発刊されてきた『みをつくし料理帖』のシリーズも、今回が7冊目となります。後の付録を読むと、次号は1年後の発刊になるとのこと。それまで待ち遠しくもありますが、主人公:澪の活躍と健やかな成長を心から願い応援していきたいと思います。