今日から5月です。この時期になるといつも浮かんでくるのが,まどみちおの詩『空気』です。
特に,3連目の「5月 ぼくの心がいま すきとおりそうに ・・・・・・ 」 の詩句は,5月のさわやかな空気を吸い込み,生き生きとした新緑を目にするたびに,頭の中に浮かんでくるフレーズでした。
被災された方々にも,5月の空気が内側からさわやかな力をもたらしてくれるといいのですが…。
天声人語に,「北上する桜前線が人を励まし慰めた」と書いてありました。
岩手県大槌町の花見会で,樹齢100年の根元のひこばえに小さな桜が咲いていた。避難所で暮らす小国ヤスさん(79歳)は,かがみこんで桜を見,「上ばかりじゃなく,下を向いて見つけるものだってあるんだなあ」と思ったそうです。
下を見ることは,現実を見ることにつながっていくのでしょうか。その下に咲いている小さな桜は,現実の向こうに見える希望の灯のようなものだったのでしょうか。春を告げる花々や生命力あふれる新緑,そして5月のさわやかな空気が,新たな力を多くの人に与えてくれる5月であってほしいものです。
山田町の高台にある避難所で暮らす佐藤啓子さん(33歳,軽い知的障害がある)は,鎮魂の詩を書いたそうです。
流れた人はずっと海にいる訳じゃないよ
かぜひくよ
お空になり
太陽になるよ
みんなを守ってるから
みんなも海とお空を見ようね
だから,空はあんなに広いんですね。澄んだ色をしているんですね。だから,太陽もあんなに明るく輝いているのですね。暖かい光を生きとし生けるものに分け隔てなく注いでくれるんですね。みんなを守っている亡くなった方々の広さと温もりを,忘れないようにしっかりと心に刻んでおきたいと思います。
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空気
まど みちお
ぼくの 胸の中に
いま 入ってきたのは
いままで ママの胸の中にいた空気
そしてぼくが いま吐いた空気は
もう パパの胸の中に 入っていく
同じ家に 住んでおれば
いや 同じ国に住んでおれば
いやいや 同じ地球に住んでおれば
いつかは
同じ空気が 入れかわるのだ
ありとあらゆる 生き物の胸の中を
きのう 庭のアリの胸の中にいた空気が
いま 妹の胸の中に 入っていく
空気はびっくりぎょうてんしているか
なんの 同じ空気が ついこの間は
南氷洋の
クジラの胸の中に いたのだ
5月
ぼくの心が いま
すきとおりそうに 清々(すがすが)しいのは
見わたす青葉たちの 吐く空気が
ぼくらに入り
ぼくらを内側から
緑にそめあげてくれているのだ
一つの体を めぐる
血の せせらぎのように
胸から 胸へ
一つの地球をめぐる 空気のせせらぎ!
それは うたっているのか
忘れないで 忘れないで……と
すべての生き物が兄弟であることを!