あの青い空のように

限りなく澄んだ青空は、憧れそのものです。

コスモスの花を見て思うこと

2010-10-06 21:52:09 | インポート

コスモスの花が咲き始めました。

青い空を背景に、コスモスを見上げると、文字通り「コスモス=宇宙」といった感じに見えるような気がします。

コスモスの花を見ると、思い出す物語があります。今西祐行作の物語「一つの花」です。4年の教科書に掲載されている物語です。

コスモスは、この物語の二つの場面に重なって見えてきます。

一つは、戦地に赴く父親が、幼い娘:ゆみ子に一輪のコスモスを渡す場面です。「一つだけ」といってねだる娘に対して、父は食べ物がないので、プラットホームのはしっぽに忘れられたように咲いていたコスモスの花を見つけあげることにします。娘は、足をばたつかせて喜びます。父は、娘のにぎっている一つの花を見つめながら戦地へ旅立ち、二度ともどっては来ませんでした。

もう一つは、それから十年後の場面です。ゆみ子の住むとんとんぶきの小さな家が、コスモスの花でいっぱいに包まれています。そして、そのコスモスのトンネルを買い物かごをさげ、スキップしながらくぐって出てくるのが、ゆみ子です。

戦時中は、配給される食べ物も十分ではなく、食べざかりのゆみ子にとってはいつも空腹の状態が続き、母親は「じゃあ、一つだけよ。」と言いながら、自分の分から一つだけあげるようにしていました。その母親の口ぐせを覚えたゆみ子は、「一つだけ…」といって食べ物をねだるようになってしまったのです。父は、そんなゆみ子を見て、「この子は一生、みんなちょうだい、山ほどちょうだいと言って両手を出すことを知らずに過ごすかもしれないね。…」と思います。

そんなゆみ子との別れの場面で、父があげた一輪のコスモスをゆみ子は喜んでくれたのです。

戦争中、だれもが目を向けることさえ忘れていた花をもらって、娘は喜んでくれました。おなかが満たされるものではない花をあげたのに、喜ぶ娘を見て、父は安心したのです。戦時中でありながら、花の美しさを感じて喜ぶ娘を見て…。だれもが、花の咲いていることにさえ目を向けない時代でしたから。

また、花は一つからたくさんの種ができ、その種が発芽してたくさんの花を咲かせます。十年後の世界は、まさにひとつのコスモスからたくさんのコスモスの花が開く美しい世界になります。一つの花がたくさんの花に広がることの意味を、ゆみ子はしっかりと理解できる娘に成長していました。

コスモスの花を見ると、この物語の父の思いがコスモスの花の向こうに見えるような気がします。