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3月の上海ミュージカル~中国版「ドリアングレイの肖像」初演と「スリル・ミー」(危険遊戯)最終公演

2023年04月06日 | エンタメの日記
中国は2023年1月8日からコロナの扱いが日本でいう「5類」(季節性インフルエンザなどと同等の扱い)に引き下げてられており、現在コロナによる規制はほぼない状態になっています。
春に入りエンタメ、商業イベントがどんどん増えており、週末の上海は郊外や近隣都市から遊びに来る人で溢れています。また、海外アーティストの渡航も解禁され、5月頃からは海外アーティストの来中公演も再開される予定です。

3月上旬に上海大劇院でミュージカル「ドリアングレイの肖像」を観ました。「ドリアングレイの肖像」は世界中で何度も舞台化されていますが、今回上海で上演されたのは、2016年に元東方神起/JYJのキム・ジュンス主演で上演された韓国ミュージカル『ドリアン・グレイ』(韓国イ・ジナ演出)の中国版です。

ミュージカル「ドリアングレイの肖像」 2023年3月3日〜3月12日(全10公演) 上海大劇院 
演出:イ・ジナ(李智娜) 作曲:キム・ムンジョン(金紋延) 中国側監督:周可 12名で構成される生バンド演奏付き。


主演のドリアン・グレイは叶麒聖(叶麒圣)と張澤(张泽)のダブルキャストです。
叶麒聖は1990年生まれ、張澤は1994年生まれ、大舞台での実績は叶麒聖の方が豊富です。張澤は最近「カラマーゾフの兄弟」(Kミュージカルの中国版)のスメルジャコフなど当たり役に恵まれ評価が急上昇している俳優です。天性の広い音域を持ち、若手の中では歌唱力が突出しています。
主演の2人を支えるべく、相手役のキャストも充実しています。
ヘンリー:劉岩、蔡鵬
画家バジル:余笛、胡超政、胡迪
シヴィル:劉浩冉、崔恩尔 (いずれもダブル・トリプルキャスト。固定の組合せではなくシャッフル)

ドリアングレイ:叶麒聖  バジル:胡超政


ドリアングレイ:張澤  ヘンリー:劉岩


ドリアングレイを演じた叶麒聖はKPOPアイドルのようなルックスの美形です。何もせずに立っているだけで「美貌の青年・ドリアングレイ」に見えます。
一方、張澤の方は、演技と表現力によって「ドリアングレイ」という異質な美形像を作り上げており、張澤のドリアンの方が面白かったです。
身長は二人とも180cmくらいですごく細身です。張澤は特に体型管理に気を遣っているようで、アンサンブルの男性ダンサーと並ぶと異様なほど細く見えました。
叶麒聖も決して悪くないのですが、叶麒聖はもっとこの手の役柄がハマるだろうと思っていたので、期待過剰だったかもしれません。解釈と表現力で役を引き寄せた張澤の舞台の方が見応えがありました。
なお、作品として背徳的な要素は意外と薄く、問題になるようなきわいどい表現は基本的にありませんでした。
劇中で、ドリアンの恋人である女優のシヴィルが舞台で大失敗し、それを観客がこき下ろすというシーンがあります。そのときの歌詞がまさにミュージカルオタクの心境そのもので、自虐的な大爆笑が起きました。初日は特に客が妙に陽気で、本来笑うところではない箇所で笑いが起きたりして、初日なので観客が思っていることが自然と態度に出てしまっていました。

3月12日、上海で3年近くに渡って長期上演されてきたミュージカル「スリル・ミー」(中国名:危険遊戯)が最終公演を迎えました。
最終シーズンは中劇場「上海共舞台」で2023年1月18日から3月12日まで、約60公演が上演されました。
「スリル・ミー」は「彼」(リチャード)と「私」(ネイサン)の男性2人芝居です。最終シーズンは「彼」役に6名、「私」役に8名の俳優がキャスティングされ、そのうち「彼」と「私」の両役を演じる俳優が4名もいるという超変則配役でした。
60公演の中には約20通りものペアがあり、あまりにも変則的で、ぶっつけ本番でやってるんじゃないかと思うような状況でした。

「危険遊戯」最終シーズンのカウントダウンポスター。残り1公演。6名の「彼」と8名の「私」に加えて、卒業公演が延期になった王培杰×冒海飛ペアを含めた合計18人のポスター。


中国版「スリル・ミー」は最終シーズンを迎えるにあたり、また演出が変わりました。
2022年秋冬公演では、同性愛的表現、犯罪に関わる表現(特に子供を誘拐して殺しておきながら親を脅すというくだり)が規制され、歌詞や小道具、犯罪シーンの変更を余儀なくされました。
最終シーズンでは、犯罪表現は修正されたままでしたが、同性愛表現が大幅に復活し、結果的に完全な耽美ミュージカルとなりました。
原版の「スリル・ミー」からは大きく乖離し、「同性同士が恋愛のために犯罪に手を染めていく」という劇になっていました。
中国版「スリル・ミー」(危険遊戯)はとにかくリピーターの多い公演で、足掛け3年で100回以上観ている人もザラにいます。
2ヶ月に渡る最終シーズンでは、運営面でも公演面でも「なんじゃこりゃ」と思う場面も多かったのですが、感動やサプライズもあり、俳優たちはファンに暖かく見守られて「危険遊戯」を卒業していきました。

最終シーズンのチャレンジングな試みとして、4名もの俳優が「私」と「彼」の両役を演じました。
これまでずっと「彼」役を演じ、イメージ的にも「彼」の模範と認識されてきた俳優が「私」役を演じたのです。それは、上海ミュージカル界のベテランスター・劉令飛です。

劉令飛(リウ・リンフェイ) 1985年11月15日生まれ、上海出身、上海音楽学院卒業。身長は180㎝くらいだと思います。まだ37歳ですが、歴史の浅い上海ミュージカル界では最もキャリアが長い現役スター俳優の一人。現在は演出などプロデュースにも携わっています。5月には中国語版「オペラ座の怪人」(上海大劇院)でファントムを演じる予定。
劉令飛は中国俳優には珍しくアドリブが多く、独自の演出を取り入れることも多いです。

劉令飛が「私」役をやると公表されたときは、果たして観たがる人はいるのか・・・と不安視されましたが、実際に観てみたら素晴らしかったです。
さすがキャリアを積んでいるだけあり、本来合わないはずの役を演技力で自分のものにしていました。表現においても、若手俳優にはない大胆さがあります。あと、単純に歌がすごく上手いです・・・。

劉令飛の「私」(ネイサン)役(危険遊戯/スリルミー)


最終シーズンの「危険遊戯」は「耽美恋愛劇」になっていましたが、上手く演じていたペアもいます。鍾嘉城(ジョン・ジャーチェン)と夏陽(シァ・ヤン)です。
左:鍾嘉城「彼」 右:夏陽「私」


鍾嘉城:1997年生まれ、身長183cm、雲南省出身、上海戯劇学院演劇科出身。夏陽:2000年生まれ、貴州出身、大連芸術学院ミュージカル学科出身。身長は180cm弱くらいなのではと思います。
このペアはイマーシブ小劇場版「危険遊戯」で人気を集め、若手の夏陽も中劇場に抜擢されました。
夏陽は大学在学中の2020年頃から舞台に出ている俳優です。顔立ちが幼いわけではないのですが、すごく若く見える人です。
身長は180cm近くあると思いますが、体の線が細く、動く姿に若さが溢れ出ています。鍾嘉城とは年齢とビジュアルのバランスが良く、お互いが引き立つペアでした。
夏陽はキャリアが浅いので改善すべき点も多いですが、歌や芝居の素質はあり、成長が楽しみになる俳優です。夏陽が出る公演は全部通うというコアファンも結構います。
夏陽の「私」(ネイサン)卒業を祝うファン広告。地下鉄8号線「大世界」駅構内。


上海で活動しているミュージカル俳優さんたちはおしなべて背が高く美形です。
彼らはみな上海音楽学院や上海戯劇学院など難関芸術大学の音楽科、演劇科、ミュージカル学科などの出身で、これらの芸術大学の入学志願者は毎年多く、倍率が非常に高いため、一定以上の身長、頭身バランスの良さ、ルックスが備わっていないと、よほど特殊な理由がない限り書類選考で落とされてしまいます。
結果的に、すらりとしたスタイルで基本的なスキルを備えた毛並みの良さそうな俳優を多く生み出しており、破天荒なタイプはあまりいません。ある意味、宝塚に似ています。

中国のミュージカルは必ずカーテンコールがあり、カーテンコールは写真・動画の撮影が可能です。
カーテンコールの尺を長く取っている作品の場合、カーテンコールが10分以上あります。短くても2~3分はあります。
カーテンコールの間中、カシャカシャカシャカシャーーーーと、自動シャッターを切る音が劇場中に鳴り響きます。
音楽が止んでシーンとした瞬間になると、シャッターの音だけが響き渡り、恐ろしいほどです。
ファンは撮影後、画像ソフトで適度に修正し、Weiboや小紅書(RED)などのSNSにアップします。
上手く撮れている場合、俳優本人から「良く撮れているから写真を使わせてほしい」とSNS上で連絡が来ることもあるようです。

各公演の集客についてですが、公演によってばらつきが大きく、また、キャストによってもチケットの売れ行きが大きく異なります。キャスト人気に依存している側面が強いです。
また、劇場に足を運んでいるのは圧倒的にリピーターが多いです。リピーター客ほどカーテンコールと出待ちの写真撮影に傾倒していきます。
制作側は宣伝効果と集客確保のため、全般的にカーテンコールに力を入れており、本編はやや退屈なのにカーテンコールは素晴らしく豪華に作られていることもあり、「カーテンコール詐欺」だと感じることもあります。
多くの俳優が複数の演目を掛け持ちしており、全体的にキャストは過密スケジュールで、リハーサル不足を感じることも少なくありません。俳優が歌詞を間違えたり、セリフを飛ばしたり、小道具を落としたりと、小さなミスも多いです。カーテンコールに力を入れるんだったら、公演本編の完成度をもっと高めてほしいとも思います。

一方で、舞台美術や照明は先進的で、イマーシブ式の小劇場などは特に、劇場に足を踏み入れた瞬間に胸が躍るような創意あふれる空間設計がなされています。

イマーシブ式「サンタルチア」(桑塔露琪亚)韓国ミュージカル「ミオ・フェテッロ」の中国版。賭博場(カジノ)をイメージしたイマーシブ劇場。カジノ台の上で芝居が展開されます。場所:人民広場亜洲大厦の2階。


イマーシブ式ミュージカル「灯塔」(LIGHT KEEPERS/灯台)場所:人民広場亜洲大厦の2階。中国オリジナルのイマーシブ式ミュージカル。19世紀のイングランドが舞台。さびれた灯台を守る男と、海賊に憧れる孤児の少年、酒飲みの”船長”の物語。船の上に客席があり、その客席に座ると劇中で俳優とのふれあいがあります。真ん中の長身の俳優はリアリティショー「愛楽之都」に出ていた蔡淇(ツァイチー)です。蔡淇はすらりと背が高くすごくきれいな俳優です。


イマーシブ式ミュージカル「スリル・ミー」(危険遊戯) 場所:大世界4階。舞台上に大きな柱が2つある独特の舞台。2023年2月28日をもって終了。
リアリティショー「声入人心」シーズン2に出たいた毛二(マオアール)。1999年生まれ、中央戯劇学院出身。歌、演技ともに安定した実力を持つ将来有望な若手俳優。甘い顔立ちでトークも上手く明るいタイプ。


イマーシブ式ミュージカル「銀河鉄道の夜」(韓国ミュージカルの中国版)場所:人民広場亜洲大厦の5階(入口は漢口路側)。2023年5月いっぱいで終了予定。宮沢賢治の「銀河鉄道の夜」をモチーフにしていますが、ジョバンニが目が見えない設定などオリジナルの要素が強いです。
リアリティショー「声入人心」シーズン1に出ていた高楊(ガオヤン)。身長185㎝、足が長くスタイルが良いです。大学生のようなソフトなイケメンで、芸能人としてはある意味珍しいタイプです。
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