アグリコ日記

岩手の山里で自給自足的な暮らしをしています。

砂糖という薬物 2

2011-05-02 09:16:04 | 暮らし
 砂糖の主な2大原料作物はサトウキビ(別名「甘蔗」。カンショまたはカンシャと発音)とテンサイ(甜菜。サトウダイコンとも呼ばれる)である。他にサトウヤシやサトウカエデ、サトウモロコシがあるが、世界的な生産量はごく僅かでほとんど問題にならない。
 世界中で1年に生産される砂糖の約65%はサトウキビ,35%はテンサイから作られている。サトウキビは亜熱帯から熱帯地域で生産され、茎の部分に約15%の糖分が含まれている。またテンサイは比較的冷涼な地域で生産され、ダイコンのように肥大した根の部分に約16%の糖分を含んでいる。日本では北海道でテンサイが、南西諸島でサトウキビが栽培されており、国内の砂糖消費量のほぼ35%を自給している。
 サトウキビの野生種はインドから東アジアを中心に分布しているが、元々は北インドが原産地だとされている。野生種は栽培種のような甘みは持っていないらしい。それが次第に熱帯アジア地方に分布域を広げていき、突然変異か交雑かによって甘みを備えるに至り、今から1万年程前にニューギニア島周辺で栽培起源種(ロバスタム種)が生まれている。
 その後栽培種は拡散のルートを逆に辿ってインドに至り、紀元前2000年頃にはインドで砂糖が製造されている。その後インドの砂糖とサトウキビはアラビア人によってペルシャ、エジプト、中国などへと伝えられた。その後長い間、砂糖は洋の東西を問わず食品というより貴重な「薬品」として認知されている。16世紀にはイギリスの医学書にも「薬品」として名を連ねている。余談となるが、英語:sugar と、日本語:satou の頭部は、砂糖をあらわすサンスクリット語(SarkaraあるいはSarkkara)を語源とする。
 12世紀にポルトガル船がサトウキビをヨーロッパに持ち帰り、それを1493年、コロンブスが西インド諸島に移植する。それからヨーロッパに逆移入された砂糖は、当然のことながら当初最高級の贅沢品だった。王族や貴族・ジェントルマンなど超エリート階級のエキゾティックなステイタス・シンボルの趣があった。
 ところが新大陸で黒人奴隷による砂糖プランテーションが急拡大するにつれて次第に価格も下がり、17世紀にイギリスのコーヒーハウス(コーヒーだけではなく、紅茶やチョコレート(今で言うココア)も提供している)で用いられ、18世紀・産業革命の時代になると農民・労働者層にも広く浸透したらしい。ここに至って砂糖は、完全に日用品へと変わったのであるが、その背景には奴隷制という非人道的行為と、植民地からの資源収奪が根底にあった。この頃イギリスは世界で圧倒的な砂糖消費国だったし、特に紅茶に砂糖を入れて飲むという今日にも連なる習慣ができあがっている。砂糖は新大陸、紅茶は中国からの輸入である。
 因みに、中米の地酒とも言うべき「ラム酒」は、カリブ海で砂糖キビから砂糖を精製したあとに残る副産物である糖蜜を原料にした蒸留酒である。またこの同じ糖蜜がイギリス本国に輸入され、産業革命時代の労働者階級の家庭でそのまま蜂蜜の代わりとしても重宝されている。
 翻って日本に砂糖が伝来したのは奈良時代(8世紀)、唐からの帰化僧・鑑真によって初めて伝えられたとの説がある。しかし当時は遣唐使を介してしかもたらされない貴重な「医薬品」であり、もっぱら朝廷や貴族など特権階級の間で利用されるだけだった。
 15世紀頃から茶の湯の流行とともに和菓子が作られるようになり、また16世紀半ばには日明貿易によって砂糖輸入も盛んになる。1543年にポルトガル人が種子島に上陸してからは、砂糖を原料としたカステラ、金平糖などの南蛮菓子が入ってくるようになった。当時の大陸貿易の品目の中で砂糖は、生糸、絹織物、綿織物に次いで重要な輸入品だった。
 砂糖の利用がようやく庶民層にまで広まりだしたのは江戸時代。江戸時代の初期に、琉球・奄美に黒砂糖の製法が伝えられて生産が始まった。その後、喜界島、徳之島など南西諸島各地でサトウキビは栽培されるようになり、管轄していた薩摩藩に多大な収益をもたらした。
 しかし白砂糖を輸入するために幕府は年間莫大な金銀を支出していたため、それを問題視した八代将軍・徳川吉宗は、18世紀に砂糖の国産化を奨励する。琉球からサトウキビを取り寄せ、西日本を主とした太平洋・瀬戸内海沿岸で栽培が行われた。
 砂糖の普及に伴い、特に元禄時代と文化文政期に菓子の製法は急成長を遂げている。茶菓子・献上品を主体とした「京菓子」(上生菓子、干菓子など)に対して、江戸では主に庶民を対象にした「江戸菓子」(饅頭、羊羮、蒸し菓子、桜餅、大福、金つば、団子、おこし、せんべい、かりんとう、甘納豆、今川焼、最中など)が発達し、今日の和菓子の殆どの種類が見られるようになる。日本の製菓業の基礎が作られたのはこの頃である。
 しかし明治維新による開国で外国から安価な白砂糖が入るようになると、再び日本の製糖は奄美大島と沖縄の黒砂糖のみに縮小されることになる。日清戦争後は政府によって台湾に製糖業が興されて大量生産されるが、これも終戦までである。現在日本は消費する砂糖のおよそ65%を輸入に頼っている。国内で生産される砂糖の約80%は北海道で収穫されるテンサイから作られ、残りの20%が沖縄・鹿児島産のサトウキビである。

 以上砂糖の歴史について概括したが、次にその製造法について見てみよう。
 収穫時に刈り取られたサトウキビは、葉を取り除き、茎だけの形にして製糖工場に搬送される。この際に時間が経つと切断面から酸化が進み劣化するので、普通製糖工場はサトウキビ産地の近辺に立地している。
 搬入されたサトウキビは切断・粉砕されて圧搾機にかけられ、搾り汁が集められる(取り除いた搾りかすは「バガス」と呼ばれ、ボイラーに送り込まれて燃料とされる)。この時搾り出された糖汁は濁っているので、それを清澄するために石灰を加えて連続沈殿槽の中で不純物を沈殿させる。石灰はサトウキビの微酸性を中和する役目も果たしている。沈澱物を濾過した後の透明な液は多重効用缶で濃縮される(この液を「シラップ」という)。次にシラップを真空結晶缶の中で煮詰め、更に真空・低温化で結晶化させる。これを遠心分離機にかけて結晶(原料糖。粗糖とも呼ばれる)と母液(蜜)とに分離する。つまり黒砂糖以外の砂糖を作るための原料「原料糖・粗糖」とは、このようにサトウキビの搾り汁からある程度の糖蜜を分離・除去し去った結晶のことを言う。
 ここまでが栽培地に近い製糖工場で行われる作業である。砂糖生産全体から見たコスト軽減のためには、まずはサトウキビ生産地で精製を一度行い、原料を濃縮・固形状にして輸送の便を図り、そして消費地に近い場所に移して本格的に高度の精製を行うと都合がよいので、現代は一般的にこのような二カ所・二段階に分けた製造工程を行っているところが多い。  
 なおサトウキビから搾った汁を、原産地の伝統的方法でそのまま煮詰めて作る砂糖は「含蜜糖」と呼ばれ、いわゆる黒砂糖がこれである。その中で日本で「黒糖」と呼ばれる製品は、「絞り汁に石灰を混入するが糖分の分離精製をしていないこと」と消費者庁が定義している。原料糖・黒砂糖とも、この時点での砂糖はある程度植物由来のミネラルやビタミン類を含んでいる。ただしカルシウム分は、製造工程で添加した石灰由来のものである。

 ここから原料糖は、船(原糖船)などで消費地に近い精製糖工場に輸送される。
 精製糖工場では、原料糖に蜜を加えてよく混ぜ、表面についた不純物を蜜に洗い出させるとともに、洗糖分離機で再びショ糖の結晶と不純物が溶けた蜜に振り分ける。次に振り分けたショ糖をメルターで温水に溶かし「糖液」にする。再び石灰を加え、炭酸飽充槽で炭酸ガスを使って不純物を取り除く。更に活性炭やイオン交換樹脂を通して不純物を吸着させ取り除く。こうしてできた、色や匂いの無い透明な糖液は「ファインリカー」と呼ばれ、この時点でタンパク質やミネラル分をほとんど含まない高純度のショ糖溶液になっている。
 ファインリカーを真空の結晶缶で加熱・濃縮し、その過程で結晶の核となる粉糖を入れてショ糖の結晶を析出する。この際の粉糖の大きさや量、糖液などによってできる砂糖の種類(糖種)に違いが出る。この工程を「煎糖」と言う。
 ここで液をもう一度遠心分離機にかけてショ糖の結晶と蜜に振り分ける。蜜にはまだかなりの糖分が残っているので結晶工程に戻し、結晶は乾燥・冷却して製品化する。結晶工程では糖液中の全てのショ糖分を一度に結晶化させることはできないので、結晶・分離工程を幾度も繰り返してできるだけ多くのショ糖分が取り出される。


 分離したショ糖の結晶を乾燥させて水分1%以下にしたものが、製品としての精製糖(分蜜糖)である(液糖を除く)。製品全体に占める糖分の割合が、黒砂糖がおよそ85%であるのに対して、精製糖は98%以上となり、世界で一般的に使われている「グラニュー糖」は99.8%、最も純度が高い「白双糖」は99.95%である。これを塩になぞらえると、天日塩が塩化ナトリウム濃度80%程度なのに対して、「食塩」が純度99%以上なのとよく似ている。
 この様な結晶工程を繰り返すにつれて加熱のために糖液中にカラメルが生じて、できる砂糖にだんだんと色がついてくる。始めの方にできる白い砂糖の結晶がグラニュー糖や上白糖(白砂糖)となり、工程の最終段階でできる色のついた砂糖が三温糖などとなる。
 白砂糖や三温糖、ザラメ糖はショ糖含有率98~99%。蜜成分がほぼ完全に除去されているため「分蜜糖」と呼ばれる。ショ糖の結晶自体は無色透明だが、光の乱反射によって見た目に白く見える。
 因みに、三温糖はよく「色がついている」から健康にいいと誤解されがちだが、以上からわかるように製法上は白砂糖とまったく同じである。三温糖はただ単に「色がついている」だけであり、その色は、加熱のために糖が分解して(焦げついて)付いた「カラメル」である。
 また結晶工程の最終段階でできるものなので、どうしても糖液に微量に残ったミネラル分を一緒にすくってしまい、それによって成分表上は灰分の値が他の精製糖と比べて僅かに高くなる。しかしこれも、0.01%とかいう値のもので、まずもってこれで「ミネラルを補給できる」というレベルのものではない。
 ここで「黒砂糖・三温糖・上白糖」の含有する栄養成分を比べてみよう。参考までに、それぞれの栄養素の1日所要量も付しておく。値はいずれも100g当たりの量である。
             黒砂糖  三温糖  上白糖  1日栄養所要量
カロリー(kcal)     352    380     384      2400
タンパク質(g)     1.7    0.1      0       70
カルシウム(mg)   240    30      1       600
リン(mg)        31    微量    微量      900
鉄 (mg)        4.7    0.5     0.1       10
ビタミンB1(mg)   0.05    微量     0        1
ビタミンB2(mg)   0.07    0.01     0       1.4
(「四訂食品成分表」より)


 さすがに精製度の低い黒砂糖の栄養価は、他の精製糖と比べて格段に高い。上白糖はカロリー以外何も含んでいないに等しいし、三温糖もほぼ同じようなものである。この辺から、「黒砂糖は命を延ばすが,白砂糖は命を縮める」という沖縄での言い伝えが生まれるのかもしれない。
 しかし各栄養成分を「1日所要量」と比べたらどうか。
 日本人は毎日どれくらいの砂糖を摂っているのだろう。1995~2005年における砂糖の平均総需要量は年間およそ230万トン。また2005年の国勢調査時の日本の人口が1億2775万6815人だから、この時点での年間一人当たり消費量は18kg。一日当たりに直すとおよそ49gとなる。
単純に一人一日50gとして、これをすべて黒砂糖で摂ったとすれば、カロリーが一日所要量の7.3%であるのに対して、カルシウム20%、リン1.7%、鉄23.5%、ビタミンB1・B2はともに 2.5%となる。
 このうちカルシウムは、前述のように摂取量よりも遥かに多くの量を収奪してしまうので論外である。僅かに鉄分だけが1日の所要量のほぼ4分の1を摂取できるので、まあ栄養価が高いと言えなくもない。もっとも砂糖は基本的に調味料なので、これで栄養を摂取しようなどと考えるべきではない。しかし調味料とは言っても、砂糖は現実に全体カロリー摂取量の7%以上を占めている極めて特殊なモノと言える。
 結論としては、どうしても砂糖を摂らないとならない(現実的にそんなことはまったくないのだが)とすれば、白砂糖よりも黒砂糖の方が少しはマシである。しかしこれから縷々述べることになるが、砂糖の体に及ぼす全体的なマイナス影響を考えると、「黒砂糖は健康にいい!」などと夢喜んではいけないのである。日本人の砂糖の摂取量が欧米に比べると随分低い(アメリカでは一人一日スプーン22杯分=約160gの砂糖が消費されているらしい!)と楽観視することがいかにバカげているか、おいおいわかるだろうと思う。
 例えば黒砂糖と白砂糖の違いは、酒で言えば「焼酎乙類」と「焼酎甲類」のそれに近い。乙類の方は単式蒸留器(一度だけの蒸留)である程度素材の風味や香りを留めた酒となるのに対して、甲類の場合は連続蒸留器で少なくともアルコール純度95%以上、限りなく100%に近くまで精製したもの(これを「醸造アルコール」と呼ぶ)である。だから廃糖蜜のような廃棄物まがいのものを原料としても、匂いやくせ、雑味が残らない(内実を言えば、原料のアクを除くためにそこまで極度に蒸留する必要があるとも言える)。実際に商品として加工する際は、それを水で割って所定の度数に薄めている。
 しかし、味や風味、焼酎としてホンモノかどうかはともかく、飲む人の体に与える影響ということから言えば、乙類は甲類より少しはマシとは言えても、「健康にいい」などとはとても言えない。「蒸留」という過程はおよそ自然界には存在しない現象で、その産物である純度70度、80度またはそれ以上の高純度アルコールは異論なく「化学物質」と呼べる。したがってどちらも健康にいいはずがない。ただ両者の「酒」としての本質的な違いは、原料が旧来の作物(サツマイモや小麦、そばなど)か、製糖業の廃棄物である廃糖蜜かの違いと、酒にする際の製造工程の違いにあるにすぎない。 
 
 もうひとつ、結晶を分離し尽くした後の、精製工程の最期に残される蜜(廃糖蜜。英語ではモラセス)についても触れておこう。廃糖蜜は糖分以外の成分も含んだ、粘状で黒褐色の液体であり製糖の副産物である。サトウキビ生産地での精製過程と、精製糖工場にて精糖を繰り返してもうこれ以上糖分を結晶させられなくなった残りであり(つまり三温糖を製造した後のもの)、精糖時に焦げて生じた灰分(カラメル)などで黒褐色の液体となって出てくる。
 しかしこれにはまだ糖分が6割前後含まれているのでさまざまな利用法がある。そのまま甘味料としたり、黒砂糖に混入されたり、また化学調味料(うま味調味料とも言う)や醸造アルコール(工業用だけでなく、日本酒を増量したり、焼酎甲類やラム酒など蒸留酒の原料とする)などの発酵原料、またはイーストなど一部食品を作る原料としても用いられている。元々が廃棄物的なものであり、しかも大量に出てくるので安価でとても入手しやすい。最近ではバイオエタノールの生産が急速に伸びていることもあり、この分野でも廃糖蜜が資源として見直されてきている。


「砂糖」とは、「ショ糖(ブドウ糖と果糖が脱水縮合した二糖類)を主成分とする甘味調味料」のことを指し、物質としては炭水化物の一種である。しかし世の中には甘いゆえに砂糖と間違われやすいものが多い。例えば、蜂蜜、水飴、麦芽糖、人工甘味料などである。
 蜂蜜は、ミツバチが花から集めた蜜を主原料にする天然の甘味料である。花の蜜はショ糖が主成分なのだが、それがミツバチの体内で唾液に含まれている酵素(インベルターゼ)によって分解され、それが更に巣の中で濃縮されたものが「蜂蜜」で、砂糖とは異なった、いわばミツバチの生産物と言えるものである。
 水飴は、デンプンを酸や糖化酵素で糖化して作られた粘液状の甘味料で、麦芽糖とブドウ糖、デキストリンなどの混合物であり、これも砂糖ではない。古くから発芽玄米や麦芽を利用して製造され、砂糖が日本に伝来する前には主要な甘味料として利用されていた。砂糖を水に溶かしたり液体にして放置すると結晶になることがあるが、蜂蜜や水飴にはそれがない。
 またサッカリンやアスパムテールなどの人工甘味料も砂糖には含まれない。これらは製造コストが低い、砂糖の数百倍程度の高甘味度を持つゆえに食品の糖類含有量を減らすことができカロリーを抑える効果がある、あるいは虫歯の原因とならない、などの理由により砂糖の代用品として利用されるもので、石油などから作られたり、また後に当初わからなかった毒性が発見されることが多い。
 例えばサッカリンは、コールタールの研究中に偶然発見された物質で、第一次世界大戦中、砂糖が不足した折に急速に普及した。水溶液はショ糖の500倍の甘味を持つが、炭水化物ではないため砂糖のように体内で分解されてエネルギーになることはない。そこで「カロリーのない甘味料」としてチューインガムなどに幅広く利用されている。一時発ガンの可能性が問題となったが、未だその確証は得られていない。不思議なことに、サッカリンを甘いと感じるの人間と類人猿だけと言われている。
 アスパルテームはタンパク質の一種で、ショ糖の100~200倍の甘味を持つ。経口摂取された場合に多くの部分がそのまま体外に排泄されるので生理的熱量は極めて小さく、主に「カロリーゼロ」のコーラ、ファンタ、ペプシなどや食品に添加されている。
 一方、熱によって毒物に変化すると言われ、アメリカでは頭痛、吐き気、心臓病、精神不安定、呼吸困難、脳腫瘍などとの関連が指摘されている。特にヒトやサルの腸において摂取量の約10%がメタノールに代謝され吸収されるが、メタノールは人体へ失明や致死などを引き起こす毒性物質である。
 アメリカでは複数の消費者団体からアスパルテームの使用禁止要求が出されており、安全論争が激化している。また日本では、アスパルテームによって「元気な精子」が減るという実験結果が日本薬学会で発表されている。 
 この他に「異性化糖」というものもある。ジュースの原材料欄に「ブドウ糖果糖液糖」「果糖ブドウ糖液糖」という名前を見た覚えがあるだろう。これらはブドウ糖と果糖を主成分(ショ糖ではない。両者がそれぞれ単独で存在している)とする液状の糖で、原料はトウモロコシやジャガイモ、あるいはサツマイモなどの澱粉である。澱粉から異性化糖を生成するには、3回の酵素反応と精製、濃縮を必要とする。「異性化糖」という名称は、この酵素によって液中のブドウ糖半量を果糖に変化させる(異性化する)ことに由来する。
 日本において異性化糖は、当初国内で余剰気味のサツマイモを原料とした糖類を作る技術を開発しようということで始まり、その後1960年代後半から70年代にかけて技術が確立された。現在は日本においてもトウモロコシが主原料となっている。
 異性化糖は、砂糖より甘みが口中に残りにくく低温下で甘味度を増すこと、価格が安い(果糖分 55% の果糖ブドウ糖液糖は砂糖の7割程度)こと、酸性の強い飲み物の中では、砂糖はじきにブドウ糖と果糖に分解してしまうこと、また果糖は砂糖よりも甘みが強く使用量を減らすことができることから、主に清涼飲料や冷菓などに使われている(一方果糖は熱に弱く、温めることのある飲み物には向いていないので、コーヒー飲料などには砂糖が使われる)。また他にも缶詰、パン、みりん風調味料などにも使われることがある。
 主な異性化糖の分類は次のとおり。

ブドウ糖果糖液糖:果糖含有率(糖のうちの果糖の割合)が 50% 未満のもの。
果糖ブドウ糖液糖:果糖含有率が 50% 以上 90% 未満のもの。
高果糖液糖:果糖含有率が 90% 以上のもの。
砂糖混合異性化液糖:上記の液糖に 10% 以上の砂糖を加えたもの(その液糖がブドウ糖果糖液糖なら砂糖混合ブドウ糖果糖液糖)。

 この異性化糖と、蜂蜜、水飴は砂糖でないとはいえ、体内に入れば砂糖と同じような働きをする。だから日常の食卓から砂糖を失くして、代わりに蜂蜜や異性化糖をせっせと食べたとしても、決して問題が解決するわけではない。冒頭に「平均的な清涼飲料1杯には砂糖約26gが含まれる」と書いたが、この文章は厳密に言うと正しくない。清涼飲料には「砂糖約26g相当の異性化糖が含まれる」のである。
 また日本人は「一人当たり一日平均50gの砂糖を摂取している」とも書いたが、これも砂糖の害を述べるのに不足していることがわかるだろう。「砂糖消費量」には砂糖以外の物質、特に「異性化糖」などが含まれていないのである。今や日本人の多くは砂糖に加えて蜂蜜や水飴、異性化糖などを日常的に摂取している。仮に十代の若者が一日のうちジュースを2本飲んだとすれば、それだけで砂糖52g相当の異性化糖を体に入れたことになる。すると対象になる物質はいきなり二倍以上、100gを超えてしまうのだ。小学生が放課後にアイスを買い食いする、中学生が部活帰りにコーラを飲むことが、いかに体を蝕んでいるかわかるだろう。それらは日常の砂糖摂取量とは別枠の「砂糖様物質」である。


(つづく)
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