粗忽な夕べの想い

落語の演目(粗忽長屋)とモーツアルトの歌曲(夕べの想い)を合成しただけで深い意味はありません

介護労働の実態

2015-01-05 15:50:22 | 事件・事故・時事

産経ウェブでフィリピン女性が介護現場で悲惨な労働を強いられている実態が紹介さていた。彼女は以前仕事で来日中に日本人男性と結婚し1男1女をもうけたが、離婚し自国で子供たちと暮らしていた。そんな時、日本の介護業者がフィリッピンで日本の介護のため女性労働者を求めて集団面接を行っていた。そして女性は、日本の介護の仕事を続ければ、子供の日本国籍が取れるという業者の誘い文句につられて子供を連れて再び来日した。

月給13万円、週休二日の昼間の仕事という条件であったが、実際は夜勤ばかりをまかされる。夜10時から朝6時まで一人で20人の介護をする過酷な労働でその間睡眠もとれない。業者が立て替えた渡航費用などが60万円とされ、月給から毎月その返済2万円、積立金1万円が天引きされた。

交通事故で怪我をしてもまだ借金が残っているということで十分な休養も認められず無理な勤務を強いられた。女性は、業者と雇用契約をする際に当時よく日本語がわからず、本人が過重労働で死亡しても会社に責任を問わないという条件を十分理解していなかったという。

借金がある間は自由にできないということで厳しい労働に堪えていたが、それも子供の日本国籍取得に業者が協力してくれるという約束のためだった。しかし、一向にその取得の気配もなく、結果的に約束が全く果たされないことがわかり、ついに業者に対して約580万円の慰謝料を求める訴訟を起こした。

記事によれば、彼女の訴訟を支援している、とよなか国際交流協会」(大阪府豊中市)の担当者は、「今回のケースは氷山の一角だろう」と指摘。「ここ数年、介護現場で日本人には決してさせないような勤務を強制させられる外国人労働者からの相談が多く寄せられている。こんな待遇が続けば、国籍に関係なく介護の仕事が敬遠され、ますます現場の人手が足りなくなるのではないか」と話す。

この記事を読んで特に感じたことは二つある。一つは日本の介護事業の相も改善されていない労働環境だ。政府は業者の支払う介護報酬を15年度3%減額するという。その分、業者の負担は増える。一方で介護職員の給与を月額で平均1万円程度増やすのに必要な介護報酬を別途確保するとしているが、果たしてそれは可能なのか。経営の苦しい業者は人件費をあげるどころか逆に引き下げて、結果的に他の業界と比べて低い労働待遇が一段と悪化することが懸念される。

もう一つは、こうした厳しい労働環境を海外の安い労働力で解決しようという安易な発想である。産経記事がその典型であるが、業者の中にはそれを悪用して暴利をむさぼっている例が少なくない。政府が介護報酬の減額を決定したのもこうした業者を想定しているものと考えられる。しかし、悪徳業者制裁のつもりが逆に過重労働で苦しんでいる介護労働者の環境を一層厳しくさせかねない。記事のフリッピン女性が「奴隷のような扱いを受けた」と語っているのに象徴される。

安倍政権で、今後予想される高齢化社会に対応して海外の労働力を積極的に取り入れる方針を打ち出しているが、これが介護事業で歪な形で反映されることが大いに懸念される。それよりも国内の介護労働者の環境改善の方が先決ではないかと思う。政府が国内の雇用創出を考えるのなら外国労働者に頼るのではなく、国内の介護労働の報酬をまず引き上げて安定した雇用を確保するべきだ。そのためにはこうした悪徳業者を排してまじめな中小零細業者が経営を維持できるようにしっかりした政策を打ち出すべきではないか。

よく現在は新自由主義のグローバリズムが世界を席巻しているといわれる。先進諸国が安い労働力を求めて海外で事業を展開していく。そのため国内での雇用が疎かになり国民の間で貧富の格差が深刻になる事態が発生している。そんな悪しきグローバリズムに日本が飲み込まれていくのはなんとしても避けなければならない。介護産業のこのような実態をみるにつけ、そんな問題が痛感させられる。


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