民法判例まとめ45

2016-09-01 14:18:29 | 司法試験関連

抵当権の物上代位(2)債権譲渡との優劣

①  372条において準用する304条1項ただし書が抵当権者が物上代位権を行使するには払渡し又は引渡しの前に差押えをすることを要するとした趣旨目的は、主として、抵当権の効力が物上代位の目的となる債権にも及ぶことから、右債権の債務者(以下「第三債務者」という)は、右債権の債権者である抵当不動産の所有者(以下「抵当権設定者」という)に弁済をしても弁済による目的債権の消滅の効果を抵当権者に対抗できないという不安定な地位に置かれる可能性があるため、差押えを物上代位権行使の要件とし、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前には抵当権設定者に弁済をすれば足り、右弁済による目的債権消滅の効果を抵当権者にも対抗することができることにして、二重弁済を強いられる危険から第三債務者を保護するという点にあると解される。

②  右のような304条1項の趣旨目的に照らすと、同項の「払渡又ハ引渡」には債権譲渡は含まれず、抵当権者は、物上代位の目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後においても、自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるものと解するのが相当である。

③  けだし、ⅰ304条1項の「払渡又ハ引渡」という言葉は当然には債権譲渡を含むものとは解されないし、物上代位の目的債権が譲渡されたことから必然的に抵当権の効力が右目的債権に及ばなくなるものと解すべき理由もないところ、ⅱ物上代位の目的債権が譲渡された後に抵当権者が物上代位権に基づき目的債権の差押えをした場合において、第三債務者は、差押命令の送達を受ける前に債権譲受人に弁済した債権についてはその消滅を抵当権者に対抗することができ、弁済をしていない債権についてはこれを供託すれば免責されるのであるから、抵当権者に目的債権の譲渡後における物上代位権の行使を認めても第三債務者の利益が害されることとはならず、ⅲ抵当権の効力が物上代位の目的債権についても及ぶことは抵当権設定登記により公示されているとみることができ、ⅳ対抗要件を備えた債権譲渡が物上代位に優先するものと解するならば、抵当権設定者は、抵当権者からの差押えの前に債権譲渡をすることによって容易に物上代位権の行使を免れることができるが、このことは抵当権者の利益を不当に害するものというべきだからである。

④  そして、以上は、物上代位による差押えの時点において債権譲渡に係る目的債権の弁済期が到来しているかどうかにかかわりなく、当てはまるものと解する。

最判平成10年1月30日 百選87事件

・第三債務者保護説に立ち、抵当権設定登記と債権譲渡の対抗要件具備の先後を基準に既発生債権・将来債権の譲渡後でも抵当権設定登記が先であれば物上代位が優先するとする登記基準説を採用した。

・「差押え」を第三債務者への物上代位行使要件(通知・警告手段)としての目的しかないとし、第三者の保護は本来的な対抗力を生ずる抵当権設定登記によることとしたので、第三債務者の利害に影響を及ぼさない債権譲渡を「払渡し」から除外したのである。

・判例の到達点

  → 抵当権者は自ら差押えを行うこと(最判平成13年10月25日)

  → 目的債権の差押え・譲渡・対抗要件具備後でも物上代位はできる

  → 第三債務者による相殺・転付命令の第三債務者への送達前に「差押え」をしなければ物上代位は行使できない

・判例理論の不明確な点

  → 第三者に対しては(債権の譲受人、差押債権者)、差押えではなく、抵当権設定登記を基準とすることになる。ところが、最判平成14年3月12日は、物上代位の目的債権に対して、転付命令がなされた場合に、転付命令が第三債務者に送達されるまでに抵当権者が被転付債権の差押えをしなかったときは、転付命令の効力を妨げることはできないと判断した。差押えがあっても物上代位が優先するのに、転付命令まで受けるとどうして結論が逆転するのか、その説明が必要であろう。

  → 内田教授は、最高裁は物上代位に強力な地位を与えすぎた一連の(銀行救済之目的下においてなされた)判例を修正しているのではないか」と言う。しかし14年判決は、手続き的な議論に終始しており、第三債務者保護説そのものを修正したというわけではないであろう。要は、理論的には物上代位の効力が存続するはずではあるが、もはや手続上の理由から抵当権者の差押えができないので、もはや抵当権の効力を認めることができない、ということなのであろう。

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