斎藤秀俊の眼

科学技術分野と水難救助、あるいは社会全般に関する様々な事象を一個人の眼で吟味していきます。

ひとつの自動車メーカーが倒産すると

2016年04月23日 23時24分03秒 | 斎藤秀俊の着眼
それは、わが国の経済に大きな影響を与えることになりかねません。
「ひとつのメーカーが自業自得でつぶれた」というレベルではなく、それは必ず自分たちにも還ってくる問題です。

あるひとつの自動車メーカーの作る自動車の販売店は古いデータで申し訳ないですが 119社751店舗(08/9/1) だそうです。
そのメーカーのクルマしか扱ってない会社が多く、修理や車検だけでしばらく食べていくのでしょうが、行く末は連鎖倒産も考えられます。

また、サプライチェーンにも影響が及びます。
ひとつのメーカーに限定したサプライチェーンとすると計算が難しいので、自動車メーカー全体としますと、サプライチェーン最終段階の従業員数は23.7万人(2010年)でした。そしてそこに部品を納入する企業すなわち部品ティア1で32.1万人、ティア1に部品を供給するティア2で7.0万人、ティア3で1.9万人でした。65万人の4分の1とか5分の1に影響があるかもしれません。

人ばかりではありません。こういったサプライチェーンの設備投資額も馬鹿になりません。全部の総計で年間1兆3000億円にもなります。そして、ティア3では授業員数が少ないといっても、ティア2とティア3では設備投資額はそれぞれ変わらずの1000億円程度です。これの4分の1とか5分の1に影響があるわけです。

あるひとつの自動車メーカーの年間売り上げは2兆1千億円。だから、これが全部吹き飛ぶのと同時に数千億円の設備投資が吹き飛び、10-20万人の雇用が吹き飛び、たいへんなことになるでしょう。

だからこそ、自業自得では済まされないのです。それなら、そのメーカーを救えという話になるかというと、これも微妙。株式会社として、社会に大きな影響を与えることになるのだから、不正問題で倒産するようなリスクを背負う時点で、経営の誤りがあったということ。この経営を人を変えることによって刷新できるのか、できたのか。

もう一つ問題があって、このような無理をしなくてはならないような規制値とは何だったのだろうか。
そもそも、法律とか規則を作るということは、犯罪者を作るということ。その辺の概念を深く考えていない例が多すぎる。現状技術の改良でクリアできる規制値であれば、このような不正をしなくてもよかったし、技術革新を促す規制値であれば、達成できなければどちらにしても倒産するのだから、自暴自棄になるのもわかる。法律とか規則は人の流れを強制的に変えるもの。でも流れを変えられなかったときに社会全体が受ける影響を、環境と経済と技術のバランスで考えなければならない。


燃費データ不正

2016年04月23日 23時23分19秒 | 斎藤秀俊の着眼
新聞報道なので、本当の真実がまだわかっていない段階なのでなんとも言えませんが、数値目標を完全に勘違いして考える風潮を誰が作ったのか、ということに集約されると考えています。

技術革新を社会として進めるために、現在の技術ではクリアするのが難しい規制値を法律で作るようなことが行われています。例えば、排ガス規制とか燃費(エコカー)などの数値をより厳しくすることが行われています。

技術者や経営者が勘違いしてはいけないのが、こういった規制をクリアするのに、既存技術の延長でなんとかなるか、ならないかという点。技術革新は、受験勉強のように努力して少しずつ点を上げていくような、一歩一歩踏みしめていくやり方では実現できないし、その程度ではクリアできないようになっています。

明確に数値化されたアウトプットなのだから、それを実現するのに必要な仕様を予測すれば現状の技術の延長でいけるかどうか、すぐにわかることで、ダメだったら既存技術から完全脱却しなければならない。

既存技術からの脱却を実現するには、その組織に所属する人間を全部代えてしまえばいいわけです。ただ、ここで「○○DNAが受け継がれていて」などと言い切ってしまう組織では、人間を代えるのは難しいのでしょうか。

今回の事件は、VWの問題が噴き出てきたときにすでにわかっていた人たちにはわかっていたこと。ここまで明るみに出るまでにずいぶん時間がかかったなというのが、私の感想です。