晩春の暮方、二人は石に腰掛け、海棠の散るのを見ていた。花びらは死んだ様な空気の中を、まつ直ぐに間断なく、落ちていた。(小林秀雄「中原中也の思い出」より)
小林秀雄と中原中也が共に見ていたのと同じ場所で海棠を見ようと、ちょうど桜も咲いていた妙本寺に行ってきました。
花びらの運動は果しなく、見入っていると切りがなく、私は、急に厭な気持ちになって来た。我慢が出来なくなって来た。その時、黙って見ていた中原が、突然「もういいよ、帰ろうよ」と言った。私はハッとして立上り、動揺する心の中で忙し気に言葉を求めた。「お前は、相変らずの千里眼だよ」と私は吐き出す様に応じた。(小林秀雄「中原中也の思い出」より)
絶交状態にあった二人が妙本寺で和解した年に、中也は鎌倉で亡くなりました。
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます