共通テーマ「錆」でTが書いた詩を投稿します。
廃屋
きれいに刈られた芝生
若い桜の木は初々しい緑の葉をつけていたし
柘榴の花は赤く細かく咲いていた
彼女と私は
何者にでもなれる十八才で
庭のブランコに揺られながら
漫画や音楽、本の話に夢中だった
きょう
錆び付いた門扉を開けた
草が生い茂った庭
大きくなった山法師の白い花は満開
その下に赤いカンナが五株
何時植えたのか
彼女の両親は随分前に亡くなり
何年も一人で暮らしていた彼女は
今は閉鎖病棟にいる
家は蔦におおわれ
人が入るのを拒絶している
彼女が忘れ去った記憶が
封じ込められているみたいだ