永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(34)

2015年05月25日 | Weblog
蜻蛉日記  上巻 (34) 2015.5.25
「雨間に例の通ひどころにものしたる日、例の御文あり。[『おはせず』といへど、『なほ』とのみ給ふ]とて、入れたるを見れば、
『<常夏にこひしきことやなぐさむと君が垣ほにをると知らずや>さてもかひなければ、まかりぬる』とぞある。
◆◆雨の晴れ間にあの人が時姫のところへ出かけた日、宮様から御文がありました。取次ぎの者に「兼家は不在です」と言わせますが、「それでもこれをどうぞ」と一心におっしゃいますのを、取ってみますと、
(兵部卿章明親王の歌)『「いつに変わらぬあなたへの恋心が慰むかと思って、隣に居て垣根の撫子を手折っているのをご存知ですか」それにしても甲斐がないので退出しますよ』とあったのでした。◆◆


「さても二日ばかりありて見えたれば、『これ、さてなんありし』とて見すれば、『程へにければ、便なし』とて、ただ『このごろは仰せごともなきこと』と聞こえられたれば、かくのたまへる、
『<水まさり浦も渚のころなれば千鳥の跡をふみはまどふか>とこそ見つれ。うらみ給ふがわりなさ。「みづから」とあるは、まことか』と、女手にかき給へり。男の手にてこそ苦しけれ、
<浦隠れみることかたき跡ならば汐干をまたんからきわざかな>
また、宮、
『<うらもなくふみやるあとをわたつみの汐のひるまも何にかはせん>
とこそ思ひつれ、異ざまにもはた』とあり。
◆◆それから二日ばかりして、あの人が見えたので、「このお手紙が、このような次第でありました」といってお見せしますと、「時が経ちすぎたので、今さら返歌するのも変だ」と言って、「近頃はお手紙も頂戴いたしませんね」とあの人から申し上げますと、このようなお手紙で、
『「(兵部卿章明親王の歌)長雨で増水し、浦も渚も無いころなので、千鳥の足跡のような私の筆跡は消えてしまったようだ」と見ていますが、お恨みになるなどとは筋違いですよ。ご自身でお見えくださるとあるのは本当でしょうか』と女手で書かれていました。あの人は男の手で心苦しいけれど、
(兼家の歌)「行方不明で見ることができないお手紙ならば、ふただび出てくるのを待ちましょう、辛いことですが」
又、宮様から、
『「(兵部卿章明親王の歌)「深い意味もない手紙ですから、見てもどうということはない筈ですよ」と思っていますが、それにしても変なふうにお取りになって」とありました。◆◆


■女手=草仮名より簡略にくずした仮名
■男の手=漢字を仮名として用いた真仮名で書いたか?


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