永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(145)

2008年08月30日 | Weblog
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【絵合(えあわせ)の巻】  その(2)

 源氏はまた、その他のお文などもありはしないかとお尋ねになりますが、女別当は計らいかねて、お見せになりません。
院へのお返し(返歌)を源氏は前斎宮に催促されますので、

「前斎宮は、いとはづかしけれど、いにしへ思し出づるに、いとなまめき清らにて、いみじう泣き給ひし御様を、そこはかとなくあはれと見奉り給ひし御幼心も、ただ今の事と覚ゆるに、……」
――前斎宮は恥ずかしくお思いになりますが、伊勢下向の当時を思い出され、朱雀院のおやさしく、お美しいご様子で、伊勢への別れを悲しまれてお泣きになりましたのを、しみじみと身にしみて拝見した幼心も、ついほんの少し前のように思われ、(また御母の御息所のことなどつられて思い出され、このようにお書きになりました。)――

「わかるとて遙かにいひしひとこともかへりてものは今ぞかなしき」
――お別れのとき、再び京にお帰りなさるなと仰せられた一言が、帰京しました今、このようなお手紙をいただくにつけ、かえって悲しく思われます――

「院の御有様は、女にて見奉らまほしきを、この御けはひも似げなからず、いとよき御あはひなめるを、内裏はまだいといはけなくおはしますめるに、かく弾き違へ聞ゆるを、人知れず、ものしとや思すらむなど、にくき事をさへ思しやりて、胸づぶれ給へど、……」
――朱雀院のご様子は、女にしてお見上げしたいほどお美しく、前斎宮も相応しくお似合いでいらっしゃいますのに、冷泉帝はまだほんの幼くていらっしゃいます。こうして院のご希望に、人知れず背いて進めてきましたことを、院はさぞお心では不愉快にお思いでありましょうと、源氏はさしすぎたことまで気をまわして、胸のつぶれるほど心が痛みますが、(今日になってお取り止めになるべきことでもないので、入内の御儀式の万事をお指図なさった上で参内なさいました)――

 源氏は、れっきとした親代わりとはお思い頂かぬようにと、院に気兼ねをされて、ご機嫌伺いのようにお振る舞いになります。

◆写真 (思い出)伊勢下向の時の、斎宮との「別れの櫛の儀」。
     当時、斎宮は14歳。
 



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