永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(608)

2010年01月04日 | Weblog
2010.1/4   608回

三十九帖 【夕霧(ゆうぎり)の巻】 その(23)

 御息所はご病気中ですが、落葉宮に対して作法に叶った礼儀正しさで宮をお迎えになります。

「……この二日三日ばかり見奉らざりける程の、年月の心地するも、かつはいとはかなくなむ。後必ずしも、対面の侍るべきにも侍らざめり。まためぐり参るとも、かひやは侍るべき」
――この二日三日お目にかかりません間が、何年もお会いしていない感じですが、明日をも知れぬわが身と思えばはかないものです。親子は一世の縁と申します。後の世でも必ずお目にかかれるとは限りません。(またこの世に生まれ合せることがありましても、前世で親子であったとは知る由もないでしょう)――

「思へばただ時の間に隔たりぬべき世の中を、あながちにならひ侍りにけるも、悔しきまでなむ」
――思えば、一瞬でお別れせねばならないこの世ですのに、あなたと余りにも睦まじく暮らして参りましたことが、返って口惜しいほどでございます――

 と、申し上げながらお泣きになります。宮も悲しみが胸に込み上げていらして、お返事の言葉もなく、ただ母君のお顔をご覧になっているばかりです。

「物づつみをいたうし給ふ本性に、際々しう宣ひさわやぐべきにもあらねば、はづかしとのみ思すに、」
――(落葉宮という方は)大そう内気なご性質ですので、昨夜のことでも、きちんと言い訳なされそうにもなく、ただ恥ずかしそうにしていらっしゃるように見えますので」

 御息所は、そのご様子をお気の毒に思って、その訳をお訊ねにはなりません。夕餉のお食事を宮の分もこちらへ運ばせてお進めしますが、宮は何も召し上がりません。
宮は、母君の御病気が小康を得られたようですので、そのことに少し安心なっさったようでした。

◆物づつみ=物慎み=物事を慎み隠すこと。遠慮深い。内気。

2010年も佳き年でありますように。今年も続けていきますので、どうぞよろしく。ではまた。


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