永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(121)

2008年07月30日 | Weblog
7/29  

【澪標(みおつくし】の巻  その(14)

 御帳台の東面に添い臥していらっしゃるのは、斎宮でしょうか。御几帳が無造作に引きやられた隙間から、御目をとおしてご覧になりますと、頬杖をついていかにも悲しそうにしておいでです。

源氏は、
「僅かなれど、いとうつくしげならむと見ゆ。御髪のかかりたる程、頭つきけはひ、あてに気高きものから、ひぢぢかに愛敬づき給へるけはひしるく見え給へば、心もとなくゆかしきにも、さばかり宣ふものを、と思し返す。」
――わづかしか見えませんが、たいそうお美しい。お髪のかかりようや、おつむの形、ご様子など上品にけだかいものの、人なつかしく愛敬のあおりになるご様子が、まざまざと感じられますので、心惹かれもっと近づきたく思われますが、あれほど御息所がご心配なさったのであるからと、お思い返しになるのでした。――

いかにも苦しそうなご様子の御息所へ、源氏は

「故院の御子たちあまたものし給へど、親しく睦び思ほすも、をさをさなきを、……すこしおとなしき程になりぬる齢ながら、あつかふ人もなければ、さうざうしきを。など聞えて、帰り給ひぬ。」
――故桐壺院の御子が大勢いらっしゃいましたが、私を親しく睦みあわれる方が、ほとんどおられませんのに、(御父の故桐壺院が、斎宮を御子たちと同様な待遇をなさったのですから、私もそのように御妹ととして、お力になりましょう)私もやや人の親らしい歳になりましたのに、育てるはずの子を持たず、淋しく思っているところですから。などと申し上げてお帰りになりました。――

 その後もお見舞いをつくされましたが、七、八日の後、御息所は、
「亡せ給ひにけり」
――お亡くなりになってしまわれました――

◆写真:大殿油(おおとなぶら・おおとのあぶら)室内灯  風俗博物館


最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。