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永子の窓

趣味の世界

源氏物語を読んできて(100)

2008年07月08日 | Weblog
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【明石】の巻  その(12)

「正身はたさらに思ひ立つべくもあらず。いと口惜しき際の田舎人こそ、仮に下りたる人のうちとけ言につきて、さやうに軽ろらかに語らふわざをもすなれ、人数にも思されざらむものゆゑ、われはいみじき物思ひをや添へむ、……」
――明石の御方は、いっこうに自分から立ち出でようとうはなさらない。ごく賤しい身分の田舎人に限って、仮に下ってきた人の色よい口車に乗って、そのように軽率に馴れ合ったりするもののようです。自分など人の数にも数えていただけないであろうに、かえってわたしは、ひどく大きな煩悶を抱えることになるでしょう。……(ただ、源氏の君がここに居られる間のこうした文のやりとりだけで幸せですのに、自分を人並みに認めてお見舞いくださるなど、海士の中で朽ちてしまう身には光栄なことです。源氏の君の近くに伺うなど思いも寄らないこと。――

両親は、
不意に娘を源氏にお逢わせしても、その後見向きもされなかったらどんなに悲しいことかと不安でいっぱいになります。

源氏は、
「この頃の波の音にかの物の音を聞かばや。さらずばかひなくこそ」
――この頃の波の音を聞くにつけても、あのお話の琴の音をうかがいたいものです。今の季節に聞けないのでは、何にもならないではありませんか――

と、入道に常におっしゃいます。

 入道は、ひそかに吉日を選んで、母君にも弟子にも相談せず、明石の上の住む辺りを輝くばかりに美しく飾り整えて、

「十三日の月のはなやかにさし出でたるに、ただ『あたら夜の』と聞えたり」
――八月十三日の月がはなやかに、さし出た頃、ただ、「あたら夜の」とだけ、源氏に申しあげます――

古歌の「あたら夜の月と花とを同じくは心知れらむ人に見せばや」
――古歌の、空の月に対してわが娘を花になぞらえて、その住居をお訪ねくださいますように、と源氏をお誘いになったのです。

源氏は
「すきのさまやと思せど、御直衣たてまつり引きつくろひて、夜ふかして出で給ふ」
――入道のなんと風流ぶっていることよ、と思われますが、御直衣を召され、お姿を整えられて、夜更けてからお出ましになります――

◆明石の御方(あかしのおんかた)=「明石の方」「明石の君」とも呼ぶ。出自が低いので、作中で「上」と呼ばれることは一切ない。……ということで、先号を訂正し、今後は明石の御方と改めます。

◆引きつくろいて(男の化粧)
 男性も、公家が古代より白粉などで化粧をする習慣が存在し幕末まで続いた。武家もやはり公家に習い公の席では白粉を塗っていたが、江戸時代中期には、化粧をして公の席へ出る習慣は廃れた。ただし、公家と応対することが多い高家の人達は、公家と同様に幕末まで化粧をする習慣を保持していたほか、一般の上級武士も、主君と対面する際、くすんだ顔色を修整するために薄化粧をすることがあったという。
 
 古代から大正時代に至るまで、お歯黒と呼ばれる歯を黒く塗る化粧が行われていた。平安時代には男性もお歯黒をすることがあったが、江戸時代にはお歯黒は既婚女性の習慣となった。

ではまた。


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