永子の窓

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蜻蛉日記を読んできて(132)その2

2016年06月17日 | Weblog
132蜻蛉日記  中卷  (132)その1 2016.6.17

「さて七八日ばかりありて、初瀬へ出でたつ。巳の時ばかり家を出づ。人いとおほく、きらきらしうてものすめり。」
◆◆さて、それから七、八日経って、初瀬詣でに出発します。巳の時ほどに家を出ます。一行は供人も多く、きらびやかな様子で行くようです。◆◆



「未の時ばかりに、この按察使の大納言の領じ給ひし宇治の院に至りたり。人はかくてののしれど、わが心はわづかにて見めぐらせば、あはれに、心にいれてつくろひ給ふとききし所ぞかし、この月にこそは御はてはしつらめ、ほどなく荒れにたるかなと思ふ。」
◆◆未の時刻に、按察使の大納言(兼家の叔父で師氏)のご所領になっていたあの宇治の院に到着しました。一行の連中はこうしてにぎやかだけれど、私の心はそれほどにはならず、そっとあたりを見わたしてみると、しみじみと思われる。ここが心をこめてお手入れなさっているとお聞きしていた別荘だったのだ、この月には一周忌をなさったようですが、程なくこんなにも荒れてしまったものだと、思ったのでした。◆◆



「ここの預りしける者の、まうけをしたれば、立てたるものの、ここのなめりと見るもの、三稜草すだれ、網代屏風、黒柿の骨に朽葉の帷子かけたる几帳どもも、いとつきづきしきも、あはれとのみ見ゆ。」
◆◆この別荘の管理人が一行のもてなしを準備してくれていましたので、立てまわしてある調度、大納言様の遺品の品々、みくり簾、網代屏風、黒柿の手に朽葉色の帷子をかけてある几帳など、いかにも場所柄にふさわしくしみじみと思われました。◆◆


■巳の時(みのとき)=午前九時~十一時の間。

■未の時(ひつじのとき)=午後一時~午後三時ごろ

■按察使の大納言(兼家の叔父で師氏)=前年(天禄元年)七月十四日に死去。

■三稜草すだれ(みくりすだれ)=三稜草はミクリ科の草で、その茎で作ったすだれ。

■網代屏風(あじろびょうぶ)=網代で張った屏風

■黒柿(くろがい)の骨に朽葉の帷子かけたる几帳=「黒柿」は黒味を帯びた縞が柿の木の心部にあるのでこの名がある。「骨」は几帳の横木、ここへ帷子を掛ける。



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