中爺通信

酒と音楽をこよなく愛します。

馬車

2010-08-02 06:25:13 | 山形交響楽団
「『そのとおりでさ、ドミートリーの旦那。人をひき殺したり、苦しめたりしちゃいけないってのは、おっしゃる通りでして。相手がどんな畜生でも同じこってさ。なぜって、どんな畜生だって、神様がお創りになったもんですからね。この馬だってそうでさあ。ほかの連中はやたらと鞭を入れるんでさ。この土地の御者もそうですがね・・・抑えがきかなくなって、でたらめに突っ走るんでさ、そこのけ、そこのけって感じに、めちゃくちゃ突っ走るんでさ』
『地獄にか?』とドミートリーはふと相手をさえぎり、思いがけず、小きざみな笑い声を立てた。」 (ドストエフスキー 「カラマーゾフの兄弟」より)


 前から感じていることですが、オーケストラの指揮者というものは、何十頭だての馬車を操る御者みたいなものだと思います。車の運転手とは違うんです。走るのは機械ではなくて生き物ですから。「どっちに行きたいか」さえきちんと伝われば、あとは馬たちが勝手に走ってくれます。むやみに鞭を入れるのは、御者のアンドレイの言う通りで、馬を苦しめてでたらめに突っ走らせるだけなんです。ましてや、馬に対して「足の上げ方が悪い」などと言うのはおかしなことでしょう。


 さて、山響は昨日から定期のリハーサル。久しぶりの黒岩氏登場で、プログラムのメインは「山響30周年」の時も一緒に演奏したベートーヴェンの「英雄」です。

 氏は情熱的な音楽が持ち味ですから、そういう方面に関しては容赦なく鞭を入れます。ですが人格でしょうか?しばりつける感じはなくて、温かさが伝わります。やはりオーケストラプレーヤーといえども、「神様がお創りになった」ものだということを感じて下さっているからでしょうか。

 夏休み前は良い演奏会になりそうです。
コメント
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