中爺通信

酒と音楽をこよなく愛します。

客席にて

2023-12-11 21:30:00 | 音楽
 長野から戻ってきた昨日は、家に帰る前に、テルサホールでコンサートを聴きました。「ウクライナ国立フィル」。

 もともとウチの奥さんが娘と行くためにチケットを買っていたのですが、娘が行けなくなったために、私が代役。

 疲れてるし、今後のスケジュールも詰まっているので、他社さんの公演を聴いている余裕はないのですが…とも言えず。

 とは言え、テルサの客席でオーケストラを聴くなど、ほとんど経験の無いことなので、ある意味楽しみにもしておりました。…いつも演奏はしていますが、なかなか行かないものなのです。人には来い来い言っておきながら…申し訳ない。

 さてプログラムは「新世界」をメインに、天才少女の村田夏帆さんのメンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」、あとウクライナのスコリクという作曲家の曲。

 入場して2階の客席から舞台を見下ろすと、椅子がギュウギュウです。山響でも編成によっては「狭いな」と感じるので、より大きなサイズのオーケストラにはやはり窮屈でしょう。

 そして実際に団員が入ると、さらにそう感じます。みなさん山響よりも体が大きいので大変そうだな…と気の毒に思う。

 面白いのは弦編成。第1ヴァイオリンが12人、第2が9人、ヴイオラ8人、チェロ9人、ベース6人。バランス上の意図があってのことなのでしょうか。こういう、柔軟な編成は山響では考えにくい。

 その効果は出ていたように思います。緻密さにはやや欠ける部分はあるものの、メロディーを豊かに歌わせる感じ音楽作りには第1とチェロの人数が多いのは良かったように思いました。

 …まあ、あまりオーケストラのコンサートを聴き慣れていない私の感想が当たっているかどうかはわかりません。とくに、山響を客席で聴いたこともないので、客観的な比較はみなさんにお任せします。

 そんな、音楽鑑賞に不慣れな私にはいろいろと新鮮で、知り尽くしている曲をあらためて楽しみました。

 ウクライナを取り巻く状況のせいもあるかも知れませんが、全体的に独特の熱がこもった演奏で、素晴らしいコンサートだったと思います。

 やはり、生のコンサートは良いものですね。
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物価と音楽

2023-11-28 22:05:00 | 音楽
  物価が高騰しています。弦も爆上がりしているので、おいそれと替えられない。私が使っているものは切れにくいのでまだ助かっていますが、繊細なやつだと1本1万円近いのが簡単に切れたりする。…ユーザーの方がキレてしまいますね。

 と、これまで物価に関しては、楽器に関することかガソリン価格ぐらいでしか知りませんでした。しかし最近、料理をするようになってスーパーに買い物に行くことが多くなり、わかってきました。

 今さらではございますが、物価は本当に上がっていますね。

 何気なくあれこれ買い物かごに入れて会計をすると、予想よりけっこう高い。

 …セルフレジ故障してたのかな?と思うも、レシートを見返すような細かいことをするのが嫌いなのでしない。

 しかし、そういうことが毎回なので、買い物かごに入れる前に価格を見るようになりました。

 すると、驚きました。これも今さらながらですが、イメージとぜんぜん違う。とくにトマトには愕然。小さいのが1個180円!(山形の価格)。これでは減量中の力石徹も気安くかじれません。…あしたのジョーの時代と違いすぎる。

 …ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず。

 悠久の歳月を経ても変わらないのは自分の給料ばかり。これは、みんなが思っていることでしょう。

 クラシック音楽の価値は時代を超えているので、価格転嫁というものがしづらい。世間のみなさんに、まず豊かになってもらわないと、どうにもなりません。

 辛抱の時代が続きます
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ドラクエの功績

2023-09-18 21:25:00 | 音楽
 秋田の由利本荘、岩手の北上での山響「ドラゴンクエスト」公演を終えて、昨日、山形に戻ってきました。

 チケットはどちらも完売!由利本荘のホールは初めて、北上は10年以上ぶりでしたが、満席のお客様を前に演奏できたことは本当に嬉しいことです。

 この両公演は、こちら側からホールに企画を持ちかけて実現したものですが、それが叶ったのはやはり「ドラクエならお客さんが入る」という確信が持てたからであることは間違いない。

 つまり、これは山響の力ではなく、すぎやまこういち先生のお力だということです。

 こういうことが、日本全国で行われている。それで、日頃は演奏会を聴きに音楽ホールへ行くような習慣のない人達が、こぞって集まって満席になる。私たちオーケストラも、企画に悩む音楽ホールも、どれだけ助けられているか。

 そして、初めて来たお客様がみんな、笑顔になって帰っていく。感動を隠せずに涙を流す人さえ。

 本当に、すぎやま先生の功績は、いくら讃えても讃えきれません。

 おかげで、今回もたくさんの方に山響を、初めて、あるいは久しぶりに聴いてもらうことができました。

 いつまでも暑い中、なかなかハードな移動ではありましたが、ありがたい機会になりました。すぎやま先生はもちろん、関係者各位すべてに感謝。
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オペラの量的考察

2023-02-18 21:53:00 | 音楽
 オペラが続きます。明日は「ドン・ジョバンニ」、来週は「ラ・ボエーム」です。

 山形に新しく素晴らしいホールが出来たこともあって、オペラの機会が増えました。先月は「フィガロの結婚」、その前は「セヴィリアの理髪師」。本当に良いことだと思います。

 オペラは実にやりがいがある。初めてのオペラの楽譜を手にすると、それを実感します。

 ずっしりとして、ページ数が多い。豪華絢爛な一大絵巻なわけですから当然です。

 一般的な交響曲は20ページ弱。古典は少ない。たとえば「運命」は14ページです。

 それが「フィガロ」だと40ページほど。「ボエーム」になると60ページです。高級なギフトカタログぐらいのボリュームがあります。これをぜんぶ頭に入れないといけない。

 …なかなかの重労働だということがお分かりいただけたでしょうか?

 もちろん、ここに挙げたのは第1ヴァイオリンのパート譜の話。楽器によっても大きく違います。わずか2〜3ページのパートもあるにはある(…ヴァイオリンはつくづく音符単価が低い)。

 それでも、オペラは面白い。山形でオペラをやるようになって「こんなに素晴らしいものだとは知りませんでした。人生の楽しみが増えたような気がします!」と言ってくれたお客さんもいます。

 山形にオペラが根付くことを願います。
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獅子搏兎

2023-02-08 22:50:00 | 音楽
 今週の山響は、週末の定期演奏会。川瀬賢太郎氏の指揮で「運命」をメインに、ラフマニノフ「パガニーニの主題による狂詩曲」、細川俊夫「セレモニアル・ダンス」。

 ところで、青山学院に進学した息子は、なぜか早稲田フィルに所属してオーケストラをしていました。

 早稲田大学にはふたつのオーケストラがあって、ひとつはワールドツアーで有名な「早稲オケ」、そうでない方が他大生も受け入れる「早稲フィル」。ウチの息子はもちろん後者。友達に誘われて入ったようです。

 大学オケは3年生が執行学年となって運営の中心になる所が多いものです。早稲フィルも同様。息子はコンサートマスターに。

 しかしそこでコロナ。すべての演奏会が中止になり、大学オケも活動休止になりました。

 今だから言いますが、コンサートマスターとして最後の演奏会には、無理をして山形から聴きに行きました。その頃は、東京に行くなどということは大っぴらには言えない時期でしたが、感染対策に細心の注意を払いつつ。物事には「その時しかない」というタイミングがあるものですから。コロナの事ばかり気にしていては、感染もしないかわりに、何のために感染を避けているのかもわからない。

 翌年の定期演奏会を指揮したのが、今回の川瀬氏。すでに息子は4年生なので後ろで弾いていましたが、現役最後ということで聴きに行きました。

 すでに神奈川フィルなど、メジャーなオーケストラでの評判も良く実績もある指揮者が、ギャラが安いにきまっている学生オケを指揮するのに好感を持ちました。

 そして演奏も素晴らしかった。川瀬氏の熱量も凄くて、学生から実力以上のものを引き出していた感じがしました。

 こんな仕事でも(とは父兄の言うことではありませんが)、本気の音楽をする姿勢は素晴らしい。良い指揮者なのだと思いました。

 山響では、だいぶ前の「アフィニス音楽祭」以来の登場ですが、きっと良い演奏になると思います。
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ミュージック・ブランチ

2023-02-02 20:52:00 | 音楽
 今週の山響は日曜日の「ユアタウン・コンサート」南陽公演。プログラムはベートーヴェン「田園」をメインに、ゲストにヴァイオリンの郷古廉さんを迎えてメンデルスゾーンの協奏曲など。

 今日からリハーサルでしたが、私はその前に、山形放送へ。

 午前のラジオ「ミュージック・ブランチ」で、山響を紹介してくれるコーナーがあるのですが、そこでの楽団員紹介のコーナーに出演させて頂きました。楽団員紹介は私で17人目だそうです。こうして、とり上げてくださるのは有り難いことです。

 パーソナリティーの青山アナウンサー(いつも山響のコンサートに来てくれています。本当に良い人なのです。しかも美しい)のリードで、15分ほどですが、山響の宣伝を含めて思いつくままにしゃべらせて頂きました。

 どれだけの宣伝になったかわかりません。聴いている人もそんなに多くないでしょうし。

 帰ったきた自宅の前で、マンションの顔見知りの人とすれ違う。

「いま、ラジオ聴いてました!」

 …けっこうメジャーな番組なんですね。失礼しました。

 これからも山響をよろしくお願いします。
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幾つになっても

2023-01-15 21:01:00 | 音楽
  「村川千秋のシベリウス」公演が終了。90歳にして交響曲をまるまる指揮した氏の姿は、それだけでも多くの感動を与えるものだったと思います。客席も、なにか
特別な熱気に包まれました。

 しかし私が感じたのは、少し違います。

 かつて、毎年の定期演奏会で一曲ずつシベリウスの交響曲をとりあげていた往年の頃よりも、指揮が(上達…と言うと僭越で失礼ですね)「向上」していることに驚きました。

 衰えているどころではない。昔よりも「良くなっている」のです。

 これは驚異的なことです。

 ひとは何歳になっても成長できる。90歳で、こんな姿を見せられてしまうと、もう誰も年齢を言い訳にできません。

 すごいすごいと言ってばかりいられない。自分も頑張らなければ…と思わされる。これが「元気をもらう」ということなのでしょう。

 私たちも、会場の皆さんと一緒に、感動だけでなく、それ以上のものを与えられたような気がします。
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ブラ2

2022-11-18 22:06:00 | 音楽
 メインのブラームス「ピアノ協奏曲第2番」は名曲ですが、めったに演奏されない。私も、山響に入団してから初めてです。

 理由はたぶん、ピアノが難しいから。ピアニストの皆さんが嫌がるらしい。そして曲の長さ。4楽章まである大曲なので、コンサートのメインプログラムにするしかない。この曲の後にシンフォニーでは、お客さん的にも厳しい。ということで、プログラミングしにくいのです。

 しかし、私はこの曲を演奏するのは2回目です。アマチュア時代に、自分のオーケストラで演奏したことがあるのです。

 ソリストは伊藤恵さん。突き詰めたプログラムを演奏するオケだったので、ゲストも妥協せずに、一流を呼びました。

 今考えると、本当に贅沢だったと思います。3楽章にチェロの長いソロがあります。この楽章は、チェロとピアノのデュエットをオーケストラが支えると言ってもいい。こういう時間を共有する体験は貴重なものです。それを弾いたメンバーとは今も仲良くしています。

 今回のソリスト、藤田真央さんはさすがの一言。天才肌ですね。私服で喫煙所で会うと、その辺の、ちょっと変なお兄さんにしか見えない。まさか、一流のピアニストだと気づく人はいないと思います。

 しかしもちろん、ピアノを前にすると、出てくる音が本当にすごい。…チケットを入手できた人は幸運です。ぜひ楽しみに来ていただきたいと思います。

 良いコンサートになるよう頑張ります。
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How beautiful

2022-08-06 21:48:00 | 音楽
 「もし、無人島に一枚しかCDを持って行けないとしたら何を選ぶか?」

 みたいな、つまらない話を若いころ、よく飲みながらしたものです。

 この歳になると、むしろ「自分の葬式で流してもらいたい曲は」というテーマになるかもしれません。

 私の場合は、間違いなくその候補に入る曲が「メサイア」の中にあります。

 それは「第2部」の終わりの方にあるソプラノのアリア「How beautiful~」です。

 『何と美しいことでしょう、 平和の福音を宣べ伝える者の足は、 良き事々の嬉しい知らせをもたらす者の足は。』

 という意味らしいですが(ググりました)、そんなことはどうでもよろしい。どうして「足」が綺麗なのか、まったくわからないし。でも曲がとにかく美しいので、知らない人にはぜひ聴いてみていただきたい。

 こういう静かな美しい曲が好きです。大学での公演のソリスト合わせで、初めて生で聴いた時、ソプラノのソロのおばさま(失礼、二期会の立派な声楽家の方です)に、恋してしまいそうになりました。

 「足」じゃない。この曲です。「How beautiful!」なのは。

 …本当に、一曲一曲思い入れと、思い出がある「メサイア」。古楽寄りなので、私のイメージとはずいぶん違いますが、明日は、良い演奏会になるよう頑張ります。
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夏休みまで

2022-07-23 23:59:00 | 音楽
 仙台フィルとの合同による公演が終わりました。

 1曲で1時間半というのは、やはりかなりの集中力を必要とされますね。

 長い交響曲は数ありますが、そのなかで一番よく演奏されるのはベートーベンの「第九」でしょう。あれも集中力が必要です。しかし「第九」の場合は「これが終わったら冬休みだ!」という期待感に支えられている。最後のプレストに入ったあたり、音楽の高揚感もさることながら、「今年もおつかれっ!」へのカウントダウン感による盛り上がりがすごい。

 今回の「ブル8」も、その後すぐに夏休みだったら、もっと迫力が出たかも知れません。…というのは冗談ですが、本来なら翌日に仙台公演も予定されていたところ、地震によるホールの損傷で中止になったのは残念。とはいえ「明日もある」と思うと、無意識にセーブする部分もある。翌日がない事で、結果的には、さらに良い演奏になったとも言えるかも知れません。

…演奏会は「一期一会」ではありますが、我々にとっては明日以降のお客さんへの責任もある。そういう中での「ペース配分」は、なかなか微妙なものなのです。

 さて、夏休みまではあと、山響が3本、山形Qが2本。暑い中ですが、気を抜かずに頑張ります。
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ヨード卵と白子のり

2022-06-04 23:59:00 | 音楽
 今週の山響は、明日のハウス食品主催のファミリーコンサート。福島での公演です。

 「トムとジェリー」とか「ミッキーマウス」など、昔のアメリカのアニメには、クラシック音楽を使ったものが、実は多い。その映像に合わせて生のオーケストラの音で楽しんでもらおうという企画がメインの演奏会です。

 つねづね思っていることですが、アニメに限らず、映画やドラマで、もっとクラシックを使ってほしい。

 昔はよくありました。「ウルトラマン」におけるシューマン「ピアノ協奏曲」、「デビルマン」でのブラームス「交響曲一番」など、インパクトは強いし格調高くなるしで、良いことばかりです。

 つまらない曲を使用料払って使うぐらいなら、もっとあってもいいはずです。

 そういう意味で最近注目なのは、ドラマ「家政婦のミタゾノ」。…実はわりと好きです。

 ペールギュントの「山の魔王」が効果的に使われている。センスが良いと思います。クラシックの名曲は、あたりまえですが「本気」の音楽なので、コミカルな効果もあるのです。

 昔のCMでも好きなのがたくさんありました。

 「ヨード卵光」で東八郎が山高帽を上げると額に「光」のシールが出てきたところでメンデルスゾーン「ヴァイオリン協奏曲」。大好きでした。

 あとは伊東四朗の「白子のり」。白子のりを「食べたことない」と言うと周囲の人に驚愕されて「展覧会の絵」のサミュエル・ゴールデン〜が流れるやつ。これも大好きでした。

 今は私たちの方が、「名探偵コナン」とか「鬼滅の刃」を演奏して寄っていくばかり。望ましいのは、普通にクラシックの名曲を演奏しても「あっ、『のだめ』だ!」みたいに盛り上がってくれる状態。これが理想です。

 芸術としてだけでなく「カルチャー」としてのクラシック音楽に光を当てるコンサートになればと思います。
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Winkとマゼール

2022-05-20 21:36:00 | 音楽
 娘の高校の音楽鑑賞教室が終わりました。それなりに楽しかったようです。

 なんと言ってもこの学校は、日頃から予習復習の課題がものすごく多くて、みんなヒイヒイ言ってます。寝る間もないほど。息子もそうでした。

 午後の授業では、昼食後ということもあって、皆、朦朧としている。話のわかる先生は授業中に5分間寝かせてくれたりするそうです。その途端、ほとんどの生徒が机に突っ伏して熟睡するとか。

…そんな過酷な環境の子どもたちですから、ベートーヴェン全楽章の途中にウトウトするのも当たり前。その割には、よく聴いてくれた方だと思います。

 そんなウトウトしている生徒たちの前で演奏しながら、自分の高校時代のことを思い出していました。

 初めて、自分の意志で選んで自分のお金でチケットを買ってコンサートに行ったのは、この頃だったなと。

 今のようにスマホで見て、気に入ったのをポチッとするということはもちろんないので、本屋で「音楽の友」を広げて、行きたいと思った公演をメモして渋谷のヤマハのプレイガイドへ。

 覚えているのはマゼールが日本に来て振った「復活」です。あの頃はマーラーが好きだったので、どうしても行きたいとチケットを買いました。オケが読響だったこともあって、学生券はそれほど高くなかった。

 高校に上がる前にも、クラシックのコンサートには数知れず行きましたが、そのほとんどはヴァイオリンの先生から「この演奏会は勉強になるから行きなさい」と指定されて、なんとなく行くだけ。もちろん素晴らしいのですが、ウトウトしたりしていました。

 でも、自分で行くと違います。学校帰りの山手線で「何でこっち方面乗るの?」と友達に言われ「上野でコンサートあるから」。「え、何の?Winkとか?」

 などという会話を経て辿り着いたコンサートで寝るわけにもいかない。実際、初めて生で聴いたマーラーは感動しました。

 昔の読響はあまり上手ではなかったし、マゼールも本気で振っている感じでもなかったでしょうが、そういうことではない。「初めて自分の意志で本物に触れる」ということの感動でしょう。その体験は、今私がこうしてオーケストラで弾いていることと無関係ではないはずです。

 高校生の時代は、そういう体験に満ちています。今回のスクールコンサートがそのひとつになる、とまでは思いませんが、今回で興味を持って、自分のお小遣いで山響を聴きに来てくれるような生徒が1人でもいればと願います。
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ラ・ボエーム

2022-03-05 23:59:00 | 音楽
 デュラン爺さんは、ぞっとして思わず叫び、画架を大家に見せた。

「絵描きですよ!」
「芸術家か!どうもそんな気がしたんだ」

 今度はベルナール氏が大声を出した。鬘の毛という毛が恐怖に逆立った。

「よりによってまた芸術家か!さてはおまえ、身元調査をしなかったな!何の仕事なのか知らなかったんだな!」

「でも、こちらさんはお心付けを5フランも下さいましたので、まさか芸術家だとは思いもしませんで…」

 「ラ・ボエーム」の原作の一部です。4人の芸術家志望の若者たちが出逢う場面。オペラには無い「それ以前」のストーリーです。音楽家のショナールは家賃を滞納しまくってアパートを追い出される。そこへ次の借り手として、画家のマルセル(オペラではマルチェルロ)が現れたところ。

 芸術家イコールたちの悪い貧乏人なわけです。

 結局、マルセルはショナールと一緒に暮らす事になり、この部屋がオペラの主な舞台になります。

 大家のベルナール氏の予想通り、その後も家賃がきちんと払われることはないのですが。

 原作は、芸術の都パリに集まる若者たちの、とにかくハチャメチャな青春の群像劇です。オペラは悲恋に特化して書き直されていますが、原作はひたすら明るい青春模様の連作短編集。

 4人の仲間は、誰かにちょっと収入があると、借金を返す事など考えもせずに、すぐにカフェに繰り出して、有り金すべて飲んでしまう。そしてまた家賃は払えない。

 ダメな大学生そのものですね。でもそれが清々しい。そして、若い頃ゆえの大らかさを、まぶしく感じる。

 …今の大学生はそうでもないのかも知れませんが。

 オペラでは主人公の恋人が結核で死んでしまう。夢や希望だけではどうにもならない現実というものがあることを、初めて思い知らされるということでしょう。

 もし「その後」があったとすれば、今度は、夢だけでは食べて行けないことを受け入れて、現実に折り合いをつけて行く姿が描かれたかも知れない。でもそんな姿は、もはや劇場に足を運んでまで見る必要はない。

 一定以上の年齢の人なら誰もが、自分が若かった頃を思い出して感情移入できる。これが「ボエーム」の魅力なのでしょう。
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南陽市民文化会館公演

2022-01-09 22:19:00 | 音楽
 昨日の郡山公演を終えて、明日は南陽公演。

 今日は南陽のホールでのリハーサル。木をふんだんに使った新しいホールで、実に素晴らしい会場です。明日の公演も、去年予定されていたものが延期になった公演ですが、ほぼ完売ということで、嬉しい限り。

 ところで、南陽市には「白竜湖」という湖があります。いつも通る国道や、新幹線からも見えるのですが、客観的に言うと「湖」と呼ぶにはやや小さい。「ため池」にも見えるサイズです。

 しかし、ここが「雪むかえ」という現象が観測される、希少な場所らしい。

 「雪むかえ」というのは、秋の終わりごろに卵から孵ったクモの子どもが、お尻から糸を出してそれで風にのって遠くまで巣立って行く現象です。秋の晴れた日に、たくさんのそれらがチラチラと光って見えて、雪の粉が空を舞っているように見えるらしい。

 雪の早いこの地域では、それで「そろそろ雪の季節か」と思うようです。

 そういった、南陽の自然を曲にした「白竜湖」というオーケストラ付きの合唱曲を演奏したことがあります。今のホールができる前の、古い文化会館。古くて狭くて寒くて響きは良くなくて…でも懐かしい。

 「白竜湖」を演奏した時に、生前の私の母がわざわざ聴きに来ました。クモが大好きで、もともと「雪むかえ」で有名な白竜湖の名前を知っていたからです。…作曲家というのは、つくづくマニアックな生き物ですね。

「今度、白竜湖の曲やるんでしょ?行こうかな」
 …え?山形のさらに田舎だよ。
「良いじゃないの」
 …言っとくけど、すごいホールだよ。
「そんなの別に良いわよ」
 …いやいや、東京じゃ想像できないやつだから。心霊スポットかと思うよ。

 失礼、そのぐらいのホールだったのです。結局、母は楽しんで帰りました。初めて来たが懐かしいと言っておりました。

 山形県内のホールも、私が入団した頃とずいぶん変わりました。どこも、素晴らしくなっています。もはや、恥ずかしいような思いをすることもありません。

 でも、昔の姿もしっかりと記憶に残っていて、それを時々懐かしく思うのは、自分ももうそれだけ山形が長くなったということなんですね。

 さて明日も、新しい素敵なホールで、良い演奏会になるよう頑張ります。
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謹賀新年

2022-01-03 22:36:00 | 音楽
 明けましておめでとうございます。

 この年末年始の休みは、久しぶりにいろんな人にも会えて充実したものになりました。(もちろん「密」を避けたりマスクをしたり、すべきことはきちんとしています)。

 昨年は、残念ながら親族でも不幸が複数あったものの、葬儀などには参列できず、申し訳ない気持ちでした。しかし、この機会に改めて顔を見ることができたことに感謝します。

 さて、毎日天気の良い関東を離れて、山形へ戻ってきました。今日は天気も穏やかで、いつも通りの所要時間ですんなりと。

 それでも、福島から米沢の峠を越えると、空もすっかり鉛色になって雪がちらちらと車に当たります。…しばしの夢から醒めて、現実に戻ってきたような。

 しかし、この貴重な休暇で、2年のコロナの悪夢から醒めた感覚もあります。

 もちろん、まだまだ気を抜くことはできませんが、良い一年になりそうな期待感を、明日からの演奏につなげたいと思います。

 今年もよろしくお願いします。皆さまにお会いできる、全てのコンサートが、良い演奏会になるよう頑張ります。

 …まずは明日の朝、雪の中に放置してある私の車を掘り出すのが最初の仕事。ちと億劫ですが、これもまた新年の風物詩。張り切って行きましょう。
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