休日は、まず温泉から。これはオールシーズン共通です。
しかし、山形はこの時期、人口が急増します。帰省のためです。ウキウキしたおじいちゃんおばあちゃんを、至る所で見かけることになります。もちろん温泉でも。
私の行きつけの温泉にも、意気揚々とお年寄りが入ってきたと思ったら、息子と孫が後からついて来ていました。孫は3歳くらいの女の子。遠くからでも、おじいちゃんのメロメロぶりが伝わってきます。
でも、この温泉は熱くて有名。地元に暮らす大人でも敬遠する人多数なのに、こんなに小さな女の子が持ちこたえられるのか?
おじいちゃんも、ふと心配になったらしい。
「ちっとあっづいかな~?カナちゃん泣いちゃうかもしんないなぁ」と予防線。
「大丈夫ですよお義父さん。カナはお風呂大好きで、熱くてもいつまででも入ってますから!」
…東京から帰省中の、義理の息子らしい。
「いや~朝から温泉なんて最高ですねっ!ねっ、ウレシいね~、カナ‼︎」
…気遣いのハイテンションが初々しい。
「そうか?ヨシッ、じぃじと一緒に先に入ってようか!」
カナちゃんを抱えて颯爽と湯船に浸かる「じぃじ」。しかし、足が湯に触れた瞬間ビクッと震え、笑顔を失くす「カナちゃん」。
……天然なので温度にムラがある温泉ですが、今日は特に熱かったのでした。素人にはムリ。
あまりなついてない「じぃじ」に気を遣い、無言でもがく「カナちゃん」。抱っこされながら、砂漠のトカゲのように足を引っ込めては湯から逃げています。騒がないのが偉い。「気遣い」が本能にプログラムされている。
娘のヘンな動きを、はしゃいでいると勘違いした義息は、
「お義父さん、お風呂上手ですねっ!」
と場違いなコメントをしながら湯に足を踏み入れて硬直。
「ア、アハッ!けっ結構熱いですね‼︎」
それでも根性で、即、肩までイン。
「大きいお風呂、気持ちいいね~、ねっカナ‼︎」
リラックスしていない声音が響きわたる浴室。
残念ながら子供は正直。
「あつい~、もう出る!」
幼児とは思えない活舌でキッパリと宣言。
「じゃあ10まで数えたらジュース買ってあげる!」
義息も、もはや破れかぶれ。支離滅裂だが、自分も熱い。
ところがなんと、ここでカナちゃんが駆け引き。
「アイスがいい…」
「えっ、あっ、アイスはママに怒られるんじゃないかな…」
この状況で思考能力が薄れているにもかかわらず、そちら方面にも気を遣う義息。…もうアンタは充分頑張った。と、タオルを投げ込みたくなる。
そこへすかさず、
「じぃじがアイス買ってやる‼︎なっ、カナちゃん!」
ここで落とすしかないと瞬時に判断した義息。
「良かったな~、カナ‼︎」
それぞれの思いを胸に、全力で10まで数える親子三代。周りでハラハラしながら浸かっていた我々全員も、心の中でテンカウント。その時浴場がひとつになりました。
…心温まるドラマが生まれる、年の瀬の山形を後にして、我が家も、東京へ帰省することにします。