ブログ 「ごまめの歯軋り」

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読書ノート 近藤誠 著作集

2013年11月18日 | 書評
医療界の常識を破るがん論争異論! 医療ムラの利益か患者の生活の質QOL重視か  第6回
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1) 近藤誠著「患者よ がんと闘うな」(文春文庫 2000年12月)
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④ がんは本物のがんとがんもどきに分かれる
 このテーマは細胞生物学的に難しい問題で、特に近藤氏が言う「がんもどき」細胞については細胞学的特徴や概念が実証されたわけではない。つまり仮説に過ぎない概念ですが、一般にはわかりやすい概念で、治るがん(がんもどき)と治らないがん(本物のがん)が存在することを言っている。医師は治るがんを自分の功績にするが、「切らなくてもいいがんを切っただけで治ったという」と近藤氏は主張しています。まさにがん治療のコペルニクス的転回です。天動説を地動説に言い換えているのです。だから近藤氏は医療の世界から猛反発を受け、つまはじき(村八分)にされたのです。しかしここは重要なので(本書の一番大切な仮説なので)よく考えてみよう。がん細胞の定義(基本的な性質)には3つある。第1はほっておくといつかは人の命を奪う。第2は原発病巣のがん細胞は無限に増殖す能力を持つ。第3は原発病巣は他の臓器に転移することです。がん細胞の増殖速度は意外に遅いものです。がんは恐ろしい速度で増殖すると専門家は脅かしますが、がんと分かる1㎝ほどの大きさに成長するのに3年から6年はかかります。通常の体細胞(新陳代謝の激しい臓器細胞・表皮細胞)のほうががん細胞より増殖が速い。だから抗がん剤は効かないという本質的宿命を持つか、あるいは正常細胞にダメージを与えるのです。特に前立腺がんや甲状腺がんの細胞増殖速度は遅いことで有名ですが、他の病気で死亡した人を調べると前立腺がんを持っていた人が40%、甲状腺がんを持っていた人が10%もいました。ところが前立腺がんで死ぬ率は1%以下であり、甲状腺がんで死ぬ人は0.1%以下です。これらの性質を「潜伏がん」と呼びます。がん細胞の倍化時間は2-3か月ですが、スキルスがんは特別に早く5-10日ほどです。がんが増殖するだけなら症状が出てからその段階で治療しても手遅れになるわけではない。がん細胞が浸潤して血管内に入り多臓器に達して血管から臓器細胞内に入る転移というがん細胞の性質を獲得することが恐ろしいのです。そしてこの転移能はがん細胞が生まれつき持っているもので、原発病巣がん細胞がかなり大きくなってから獲得するものではないのです。「早期発見ー早期治療」というスローガンは原発病巣が大きくなってから転移を始めるという誤解に基づいています。ところががんの転移は(がんはすべて転移するものではないというのが近藤仮説理論の重大な点です)初発がん細胞の発見の前にすでに起きていると考えなければなりません。原発病巣治療の1-3年後に転移が見つかり場合が多いのですが、治療の時点でがんの転移は始まっていますが、目に見えないだけです。

 「がんもどき」という概念は1955年カナダの統計学者マッキノンが気付いて、がん細胞には2つの異なった性質のものが含まれると言い出しました。1920年代から1950年代まで乳がんによる死亡率はアメリカ各州で変わらないことを言ったのです。死亡に至ったがんを「本物のがん」とすると、がん死亡率が一定であることから早期発見早期治療の前提は崩れます。アメリカコネクチカット州の1950年代から1980年代の統計を見ると、10万人あたりの乳がん発見数はうなぎのぼりに増加していますが、乳がん死亡数は一定でした。するとがんもどきが増えたのか、発見技術の向上(見間違い?)で発見数が増えているだけなのかという疑問が生じます。いまのところ細胞生物学的顕微鏡診断では「がんもどき」の発見はできませんし、転移能の有無も判断できません。「非浸潤がん」、「上皮内がん」、「粘膜内がん」は局所にとどまるので転移能はありません。早期胃がんでも同じです。転移能がなければがんという定義から外れるので、これらの「粘膜内がん」は存在があいまいで、検査映像技術の発展で見つけられるようになり、外科医は見つけ次第「がん」だといって切除手術を行い、がんを治療したと称するのです。良性の「粘膜内がん」はあらゆる臓器の固形がんについてみられます。良性のポリープでもほっておくとがんになると脅かす医者がいますが、誰にでもある大腸ポリープは老化現象と言えるもので、放っておいても何の悪さもしないのです。つまり検査技術の発展が大量の「がん」の増加となり、医療機関は潤っているといえます。血液中の腫瘍マーカーとしてPSAが前立腺がんに関係しているとされますが、この検査によって米国では前立腺がん手術が4倍になりましたが、前立腺がんによる死亡数は減少していません。意味のない手術が行われているのです。超鋭敏な診断・検査技術が大量の患者を生み出し、それが医療界の仕事を増やし、結論として何の役にも立っていないという構図が描けます。そして患者は意義のない手術によって生活の質が大幅に低下し、後遺症に苦しんでいるのです。だから近藤氏はPSA診断を受けないようにして暮らすことを勧めます。早期発見ー早期治療理論はこのように証拠のないデマゴギーに基づいています。外科医が手術で治療できたというのは、もともと良性で切る必要のない「がんもどき」といわれるものです。「本当のがん」は切除する前にすでに転移しており、切除という外科手術で治療できるものではありません。早期発見理論の論理は「早期がんはほっておくと進行がんに変化する」という脅かしです。しかしがん細胞の転移成立時期については専門家にとって重大なタブーとなって、口を閉ざしています。原発がんと転移がんは全く検出できない時期にある時間遅れで発生しているものです。これを言うと専門家たち(医師、医療界の利害関係者・ステークホルダー)からは村八分にされます。業界の利益に反するからです。関係者はしゃにむに早期発見理論を信じ込んでいます。原発ムラで「原発安全神話」が信じ込まれていた構図と同じです。業界は「早期発見すれば助かる、したがってがん検診は正しい」と信じ込ませる大キャンペーンを国をあげて推進してきました。専門家の言うことは嘘だらけでいざというときには何の役にも立たないことは3.11原発事故で国民はいやというほど見せつけられました。がん検診ー早期発見・早期治療というのは虚構なのかどうか、それは業界の収益につながる専門家のデマなのか、私たちは自分の頭でしっかり考える時に来ていると近藤氏は訴えています

(つづく)


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