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転妻よしこ の 道楽日記
舞台パフォーマンス全般をこよなく愛する道楽者の記録です。
ブログ開始時は「転妻」でしたが現在は広島に定住しています。
 



昨夜は、イェルク・デムスのリサイタルがあって、
アステールプラザまで聴きに行った。
バッハの平均律第2巻全曲演奏会の一環で、
昨日のはその第二夜という位置づけだった。
第一夜は11月2日にあったのだが、私は多忙で聴けなかった。


イェルク・デムス ピアノ・リサイタル
11月16日(金)18:45開演
@アステールプラザオーケストラ等練習場
――平均律クラヴィーア曲集 第2巻 全曲演奏 第二日目

平均律クラヴィーア曲集 第2巻より
 プレリュードとフーガ 13 Fis-Dur BWV 882
 プレリュードとフーガ 14 fis-moll BWV 883
 プレリュードとフーガ 15 G-Dur BWV 884
 プレリュードとフーガ 16 g-moll BWV 885
 プレリュードとフーガ 17 As-Dur BWV 886
 プレリュードとフーガ 18 gis-moll BWV 887
*******
平均律クラヴィーア曲集 第2巻より
 プレリュードとフーガ 19 A-Dur BWV 888
 プレリュードとフーガ 20 a-moll BWV 889
 プレリュードとフーガ 21 B-Dur BWV 890
 プレリュードとフーガ 22 b-moll BWV 891
 プレリュードとフーガ 23 H-Dur BWV 892
 プレリュードとフーガ 24 h-moll BWV 893
半音階的幻想曲とフーガ ニ短調 BWV 903


私は平均律についてもデムスについても、
よく知っているとは到底言えない聴き手なので、
特にどこを聴きたいとか、何を聴き取りたいとかいう前提は無しに、
昨夜はただ、ひたすらに音楽を受け取らせて貰ったのみだった。
聴き手として、一音一音を追うような聴き方になる箇所もあれば、
ある意味で集中がなくなってイメージの世界に遊んだ箇所もあり、
全体として私はとても自由に心地よく、楽しく聴くことができた。

そのような中で、私の中に始終浮かんでいたキーワードは、
『ブゾーニ』だった。
デムスの弾くバッハは柔らかくて色彩があり、懐が深くて、
それは私にとって、ブゾーニ編のバッハに通じる、
自由さや躍動感に溢れたものとして聞こえたからだ。
どうして私がこのようにブゾーニに親和性があるかというと、実は、
私が自分のピアノ学習の中で、最初にまともに出会ったバッハは、
ブゾーニ編の二声インベンションだったのだ(大汗)。

当時の先生のお考えは、今となっては不明なのだが、
初心者の私には、懇切丁寧な楽譜が良いということだったのだろうか。
ともかく、あれのせいで、…じゃない、御蔭で、私は結果的に、
初対面のバッハと「普通」とは言えない出会い方をしたと思う。
私はかなり後になってから、自分の唯一知っていたバッハが、
世の中で広く一般的にバッハだと思われているものと、
少なくとも楽譜上、どうも一致していないらしい、
ということを知った。

バッハのインベンションを弾いたことのある方で、
ブゾーニ編をご存知ない方は、機会があればどうぞ楽譜をご覧下さい。
トリルやプラルトリラーの箇所が、ほとんどすべて音符で書き出してあり、
スラーやスタッカートなど、こと細かく書き込まれ、
曲ごとに速度指定があり、詳細なペダル指定までなされていて、
一目でほかの楽譜とは違うことがあきらかなのだ(^_^;
(14番なんか全部の音価が倍にされていて、とっても読みやすい・殴)。
原典版系の楽譜でバッハを勉強なさった方なら、ブゾーニ版バッハには、
その、あまりの鬱陶しさ・お節介さ加減に呆れられると思う。
そして、デムスのバッハは、私がブゾーニで知っていた独特の彩り、
……ケナして言えばそうしたウザさ(爆)を連想させるものが
ふんだんにあった、と思うのだ。

今、多少なりとも趣味でピアノを聴くようになってみると、
ブゾーニの楽譜は、バッハ解釈の中でも非常に即物的に、
「どう弾くか」を具体的に示そうとしたものだったと感じられる。
そしてそれは、バッハが作曲をした時代から200年近く経って、
楽器もグランドピアノへの進化を経る中で考案された弾き方だった。
チェンバロと異なる機能を持つ、現代ピアノであればこそ
美しく効果的な演奏法を、ブゾーニは数多く提案した。
モーツァルトやベートーヴェン、ショパン、リスト、
そしてシェーンベルクまで知った世代が、それらの経験の上に、
現代ピアノを使って、改めて取り組んだ結果生まれるバッハが、
ブゾーニの提案したバッハだった、と私は今になって思っている。

昨夜のデムスを聴いていて、私はその流れの延長上に、
デムスの立ち位置があるようなイメージが、幾度も浮かんできた。
ブゾーニが、自身のピアニストとしての知恵を結集して
現代バッハの弾き方を書き残そうとしたように、
デムスもまた、80歳を過ぎた今、バッハを弾くことに、
彼のピアニスト人生の総括を見出しているのではないかと思った。
帰宅してから改めてデムスの経歴を読んでみたら、
1956年にブゾーニ国際コンクールで優勝し、
これを機に、世界各地で演奏活動を行うようになった、とあった。
やはり、昨日の私のキーワードは『ブゾーニ』だったようだ(笑)。

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