とにかく今年のA中高文化祭は天気に祟られた。
朝はまだ、蒸し暑いくらいの曇天で済んでいたのが、
もってくれの願いもむなしく、開店の10時になった途端に降りだした。
「まあ、降ったりやんだり、くらいなら……」
という我々の会話を尻目に、雨足は更にどんどん強まった。
私たち100円くじ売り場は、学食前の軒下だったので、
一応、屋根があったが、目の前の、校舎と校舎の間の通路には、
見る間に大きな水たまりができ、広がっていった。
突然の雨で、グランドの運動部のイベントが次々と中止になり、
右往左往し始めたA中高の生徒さんたちが、
傘なしで向こうの校舎まで走り抜けようとしては、
同じところまで来ると、この水たまりに足を突っ込み、
「キャア」
「キャア」
「キャア」
「キャア」
と順番に悲鳴をあげていたのが可笑しかった。
「バザー会場に上がって、バスタオルを買って、拭きなさい!」
と娘さんに指示している役員さんも、いた。
私たちは、その、延々と続く
「キャア」
「キャア」
「キャア」
「キャア」
をBGMに、100円くじ売り場で頑張った。
「くじ、やりませんか~」
「くじ引き、いかがですか~」
「ハズレなしですよ~」
小学生が1円玉と5円玉と10円玉で100円分にして
「ハイ」
と渡してくれたのには参った。
ざらざらっと小山になるほどで、死ぬほど数えさせられた。
少ない元手で、彼が引き当てたのは1等で、
「一等出ました~~!!」
と、小道具の鐘を振って、皆でイエーイエーと盛り上げたが、
渡すときの感触からすると、多分中身はブランドタオルだった。
ごめんな、ボク。おかーさんにあげてね。
ときに雨は叩きつけるように降って、風も強く、
朝からの労働で汗をかいていた私たちは皆、冷えてきた。
と、そこへ、食品バザーのほうからやって来た、
パンの行商が、くじ売り場の前を通りかかった。
「パン、どうですか~」
「かっ、買います!!」
「お昼、買っとかないと!!」
我々が一斉に財布を出し、夢中になってパンを物色し始め、
気づいたら、くじ売り場の真ん中がパン売り場と化していた。
その間、くじ引きのお客さんは呆気にとられていたようで、
これはいかんと反省し、次からは行商が来たら脇のほうで交渉する、
と我々の間で新しい取り決めをつくったりもした。
随分たくさんの方にくじ引きをして貰い、
中には気に入って何度も来て下さった方もあったというのに、
新型インフルエンザのための一般公開の制限と、悪天候のせいか、
100円くじはなかなか減らなかった。
しまいに我々は、自分の娘や知っているお嬢ちゃんたちを一本釣りした。
娘も、喫茶のテントでお友達と喋っているところを見つけられ、
「転娘ちゃん。転娘ちゃん。転娘ちゃーーーーーーん!!」
と、私の隣にいたお母さんに大声で呼び出されていた。
娘は200円払って二回引いて、二度とも「四等」だった(苦笑)。
途中、昼食だけは交替で取ったが、
それもさきほどのパンや、食品バザーで買った弁当を
物陰で急いで食べて、また戻ってくるという有様で、
今年は、お茶一杯も飲めず、娘の展示も見に行けなかった。
とにかく100円くじがハケないと撤収も解散もできないのだ。
終了予定時刻の午後3時が迫ってきて、最後は皆、焦りまくった。
こうなったら身内で片付けるしかないということになり、
「もうっ、これで、10回引くから!」
と千円札を叩きつけた役員さんもいた。
それで10枚が全部、4等5等なのには参った。
一方、私は5枚買い、そのうちの二枚が2等だったので、
さきほどの役員さんに慈悲を掛け、一枚交換して差し上げた。
まったく、疲弊するまで働いた挙げ句に、
学校に寄付して行事を終わらせようとする私たちって、一体。
ばんばん叩き売りのようにまとめて、最後は東証の大晦日のごとく手締め、
そのあと、会計担当の某さんと私はPTA会議室に場所を移して
売り上げの計算をした。
当然のことだが100円玉が何百枚もあった。
この中に、どれだけ我々の善意の寄付が混じっていようと、
娘らをオドして引かせた分が大半だろうとも、
とにかく、100円くじは例年通り売り切ったのだ。
エラかった。自画自賛。
この瞬間、誰もが内心で同じことを考えているのは明らかだった。
『もうしない。役員は、今年で終わりにする。二度としない』。
そこへ、役員代表さんがやって来て、満面の笑顔で言った。
「お疲れ様~~!!でさ、打ち上げ、いつにする?○日でいい?」
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