ジグザグ山歩き

山歩き、散歩、映画など日々、見たこと、聴いたこと、感じたことなどつれづれに。

ポエトリー アグネスの詩

2012-06-17 11:17:21 | 映画
監督はイ・チャンドン。この映画は2010年のカンヌ国際映画祭で、脚本賞(イ・チャンドン)を受賞。静かな地方都市。66歳のミジャ(ユン・ジョンヒ)は、釜山で働く娘の代わりに中学3年生の孫ジョンウク(イ・デヴィッド)を育てている。生活保護と介護ヘルパーの仕事で生計を成り立たせている。「おしゃれなひと」と呼ばれていた。ミジャは、近頃めっきり物忘れが激しくなってきたことが気にかかりはするけれど、偶然目にした広告をきっかけに、小さいころに「将来詩人になるだろう」と言われたことを覚えていたので、詩作教室を受講することにする。講師の「詩は、見て書くものです。人生で一番大事なのは見ること。世界を見ることが大事です」という言葉に従って、ミジャはリンゴを眺め、木を見つめ、感じたことを手帳に記していく。
 そんなとき、ジョンウクの友人ギボムの父親(アン・ネサン)から連絡が入り、孫の仲の良い6人組の保護者の集まりに連れて行かれる。そこで知る、驚愕の事実。先日自殺した少女ヒジンの死に、その6人組が関わっていたというのだ。アグネスという洗礼名を持つヒジンの慰霊ミサに出向いたミジャは、入口にあったアグネスの写真を持ち去る。小さな遺影を目の前に置いてみても、平然としている孫。自分が犯した罪に、知らぬぞぶりを見せ、ゲームセンターに入り浸ったり。祖母には悪態をついたり、祖母の気苦労までは理解できていない。いつしかミジャはアグネスに心寄せるようになり、彼女の足跡を辿っていく。ミジャは少女の軌跡を追いながら、感情移入をしていったとも思われる。その中で、孫に愛情を持ちつつも、取り返しのつかないことをしたことに対し、ミジャ自身も罪の意識が浸透し、詩も生まれてくる。この映画は、登場人物が具体的にどうなったかを説明するような設定はなく、結末は直接示されていない。しかしどうなったかの予測はわかりやいが、見る側にゆだねられている。監督を本作に導いたのは、韓国中を震撼させた女子中学生集団性暴行事件の衝撃であったとのこと。いろいろと考えさせられる映画であり、まさに人間の中の光と影、美しさと醜さ、善良さと邪悪さ、賢さと愚かさを混在させ、人間を真摯に見つめた映画になっている。