おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

海辺の映画館―キネマの玉手箱

2023-08-27 06:49:51 | 映画
「海辺の映画館―キネマの玉手箱」 2019年 日本


監督 大林宣彦
出演 厚木拓郎 細山田隆人 細田善彦 吉田玲 成海璃子
   山崎紘菜 常盤貴子 小林稔侍 高橋幸宏 白石加代子
   尾美としのり 武田鉄矢 南原清隆 片岡鶴太郎
   柄本時生 村田雄浩 稲垣吾郎 蛭子能収 浅野忠信
   伊藤歩 品川徹 入江若葉 渡辺裕之 手塚眞 犬童一心
   根岸季衣 中江有里 笹野高史 本郷壮二郎 川上麻衣子
   満島真之介 大森嘉之 渡辺えり 窪塚俊介 長塚圭史
   寺島咲 犬塚弘 有坂来瞳 ミッキー・カーチス

ストーリー
尾道の海辺にある唯一の映画館「瀬戸内キネマ」が、閉館を迎えた。
嵐の夜となった最終日のプログラムは、「日本の戦争映画大特集」のオールナイト上映。
上映がはじまると、映画を観ていた青年の毬男(厚木拓郎)、鳳介(細山田隆人)、茂(細田善彦)は、突然劇場を襲った稲妻の閃光に包まれ、スクリーンの世界にタイムリープする。
江戸時代から、乱世の幕末、戊辰戦争、日中戦争、太平洋戦争の沖縄……3人は、次第に自分たちが上映中の「戦争映画」の世界を旅していることに気づく。
そして戦争の歴史の変遷に伴って、映画の技術もまた白黒サイレント、トーキーから総天然色へと進化し移り変わっていく。
3人は、映画の中で出会った、希子(吉田玲)、一美(成海璃子)、和子(山崎紘菜)ら無垢なヒロインたちが、戦争の犠牲となっていく姿を目の当たりにしていく。
3人にとって映画は「虚構(嘘)の世界」だが、彼女たちにとっては「現実(真)の世界」。
彼らにも「戦争」が、リアルなものとして迫ってくる。
そして、舞台は原爆投下前夜の広島へ――。
そこで出会ったのは看板女優の園井惠子(常盤貴子)が率いる移動劇団「桜隊」だった。
3人の青年は、「桜隊」を救うため運命を変えようと奔走するのだが……!?


寸評
大林宣彦監督の遺作として見ると感慨深いものがある。
大林監督らしい映像処理と途切れることないセリフが僕たちに襲い掛かる。
話はあってないようなもので、明治維新から太平洋戦争までの戦争体験がデフォルメされて描かれる。
まず感じ取れるのは大林監督の映画への愛である。
冒頭で「鴛鴦歌合戦」を髣髴させるシーンが展開される。
「鴛鴦(おしどり)歌合戦」は時代劇ながら、1939年制作の和製ミュージカルの傑作だ。
おやおやミュージカルかと思っていると、新選組を題材にチャンバラが始まる。
明治維新も国内戦争であり、近藤や土方、坂本龍馬や西郷隆盛もその犠牲者として描かれる。
狂言回しの三人は時に傍観者、時に当事者となって戊辰戦争、日中戦争、太平洋戦争、沖縄戦、原爆投下を目の当たりにしていく。
僕は戦後生まれで戦争を知らない。
彼ら三人と同じで、書物や映画でその実態を知っているだけだ。
映画館においては観客は傍観者なのだが、同時に映画は観客を描かれている内容に同化させ、自らを主人公になぞらえていく効果を有している。
映画を見ている僕たちは銃弾を受け血を流すことも、負傷してもがき苦しむこともないが、疑似体験を通じて平和への願望と実現に務めなければならない。
戦争を知らないと言うことはいいことなのだ。

作中で盛んに中原中也の詩が挿入される。
中原中也は30歳の若さで死去した詩人であるが、紹介される詩はどれもが心に響く。
また「無法松の一生」が語られ、松五郎を阪東妻三郎、三船敏郎、三国連太郎、              勝新太郎が演じ、高倉健もやりたがっていたと聞くだけで楽しくなってしまう。
そして阪東妻三郎版でよし子を演じたのが園井恵子で、映画では常盤貴子が演じている。
園井恵子は宝塚歌劇出身で退団の翌年に「無法松の一生」に出演したのだが、1945年8月6日に所属していた移動劇団「桜隊」が当時活動の拠点としていた広島市で原子爆弾投下に遭い21日に原爆症のため32歳で死去した。
そのことも描かれているのだが、日中戦争から太平洋戦争に至る戦争によってどれだけの才能が奪われたことかとの憤りが沸き起こる。
もちろん無名の一般国民はそれ以上の犠牲を強いられている。
それは望んだ死ではなく、強いられた死だったのだ。

ラストシーンで中江有里が未来を語る窓の向こうに宇宙が拡がり赤ん坊が漂ってくるのだが、僕はこのシーンに「2001年宇宙の旅」へのオマージュを感じたのだが、大林監督にはどのような意味を持っていたのだろう。
そしてエンドクレジットになるのだが、いやあ出てくる出てくる、一体どこに出ていたんだろうと思うくらい大林監督を敬愛する人たちが。
これが遺作で良かったと思った。


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