おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

天国の門

2022-11-24 09:53:30 | 映画
「天国の門」 1981年 アメリカ


監督 マイケル・チミノ
出演 クリス・クリストファーソン クリストファー・ウォーケン
   ジョン・ハート イザベル・ユペール ジェフ・ブリッジス
   サム・ウォーターストン ブラッド・ドゥーリフ ジョセフ・コットン

ストーリー
1870年、東部の名門ハーバード大学の卒業式。
総長の祝辞を熱い視線でみつめる生徒たちの中にジェームズ・エイブリルとビリー・アーバインの顔があった。
それから20年、アメリカは混乱期を迎えており、ワイオミングにも、東ヨーロッパからの移民たちが押し寄せ、すでに生活を築いていたアングロ・サクソン系の人々とのトラブルは避けられなかった。
ある日、家畜業者協会の評議会が召集され、リーダーのフランク・カントンは、移民による牛泥棒の対策として粛清の議案を提出したのだが、なんとその人数は125名にもなっていた。
会議にはビリーも列席していたが、彼はかつての情熱を失い、今は酒びたりの生活を送っていた。
この土地に保安官としてやってきたジェームズは、再会したビリーから粛清の計画を聞き、なんとか阻止しようと移民の集まる酒場の主人ジョンに協力を求めた。
そして、彼が想いを寄せる娼館ホッグ・ランチの女主人エラのもとへ行く。
彼女を愛しているもう一人の男ネイサン・チャンピオンは、牧場主に雇われた殺し屋だ。
ネイサンから求婚されたエラは、彼の家族に紹介され、その誠意に心うごかされるが、その日、ホッグ・ランチに戻った彼女はレイプされ、店の女たちはカントンの傭兵によって全員惨殺された。
そして、ネイサンの家が傭兵に襲われ「エラを頼む」という手紙をのこして彼は死んでゆく。
戦いは開始された。


寸評
莫大な製作費をかけて撮られたフィルムは最終的に編集されて5時間30分のバージョンが出来上がった。
あまりに長尺なので、多くのシーンがカットされ3時間39分に再編集されたものがプレミアム公開されたが評判がよくなかった。
急遽2時間29分の短縮版がつくられて一般公開されたが、大幅な上映時間の短縮により映画は物語として機能せず、また、内容もアメリカ人の恥部を描いたようなものだったので、まったく興行成績がふるわず、公開後わずか1週間で打ち切りとなって大赤字を出し、ユナイテッド・アーティスツは倒産してMGMに吸収された。
その結果、この映画は天国の門から地獄の門へと揶揄されることになった。

映画の方はワイオミングの美しい大自然を捕らえた映像は素晴らしいし、大規模なセットもしっかり作り込まれており雰囲気を出している。
それぞれのシーンは丁寧に描かれているが、反面丁寧すぎていることが上映時間を長引かせている。
この映画に欠点があるとすれば、それだけの長時間を費やしながらも人物描写と説明がなされていないことだ。
オープニングで延々とハーバード大学の卒業式の描写が続き、その描写の中でジェームズとビリーが紹介されるように撮られている。
場面が変わった20年後でビリーは畜産者協会員になっていて、しかもその中で浮いた存在になっている。
どのようにして畜産者協会の会員になったのか、なぜその中で浮いているのかがよく分からない。
同じようにジェームズが保安官になった経緯も分らないし、町の人たちとの親密度もよく分からない。
駅員の男とジェームズはどのような関係なのか、ジェームズは酒場の主人ジョンと信頼関係があるのか。
ジェームズを取り巻く人たちによってジェームズの人物像が浮かび上がってくるという風でもない。
特にビリーの存在が宙に浮いたような感じで、重要人物のように描かれながら、この映画の中では大した役割を担っていない。
牛泥棒に手を焼いているのは理解できるが、フランクが移民を極端なまでに嫌い、自費で傭兵を雇ってまで殺そうとするのかもよくわからない。
多分ジェームズの妻なのだろうが、ラストでジェームズといっしょにいる薬におぼれているような女性は誰なのか説明がないまま終わっている。
枚挙にいとまがないほどそれぞれの人物の描き方に不足感を覚える。

移民たちは飢えに苦しんでいて牛泥棒をして食料にしている。
従ってジェームズの言うように、牛を盗まれている牧場主たちに正義はあるのだが、彼らの正義は殺人に向かう。
元はと言えば畜産家たちも移民だったはずだが、新たに入植してくる移民たちを排除に向かう。
すでに既得権を得ている者たちの身勝手な行動だ。
アメリカは人種のるつぼで移民によって成立した国だと思うが、この映画では往年の西部劇を通じて見てきた開拓者とは違う、負の部分が描かれている。
際立った存在のエラとジェームズを中心とした壮大な叙事詩だが、得てしてこのような作品は莫大な費用をかけた映画作家の自己陶酔になるようで「地獄の黙示録」もその部類のように感じる。
と同時に、この様な自己破産や会社倒産に追い込むような作品は撮られなくなってしまったなあとも思う。


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