おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

沓掛時次郎 遊侠一匹

2021-01-14 08:16:03 | 映画
「沓掛時次郎 遊侠一匹」 1966年 日本


監督 加藤泰
出演 中村錦之助 池内淳子 中村信二郎
   東千代之介 弓恵子 高松錦之助
   那須伸太朗 小山田良樹 松下次郎
   志賀勝 結城哲也 中村時之介
   阿部九州男 清川虹子 渥美清

ストーリー
街道を行く渡世人沓掛時次郎(中村錦之助)を身延の朝吉(渥美清)は兄のように慕っていた。
佐原の勘蔵一家に助ッ人として迎えられた二人だが、時次郎は喧嘩の当日、勘蔵の娘お葉(弓恵子)から草鞋銭をうけとると、朝吉を連れて勘蔵一家を後にした。
時次郎の行動に、納得のゆかぬ朝吉は、単身牛堀一家に乗り込み殺された。
時次郎の怒りは爆発し、牛堀一家を叩っ斬った時次郎は、鴻巣一家にわらじをぬぎ、助っ人を頼まれた。
相手は落ち目の中ノ川一家を守り抜く代貸の六ツ田の三蔵(東千代之介)であった。
勝運は時次郎にあり、三蔵は死にぎわ時次郎に女房おきぬ(池内淳子)と太郎吉(中村信二郎)の二人を、伯父のもとに届けてくれるよう頼んで息をひきとった。
時次郎はおきぬに自分が三蔵を殺したことを打明け三人の苦難の道中が始まった。
おきぬも憎みながらもいつか時次郎のやさしさにひかれ、時次郎も秘かに愛の炎を燃やした。
だがそのうち、おきぬは過労から労咳で倒れ、時次郎は金をつくるため馴れぬ仕事に精を出した。
やがて病も癒えおきぬ母子が沓掛の叔父のもとへ旅立つ日が来た。
だが旅立ちの日、親子の姿はどこへともなく消えていた。
そして一年が過ぎ、時次郎ははからずも高崎宿でかど付けをする母子に再会した。
複雑な気持のおきぬは雪の上に倒れ、時次郎は薬代をかせぐため、土地の八丁徳一家と聖天一家の喧嘩を聞き助っ人を買って出た。
医者に行くといつわって出る時次郎を送るおきぬには、死相がただよっていた。
時次郎の働きで八丁徳一家は勝利を治めた。
金を手におきぬのもとへかけつけた時次郎は、おきぬの美しい死顔に息をのんだ。
残された太郎吉をつれ、時次郎は故郷の沓掛へ向った。


寸評
冒頭で身延の朝吉が時次郎に代わって彼の仁義を述べるシーンがあるが、渥美清のこのタンカは小気味がよい。後年のフーテンの寅さんの口上を彷彿させる。
ヤクザ渡世の不条理さや、それによって死んでいく男たちのエピソードは小気味良く、六ツ田の三蔵との果し合いぐらいまではそのことがテンポよく進む。
時次郎が渡し舟で渡される柿の実は、その後に起きるおきぬへの慕情の伏線となっていたと思うし、二つに割ったクシが三蔵とおきぬ、時次郎とオキヌという三人の気持ちのつながり、苦しみを表す小道具として効果を上げていた。
画面を青くしたり、真っ赤な血でスクリーンを覆うなど色彩効果を狙ったりしているが、もう少し時次郎とおきぬの情愛の盛り上がりが欲しかった。

おきぬへの思慕の情を持ちながらも、三蔵との約束に苦しむ時次郎。
三蔵を弔いながらも徐々に時次郎に情を移していくおきぬ。
両者の葛藤の様なものがもっと深く描かれていたら大傑作になっていたかもしれない。
おきぬが時次郎のもとを去る場面などはもっと盛り上がってもいい見せ場だったように思う。
それでも、死を悟ったおきぬが綺麗な顔を見せたいと紅を引くシーンなどは、エピソードとして股旅映画へ感情移入させるに足りていた。
時次郎が高崎宿の女将相手に独白するシーンなどは、股旅映画だからこそ描けるシーンで、他のジャンルなら白けてしまうと思う。

登場するヤクザ者たちは弓恵子演じるお葉を初め、誰もかれもが打算的である。
一方で、清川虹子演じる安宿の女将の様な気のいい庶民が描かれ、やくざ者の非道ぶりが浮き出されるような構成になっていたように思う。
もっとも、なぜその女将がそれほどまでに時次郎に肩入れしているのかは不明だったが。

加藤泰の演出はローアングルを多用して、あたかも市井に生きる小市民を仰ぎ見るような効果をもたらしていたと思う。
もっとも、ローアングルは加藤泰の代名詞の様な所もあるけれど、小津安二郎の様な評価を受けていないのは可哀想だな。
時代劇の中に股旅映画というジャンルが有るように思うのだが、その股旅映画の中では上位にランクされる作品に仕上がっていると思う。
加藤泰の手堅い演出が光る。

中村錦之助と東千代之介は笛吹童子のジャリタレから成長していった役者だけれど、中村錦之助が性格俳優としての地位を駆け上がっていくのに対し、東千代之介はもうひとつ役柄に恵まれなかったなあ。ここの六ツ田の三蔵は良かったのだがなあ・・・。主演を張る役者ではなかったということなのかなあ。でも僕にとって思い出に残る俳優さんであることは間違いない。


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