おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

切腹

2019-09-05 10:29:17 | 映画
「切腹」 1962年 日本


監督 小林正樹
出演 仲代達矢 岩下志麻 石浜朗
   稲葉義男 三國連太郎 三島雅夫
   丹波哲郎 中谷一郎 青木義朗
   井川比佐志 小林昭二 佐藤慶

ストーリー
寛永七年十月、井伊家上屋敷に津雲半四郎(仲代達矢)と名乗る浪人が訪れた。
「切腹のためにお庭拝借…」との申し出を受けた家老斎藤勘解由(三國連太郎)は、春先、同じ用件で来た千々岩求女(石浜朗)なる者の話をした。
窮迫した浪人者が切腹すると称してなにがしかの金品を得て帰る最近の流行を苦々しく思っていた勘解由が、切腹の場をしつらえてやると求女は「一両日待ってくれ」と狼狽したばかりか、刀は竹光を差しているていたらくで舌をかみ切って無惨な最後をとげたと・・・。
静かに聞き終った半四郎が語りだした。
求女とは半四郎の娘美保(岩下志麻)の婿で、主君に殉死した親友千々岩陣内(稲葉義男)の忘れ形見でもあった。
孫も生れささやかながら幸せな日が続いていた矢先、美保が胸を病み孫が高熱を出した。
赤貧洗うが如き浪人生活で薬を買う金もなく、思い余った求女が先ほどの行動となったのだ。
そんな求女にせめて待たねばならぬ理由ぐらい聞いてやるいたわりはなかったのか。
武士の面目などとは表面だけを飾るもの…と半四郎は厳しく詰め寄った。
そして、井伊家の武勇の家風を誇って威丈高の勘解由に、半四郎はやおら懐中よりマゲを三つ取り出した。
沢潟彦九郎(丹波哲郎)、矢崎隼人(中谷一郎)、川辺右馬之介(青木義朗)、髪についた名の三人は求女に切腹を強要した者たちで、さきほど半四郎が介錯を頼んだ際、病気と称して現れなかった井伊家きっての剣客たちであった。
高々とあざけり笑う半四郎に家臣達が殺倒した・・・。


寸評
生活に困窮した武士が、藩邸の門前を借りて切腹をして武士らしく死にたいと申し出る。
どこの武家屋敷でも玄関先を血で汚されたくないので、いくばくかの金を与えて追い返す。
津雲半四郎なる武士も彦根藩邸でそれを申し出るが、それはたかりであって以前にも同じような若者がいた事を、伊井家の家老が話し始める。
物語はふんだんに回想形式を取り入れ、半四郎の真の目的を明らかにしていく。

権力者の体面を取り繕う偽善を、切腹と言う形で鮮烈に描いた小林正樹監督にとって始めての時代劇だが、僕は場末の名画座でこの映画を初めて見たとき、なによりもカラー映画にないモノクロ映画としての美しさを感じたことを覚えている。
今の映画は、ブツブツ文句を言いながら、木片をナイフでチマチマ削っているような作品が多いと思うのだが、この作品はナタで薪を割るようなところがある。
権威社会の虚構に対する告発なのだが、描き方は本当にきわめてストレートだ。
最近はそうしたシンプルさを嫌味に思うようになったのだろうか?
なにか目新しいテクニックや感性をやたら見せたがる作品が多くなった昨今だと感じている。
そうなると逆に、このような単純な作品の質的高さを再認識させられる。
変にひねらない、わかりやすい作品をもっともっと作って欲しいものだ。

オープニングとラストは井伊家の象徴である赤備えの鎧が写しだされるが、これは権威の象徴だ。
セットは緻密で立派なものだし、狭い空間ながらもそこで繰り広げられる人間模様を抜群のカメラワークとアングルで捉えていく。
俯瞰からとらえた絵画を思わせる庭先の見事なアングルと、スムーズに移動しながら人物を捉えていくカメラワークに惚れ惚れする。
白黒画面によって呼び起こされる無常観などもでていて効果抜群だ。
モノクロ映画の白美といってもいい。

目ん玉をギョロリとさせるオーバー演技が鼻につくこともある仲代達矢だが、この作品ではそれがはまっていた。
回想を語る津雲半四郎の決意の並々ならぬことを感じさせる名調子だ。
それぞれのシーンでは息を止めて画面に食い入らせる迫力があり、そのシーンが終わるとフーッと大きく息をせざるを得ないようなことも度々である。
矢崎隼人や川辺右馬之介との対決は、どちらかといえばアッサリとしたもので、わずかに
沢潟彦九郎との一騎打ちだけがそれなりに描かれている。
彼らはあくまでも体面を保つ権威主義の偽善性を描くための道具なので、対決そのものに興味が行くことを避けたのだろう。 その分、すべてを吐露した後の彦根藩邸での大立ち回りは随分と描かれている。
その争いの音を聞きながら別室でじっと正座する家老の姿が、権威を守ることにのみ生きる男を感じさせた(歳をとった三國連太郎がやればもっと迫力が出ていただろう)。
橋本忍の脚本力が生きた作品でもあった。


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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
良いとは思えないのですが (指田文夫)
2023-01-19 15:18:10
私は、小林正樹が苦手で、これも良いとは思えないのです。あまりにまじめすぎて付いていけないのですね。武満の音楽は素晴らしいですが。

晩年の『化石』は、面白かったですが。
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私は・・・ (館長)
2023-01-20 07:09:42
私は「化石」より「切腹」の方が好きなんですが・・・。
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