おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

接吻

2019-09-06 08:56:18 | 映画
「接吻」 2006年 日本


監督 万田邦敏
出演 小池栄子 豊川悦司
   仲村トオル 篠田三郎
   大西武志 青山恵子
   馬場有加 菅原大吉

ストーリー
坂口秋生(豊川悦司)は、閑静な住宅街で何の縁もない一軒家に侵入し、親子3人を鈍器で惨殺。
まもなく警察とマスコミに自ら犯人であることを告げ、多くのテレビカメラに取り囲まれる大混乱の中、身柄を拘束される。
偶然、自宅のマンションのテレビを通じてその逮捕劇を目にした遠藤京子(小池栄子)は、テレビモニターの中で謎めいた笑みを浮かべる坂口に一瞬で恋をする。
すぐさまコンビニへ行き数冊のノートを購入した彼女は、一家惨殺事件に関する新聞記事のスクラップを開始し、坂口に関するすべての情報を集めはじめるのだった。
一方、逮捕後の坂口は、警察の取り調べに対し沈黙を貫いていた。
拘留中の坂口に接見した弁護士、長谷川(仲村トオル)は「思い出すのがつらいことでも、素直に話してください。私はあなたの味方です」と誠実に語りかけるのだが、坂口は何一つ言葉を発しなかった。
初公判から熱心に裁判を傍聴していた京子は、長谷川に近づき坂口への差し入れを取次いでくれるようお願いする。
見ず知らずの坂口に対して他人とは思えない親近感を抱いていると告白する京子は、長谷川には奇異な存在に映った。
しかし、そんな彼女を気にかけているうちに、いつしか心惹かれるようになってしまう。
ある日、長谷川と京子は坂口の唯一の肉親である兄の元を訪ね、坂口の不幸な生い立ちを知る。
長谷川の心配をよそに、京子は自分とまったく同じ孤独と絶望を内に秘めた坂口に対し、「あなたの声が聞きたい」と手紙に記し、ついに獄中で坂口との面会を果たすが……。


寸評
犯人・坂口の兄役で篠田三郎が出てくるが、この映画は小池栄子、豊川悦司、仲村トオルの三人芝居といえる内容だ。
中でも小池栄子は凄い。不気味なほどの目の表情を見せる。
映画初めの死んだような目をしたOLから、坂口と出会って次第にその生を取り戻していく心の変化を上手く表現していた。
それも単にセリフではなく、その目その雰囲気で演じているのだからスゴイ。
坂口を演じた豊川悦司も言葉を発するのは映画が始まって1時間ほどしてからなので、前半におけるこの二人の無言芝居が作品の両輪となって支えていた。

世の中には一生懸命にやっていても世間に受け入れられない人がいて、坂口や京子がそれらの人種に入る。
京子は同僚の仕事を残業までして処理してやっても、事情を知らない上司から誉められたのは肩代わりしてもらった方で、依頼者が出すと言っていたタクシー代をもらい損ねているという日陰の女だ。
 事務能力に長けてはいるが、京子自身は陰気で自殺しそうな女と思われていると思っている。
自殺しそうな女と見られているということは、生きている価値がないと見られていることだとも言う。
都合よく何でも押し付けるくせに、けっして仲間に入れないとも言うが、それは同僚の会話でも実証されている。
それを一言でいえば、京子の言葉を借りれば運が悪い人間ということだ。
 彼女は無視され続けた人生を歩んできたようだが、坂口がもたらした笑に同様のものをとっさに見出したのだろう。それを京子は親近感だと言う。
坂口が漏らした笑と同様の笑みを京子も見せる。
この時の小池栄子の笑顔には背筋がゾッとした。 怖~ッ!という感じだ。
この笑顔は、"無視され続けた自分がやっと注目を浴びるようになってやったぞ"という勝ち誇った笑みだったのだろうか。
 確かに満たされない人生で、理由のない偏見によって鬱積したものが蓄積しているのは分かるが、こんなに加害者側に立って描いてもいいのかなとも思ったりした。
殺害シーンはなくて、その現場での坂口の狂気じみた行動が少し映し出されるが、兎に角この男は理不尽な殺人を犯したのだ。
そのことを弁護士の長谷川に語らせているが、言われた京子は聞く耳を持たない。
自分の被害者意識からこのような誰でもいいから殺したかった的な殺陣など許されるはずがない。
坂口、京子両人、特に京子に心情移入しそうになりながらも、すっかりその気になれなかった理由がその辺にあるのかもしれない。
 坂口が控訴を考え出したことで京子の坂口に対する感情は変化を見せるが、それは京子が坂口はこの世から抹殺されるべき人間で、そして自分も同様なのだと考えていたためなのだろうか?京子がこの世での存在価値がない人間ならこの世から相当数の人間が消えなければならない。そのへんは乗れないなあ・・・。
 ラストシーンで京子が引き起こすことは、ある瞬間から予想が出来ることだと思うが、それでもラストシーンでの長谷川の叫びに応える京子の叫びに続いて映し出された映画タイトルの「接吻」の赤い文字。
いやあ~、これには一番驚かされ、感動させられた。


最新の画像もっと見る

コメントを投稿