おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

櫻の園

2019-06-22 11:54:00 | 映画
「櫻の園」 1990年 日本


監督 中原俊
出演 中島ひろ子 つみきみほ 白島靖代
   梶原阿貴 三野輪有紀 白石美樹
   後藤宙美 いせり恵 金剛寺美樹
   森沢なつ子 三上祐一 橘ゆかり
   上田耕一 岡本舞 南原宏治

ストーリー
郊外にある私立櫻華学園高校演劇部では毎春、創立記念日にチェーホフの舞台劇「櫻の園」を上演することが伝統となっていた。
そんな開幕2時間前の早朝、小間使いのドゥニャーシャ役の部長・志水由布子(中島ひろ子)がパーマをかけた髪でやって来た。
普段はまじめな由布子の変化に演劇部員たちは驚くが、そんな時、若い従僕ヤーシャ役の杉山紀子(つみきみほ)が他校の生徒とタバコを吸って補導されたというニュースが部員の間に駆けめぐる。
それによって上演中止にまで発展しかけたが、顧問の里美先生(岡本舞)のけんめいな説得によってなんとか丸く納まった。
男役として下級生にも人気の倉田知世子(白島靖代)は、今年は女主人ラネフスカヤを演じることになっていたが、初めての女役に自信を持てない知世子を、由布子は優しく励まし、そんな二人の間に友情をこえる感情が芽生えていた。
由布子は知世子に好きだったと告白し、二人で記念写真を撮る。
そして、二人の姿を偶然物かげから見てしまう紀子は由布子に好意を持っていた。
こうして開幕は近付いてきた。
舞台裏での緊張感の中で紀子がふっと「志水さん、今日は誕生日でしょう?」と由布子に言う。
やがて少女たちの間で小さな声で歌われるハッピーバースデーと共に、開幕のベルは鳴るのだった。


寸評
女子高生を主人公に据えた作品は、思春期の恋、スポ根もの、悩みや軋轢を描いた作品など多種多彩で存在しているが、その中でもこの「櫻の園」の瑞々しさは群を抜いている。
女子高の創立記念日に演劇部の3年生によってチェーホフの「櫻の園」が上演されるまでの数時間の彼女たちの様子を紡いでいるだけの作品で、部員の杉山が起こした補導事件があるとはいえ大したドラマがあるわけではないにもかかわらず最後まで釘付けにしてしまうのは、群像劇として登場人物が生き生きと描かれているからだ。
講堂でアイスクリームをしゃぶりながら彼女たちが話す場面では、全員をバランス良く配置し、カメラは1シーン1ショットの長回しでとらえ続ける。
僕は女子高の実態を知らないが、たぶん女子高の部活風景はこんなだろうと思わせる自然体の女子高生役がそこに存在している。
女子高生たちが交わす会話や行動がリアリティをもって共感を呼ぶ。
僕の行った高校は共学だったが、それでも高校時代だけにあった仲間との関係にノスタルジーを感じ、性別を超えて歳をとっても共感できたのだと思う。

部長の志水さんが登場し、持ってきたレースを衣装に合わせてみる。
自分の衣装に気に入った施しをしたよう見えたが実は・・・と言うような伏線が、見続けているうちにいたるところに張られていたことに気付く。
志水さんは2年生の舞台監督である城丸香織(宮澤美保)に今日が誕生日だと打ち明けているが、それを志水のことなら何でも知っていたとして最後に杉山に言わせている。
城丸香織はボーイフレンド(三上祐一)とキスを交わしているが、それは志水と倉田の関係への裏返しとして描かれていたのだと気づかされる。
女子高生がカッコイイ先輩に後輩が憧れると言うのは聞いたこのある話で、この作品でも倉田に憧れる後輩が登場し写真を一緒に撮ってもらえることになり感激している場面がある。
志水はそれ以上の感情を倉田に持っていて、それはプラトニックとは言え同性愛的な感情だ。
二人が一緒に記念写真を撮り、カメラに段々と近づいてくるシーンはなかなかよくて、そこに志水に思いを寄せる杉山が涙を浮かべながら見るというシーンが重なることで更にいいシーンとなっている。
その杉山は一緒に補導された別の女子高の友達と出会い笑顔を見せる。
この映画の中では数少ない笑顔のシーンだ。
杉山は志水と倉田を呼びに来た条丸を制して、扉のこちらから時間を告げるという優しさを見せ、悪そうに描かれていた杉山は本当はいい子なんだと思わせる。
上演が始まり誰もいない楽屋裏が映されて映画は終わるが公演はすでに終わっているのだ。
彼女たちは無事公演を終えて引揚げ、それぞれの思いの新しい世界に踏み出していったことを暗示している。
なぜなら、桜の花びらが舞う下で中村先生が里見先生に公演は良かったと言いながら歩いている姿が直前にあるのだから。
形式主義や権威主義に対する批判も盛り込まれていて、頼りないと思われていた里見先生が教育委員会の長いスピーチに「あんなバカバカしい話に付き合っていられないからバクレます」と去るところは痛快。
女子高生の世界を優しい目で眺めながら流れるピアノのメロディは作品にマッチしていた。


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