おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

黒木太郎の愛と冒険

2022-06-21 07:44:05 | 映画
「黒木太郎の愛と冒険」 1977年 日本


監督 森崎東
出演 田中邦衛 財津一郎 倍賞美津子 伴淳三郎
   清川虹子 沖山秀子 小沢昭一 三国連太郎
   緑魔子 杉本美樹 岡本喜八 火野正平
   殿山泰司 井川比佐志 太田聖規 赤木春恵

ストーリー
かつては優等生であった定時制高校五年生の伊藤銃一は、他人の足をひっぱることしか考えていないクラスメートと学校を腹の底から軽蔑し呪っている。
銃一には二人の親友がいて、小学校からの友人の公一と、もう一人は大学生の勉であった。
銃一は学校をサボり、バキュームの仕事をしていた時、ゴメさんと知りあう。
そして、ゴメさんの世話で大人のオモチャ屋をしている菊松の家に下宿させてもらっていた。
ゴメさんは、黒木太郎の世話でバクチの負け金の取り立てをやっていた。
モンキーに似ていることから文句さんと銃一たちが呼んでる黒木太郎は、勉の叔父にあたり、映画のスタントマンをしており、多趣味でたいへんな凝りしょうであった。
文句さんの奥さんは、元女優でたいへんな美人であり、また、勉の母親はたいへんな肝ッ玉お母さんで、勉との仲もたいへん良かった。
銃一の夢は、文句さんの奥さんのカムバック映画を作ることであったが、仲々実現できなかった。
そんなある時、ゴメさんが死亡し、文句さんと銃一の二人は、遺骨を娘さんの吹雪にとどけるのであった。
吹雪の家はひどい貧乏で、やっかいな女教師が下宿していた。
この下宿人を追い出すのにひと役かった銃一は、その間に彼をたずねて来た父親に会えなかった。
そして父親は、手配師や労務者たちにバカにされ、墓地で切腹する。
そんな父に別れをつげた銃一は、勉の従妹・和美が不良グループと遊びまわっている間にヤクザにひっかかり、ソープランドに売られようとしているという事件が起きていることを知り、文句さんと共に、銃一、公一、勉がヤクザの所にのりこむのであった。


寸評
自主製作映画のような作品だが出演陣は個性派俳優が一杯出ていて豪華である。
真っ先に印象深くさせるのが伊藤銃一 を演じる伊藤裕一の異常とも思える低い話声である。
統一が友人と映画作りについて話し合っているので、そちらに向かう内容かと思っていたら、田中邦衛の文句さんがジープを飛ばして警官をからかっている場面となる。
そこから始まって内容的には”ごった煮”の様相を呈してくる。
森崎東の作品は”ごった煮”感のある作品が多いように思うし、描かれ方はテーマの如何に問わず破戒的である。
登場してくる人物は強烈なキャラクターで、演じている姿はヒドイとしか言いようがない。
ゴメさんという男が登場してくるのだが、演じているのは 伴淳三郎だ。
生活は破滅的で人がゲロしたものを素手でつかんだりする。
森崎東にはこういう不潔な場面を平気で描く習性があるように思う。
それは喜劇の中に怒りを盛り込む森崎流の演出手法だったと思う。
ゴメさんと文句さんの共通の知り合いが、大人のオモチャ屋をしている財津一郎の菊松である。
元刑事らしいが、この財津一郎が中々いい雰囲気で、彼の様な役者は少なくなったと思う。
文句さんの奥さんが倍賞美津子で、森崎作品には必要不可欠な女優さんだ。
森崎監督の松竹時代から彼の作品に出続けている。
この夫婦の家に出入りしているオバサンが 清川虹子と沖山秀子で、清川虹子のボーイフレンドが 小沢昭一というキャスティングで、俳優さんを見ているだけでゾッとしてしまう布陣である。
チョイ役で火野正平、 殿山泰司、井川比佐志なども登場し、森崎東のフリー第一作を祝福しているようだ。

ゴメさんの遺骨を娘さんに届けに行くが、娘夫婦は聾唖者同志の貧しい家庭で、二人はセリフを発しない。
演じているのが 杉本美樹と映画監督の岡本喜八である。
岡本喜八が映画監督と知っているので、その怪演を見ているだけで笑ってしまう。
この家の二階に猫好きの厄介な女教師が居座っている。
文句さんがこの女を追い出しにかかる。
文句さんの前に菊松が追いだしを試みているのだが、その方法というのが部屋に自分のウンチを置いておくと言うもので、さらに猫がそのウンチを食べてしまったので失敗していたと言うものだから、相変わらずだなあと思わずにはいられない。
この女教師を演じているのが緑魔子で、文句さんによってねじ曲がった性格を直される話が、可笑しいながらもしんみりさせるものがある。
映画としては和美がヤクザにひっかかりソープランドに売られようとしているのを助けに行くあたりから面白くなる。
文句さんがヤクザの所に押し掛ける場面は文句さんの態度が一変して迫力があるし、助け出した和美がヤクザの所へ戻りたいと言い出し、なぜヤクザといっしょにいて売春をすることが悪いのかと持論を展開するが、それに対する菊松の説教と文句さんの対応も見せ場となっている。
菊松は「ニワトリはハダシだ」を口癖としているが、それは森崎自身の感情でもあったのだろう。
9年間のブランク後に最終作「ペコロスの母に会いに行く」を撮るが、9年前に撮ったのが「ニワトリはハダシだ」だった。