おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

木屋町DARUMA

2022-06-04 08:19:22 | 映画
「木屋町DARUMA」 2014年 日本


監督 榊英雄      
出演 遠藤憲一 三浦誠己 武田梨奈 寺島進
   烏丸せつこ 趙民和 宇野祥平 石橋保
   木村祐一 梶原雄太 尾高杏奈 勝也

ストーリー
かつて京都の木屋町を牛耳る組織を束ねていた勝浦茂雄(遠藤憲一)は、5年前のある事件で四肢を失った。
今では、ハンデのある身体で債務者の家に乗り込み、嫌がらせをして回収する捨て身の取立て稼業で生計を立てていた。
その手口とは、下の処理すらできないその躰で債務者の家に居座り続け、彼らが音を上げるまで嫌がらせを続けるというもの。
仲間の古澤(木村祐一)から世話を命じられた坂本(三浦誠己)の助けを借り、次々仕事をこなしてゆく毎日。
そこへ、真崎という一家に対する追い込みの仕事が入る。
その家族は、勝浦を裏切り、金と麻薬を持ち逃げした元部下サトシの身内だった。
勝浦は責任を取って今の身体になったのだが、事件に疑問を感じた坂本が過去を嗅ぎ回り始める。
人生が壊れてゆく債務者を見つめながら、薄汚い闇社会でもがく勝浦と坂本は、5年前のある真実を知ってしまう……。


寸評
映画の出来がどうのこうのと言う前にすごい映画だ。
タブーに次から次へと挑んでいく。
ヤクザ社会はもとより、聾唖者同志の結束につけ込んだものや、身障者に対する補助金問題にもふれていく。
それらの社会敵問題に正義ぶって切り込んでいくのではなく、社会の暗部の一部として描いていく。
ヤクザの裏社会のドロドロした世界と、酷い借金の回収により崩壊していく家族の姿を闇の世界にあぶりだしているのだ。
借金苦の親の犠牲になって女子高生が風俗の世界に落ちていく話もあるが、裸を登場させたエロい場面はなく、あるのはグロいシーンばかりだ。
エロ、グロ、ナンセンスという言葉があるが、二つはなくてグロテスクなシーンだけが存在している。
老人や障がい者を相手としたヤクザビジネスの怖さと、債務者やその家族をいたぶりつけることで精神が崩壊してく人間たちが描かれているが、それだけだったら遠藤憲一の勝浦は両手両足がない男である必要がない。
不通のヤクザとしても描けたはずだ。
四肢のない彼は肉体的には最も弱者である。
自分では何もできないから、相手が本気になれば立ち向かうことなどできない人間だ。
彼を介護する坂本というヤクザの存在があるが、係わった人間は四肢をなくしても生き続けている彼の迫力に気後れしてしまう。
それがラストシーンの状況に一番現れている。
借金苦の男が包丁をもって襲ってくるが、勝浦は「刺せるもんやったら刺してみい!」と凄むと、男は何もできなくなる。
その勝浦は坂本に抱きかかえられているだけなのだ。
兎に角この映画、達磨なヤクザ役の遠藤憲一の怪演につきる。

聾唖者たちの助け合いの輪を通じてマルチ商法をやらせたり、健常者の耳を聞こえなくして生涯手当をふんだくるとか、老人の年金をかすめとるとか、描くことがはばかられるようなことが描かれ、どこかの団体から抗議を受けそうな内容があるが、ヤクザ達はそんな非道をやっているに違いないとも思わせる。
優しそうに振舞いながら、いざという時に豹変するヤクザを木下ほうかが演じていたが、ある経験からリアリティを感じた。
遠藤憲一と木村祐一の義兄弟は友情で結ばれている(ように見える)。
しかし木村祐一は兄貴分である遠藤憲一に貫録でもってどうしても追いつけないコンプレックスを持っている。
それでも対等に付き合ってくれる兄貴分に感謝の気持ちも抱いている。
彼は坂本に「勝浦の世話をお前がするんやない、俺の代わりに勝浦の世話をするんや」と言っている意味がやがて分かる。
四肢を失った勝浦は裏切りも陰謀もすべてを知りながら、自分の生きる場所はそこにしかないと受け入れている。
二人友情は分かるが、ヤクザ者同志の友情などは映画の世界だけにしておいてほしい。

坂本は勝浦にシンパシイを感じていって、最後にはずっと車いすを押す介護者になろうとするが、あそこで終わっていれば暴力礼賛みたいになってしまうので、さすがにそれはしていなかった。
親の犠牲になって壊れていく少女を演じた武田梨奈がなかなか良かった。
ドもこの映画、一般劇場での公開が出来ない理由はわかる。
エグくグロすぎる。