ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

本当のねらいは雇用対策

2016-12-19 07:44:54 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「誰のため?」12月14日
 『スポーツ指導に国家資格』という見出しの記事が掲載されました。記事によると、『学校の部活動や地域スポーツの活性化のため、指導者の国家資格を創設する構想が浮上している』そうです。部活動に対する教員の負担軽減が狙いの一つとされていますが、『引退した選手のセカンドキャリアの受け皿をつくりスポーツ振興につなげたい考えだ』という記述を目にすると、首を傾げたくなってしまいます。
 本当の狙いは、スポーツ一筋に学生時代、社会人時代を送ってきた選手、それも国民の誰もが名前を知っているような一流選手、錦織圭や北島康介、福原愛や吉田沙保里といった人たちではなく、国体やインターハイに出場したが、日本代表にはなれなかったというレベルの選手の救済策なのではないか、という疑問が浮かびます。そういった選手が引退後も指導者として生計が立つようにする、そのことで中高時代に将来の不安なくスポーツに打ち込むことが出来る、結果として我が国のスポーツのレベル向上につながる、という図式が描かれているように思うのです。
 もちろん、そうした配慮自体に反対しているわけではありません。ただ、そのための隠れ蓑として、何かと問題になっている部活の活性化、教員の負担軽減が使われているのだとしたら、腹立たしいのです。
 国家資格構想が実現したとしても、実際には、すべての中高においてスポーツ指導員が配置されるわけではないでしょう。野球、サッカー、テニス、卓球、バレーボール、バスケットボール、柔道など、多くの学校で実施されている運動系部活だけを考えても、その4割は教員がスポーツ経験をもっていないと想定されるので、都内だけで考えても、各競技200人、合計でのべ1400人必要なことになります。週2回で2校兼任としても700人は必要です。東京都だけでそんな人員を確保できるでしょうか。また、確保できたとしてその人件費を教育予算の中で確保できるのでしょうか。生計を立てることが出来る額となると、時給1500円は必要でしょう。1校2回指導、計週6時間として、年間45週、7つの部活で1校300万円近くになります。
 私が知る限り、現状ではほとんどの区市でこの額を負担するのは不可能です。そしてもしこの額を学校教育予算に投入することが可能であるならば、果たしてそれだけの予算を部活に投入するのが正しいのか、もっと異なる使途があるのではないかという議論が行われるべきだと思うのです。
 さらに、別の問題点も懸念されます。現行制度下では、部活の成績は教員の評価にそのまま結びついてはいません。従って、一部を除き、過剰な競争に陥る可能性は少ないのですが、スポーツ指導員制度となれば、スポーツ指導員の業績評価は、指導する部活の成績、県大会出場とか、全国大会入賞といったもので左右されるようになるはずです。それが、スポーツ指導員の採用や給与といった待遇に反映するとなれば、生徒が必要以上に追い込ことまれたり、運動能力の低い生徒が排除されたりといった弊害が顕在化してくるとは必至だと思います。
 緻密な、そして現実的でバランスのよい制度設計を期待したいものです。

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