「米国流教員評価は?」9月30日
『「滑り込み」の副作用注意 自己効力感を大切に』という見出しの記事が掲載されました。中学受験の志望校選びについて、教育経済学を専門とされている慶応大教授中室牧子氏にインタビューした記事です。
中室氏のお話には、『井の中のかわず効果』など興味深い内容がたくさんありました。ちなみに、『井の中のかわず効果』とは、『「第1志望の最下位」と「第2志望の1位」は、入試時点では僅差の実力にもかかわらず、入学後の成績は「第2志望の1位」の方が高くなる』という研究結果のことで、『子ども自身の自己効力感』によって説明できるというものです。要は、周りと比較して自身をなくすか自身を得るか、ということでしょう。言われてみれば納得です。
この「井の中のかわず効果」よりも印象に残ったのは、『教員の付加価値』という言葉でした。中室氏は、『経済学では、教員の優秀さを測る指標として「付加価値」がある』とおっしゃっているのです。そして「付加価値」は、『その教員が教えた生徒の学力の「伸び」で測ることができる』と言うのです。
このブログで何回も触れたことですが、私は都教委が全国に先駆けて始めた「指導力不足教員研修」の担当者でした。職務上、最大の関心事は「教員の能力をどのように測るか」ということでした。様々な工夫をし、多くの専門家に意見を聞いて回りましたが、「これだ!」という決定的な方法や基準にはなかなか巡り合うことができなかったのです。
だからこそ、中室氏が言う「教員の付加価値」に注目してしまったのです。
では、教員の付加価値とはどのように測るのか。『全米の大都市圏の公立小・中学校の約100万人の学力テストのデータと卒業後の納税記録などの行政記録情報を用いた研究を行ったところ、付加価値の高い教員は、生徒の大学進学率▽将来の収入▽貯蓄率-を高めていることが明らかになった』と書かれていました。どういうこと?という感じです。
これは、○○ができるから付加価値が高い、ではなく、数十年後子供が△△になったからその子供を教えた教員は付加価値が高い、という考え方です。これでは、リアルタイムで、今目の前で授業をしている教員の付加価値が高いか否かを判定することはできません。
そもそも、この考え方では、教わる側の子供の能力・資質というものが完全に無視されています。東京都で言えば、A区とC区やM区とでは、子供の家庭環境や家庭の経済状態、保護者の学歴、子供の全国学力テストの結果などに大きな差があることは常識です。私が20代の教員だった頃、中学生の主要3教科の平均点で最上位の区と最下位の区では90点以上の差があったのです。この違いを無視して20年後の結果を全て教員の能力のせいにするのは乱暴すぎるような気がします。
さらに言えば、20年後に、この教員は付加価値が高かった、あの教員は付加価値が低かった、と分かったところで、どのようなメリットがあるというのでしょうか。その時点ではすでに退職していましたというのではデータの活かしようがありません。
『米国では、このような教員の付加価値を公表している自治体もある』ということですが、違和感は消えません。「教員の付加価値」について、中室氏が別の機会に詳述してくださることを期待します。
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