「知ること、そして知らなくても」10月25日
精神科医香山リカ氏が、『沖縄の歴史学びなおす』という表題でコラムを書かれていました。その中で香山氏は、大阪府警機動隊員の土人発言について触れ、『暴言を吐いた機動隊員は、「『土人』が差別的な言葉とは知らなかった」と言っているらしい』と書かれています。この機動隊員の「言い訳」をどのように解釈すればよいのか、考えてしまいました。
「土人」という言葉から思い出すことがあります。今から25年程前、都教委では高校に民間人校長を採用しようとしていました。その候補者となった方が、ある指導主事の研修会に講師として参加し、ご自身の企業での経験を話されたのです。その中で「土人」という言葉を使われました。外国の、発展途上国の人を指したものでした。彼は何の問題意識もなくその言葉を口にし、講演を終え会場を後にしました。その後、研修会を主催した都教委の担当指導主事が、「土人」発言を謝罪し訂正した上で、本人にも注意する旨を表明して会は終了しました。
都教委の初の試みとして注目を集めメディアも報じる中で、経済団体からの推薦を受けて決定した2名の校長候補者だったのですから、もちろん国民の一般的な水準のはるかに上のレベルの知識や見識をもった方だったはずです。国際的に活躍していらっしゃったのですから人種差別や各国の歴史や宗教・文化から生じる偏見とそれがもたらす弊害等についても十分理解していた方であるはずです。それでもなお公式な場で「土人」と口にして何も感じなかったのです。
話は変わりますが、機動隊員の「土人」発言についてつれあいとも話をしました。つれあいは校長経験者ですが、特別に人権や差別について造詣が深いわけではありません。彼女は、「土人」発言に呆れていましたが、私が「土人ってどういうこと?」と尋ねると、「現地の人という意味でしょう。でもイメージとしてはちび黒サンボに出てくるやつかな」と言い、私が「日本でもアイヌの人のについて定めた法律に旧土人って使われていたんだよ」と言うと、「へー、全然知らなかった」と言っていました。まあ、平均的な日本人の認識レベルだと思います。旧土人云々は、私も教委の人権教育担当になってから知ったことでしたから。
私もつれあいも、都教委が見つけ出してきた民間人校長候補者の方から見れば、知識も理解力も劣るでしょう。でも、「土人」という言葉のもつ人を傷つける破壊力については感じ取っています。人権や差別の問題については、これまでもこのブログで書いてきたとおり、知識と感覚の両面が大切です。
大阪府警の機動隊員は20歳そこそこの若さですから、知識不足はある程度仕方がないかもしれませんが、真っ当な人権感覚があれば、「土人」発言は生まれなかったはずだと思います。きちんとした知識はなくとも、彼ら流に言えば、「何となくヤバイな」という感覚、これを身に着けさせることが出来なかった大阪府の人権教育はどうなっていたのでしょうか。彼らが中高生であったとき、暴言体質の大阪維新の会が猛威を振るっていたことが関係していなかったのかなど考えてしまいました。