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日銀への批判、異例の730件… → 評論家みたいな物言いはおかしい

2022-11-04 07:58:05 | 安倍、菅、岸田、石破の関連記事





日銀の黒田東彦はるひこ総裁が「値上げ許容」発言をした6月に、国民から日銀に直接寄せられた批判的な意見が計730件に上っていたことが分かった。国民からの意見は通常、月100件に達することはなく異例だ。日銀が続ける大規模金融緩和策は円安による物価上昇を招いており、国民の不満の高まりを映している。(皆川剛)

◆評論家みたいな物言いはおかしい

本紙が日銀の「広聴記録」を情報公開請求し、日銀が開示した。この記録は、電話やメールで寄せられた意見を月単位でまとめ、黒田総裁に報告されている。
 6月は一時1ドル=136円台と、前月比で10円の水準で円安が進行。黒田氏は同月6日の講演で「家計の値上げ許容度が高まっている」と発言して反発を受け、後に撤回した。
 日銀がまとめた国民からの主な意見によると、「総裁はつらい気持ちで生活する人の気持ちを分かっていない」「総裁の評論家みたいな物言いはおかしい」など発言への批判が目立つ。
 円安を誘発する金融緩和策の見直しを求める声もあった。「年金生活者は物価が上がると苦しい」「建築資材の見積もりを取るたびに値段が上がり、このままでは従業員を解雇することになる」などだ。
 一方、肯定的な意見は14件。「円安で輸出メーカーは利益が相当出ている。総裁はめげずに頑張ってほしい」「これだけの荒療治をしており多少の副作用はやむを得ない」などが寄せられた。
 物価高に批判的な声が寄せられることについて、黒田氏は9月の会見で「金融政策はマクロ(国全体の経済)の対応策で、コロナ禍からの回復途上にある経済を支える」と緩和維持の必要性を強調。円安による家計や企業への打撃には、政府の経済対策で対応すべきだとの見解を示した。
 日銀に寄せられる意見を巡っては、為替相場が安定していた昨年12月は日銀に肯定的な声が2件、否定的な声が55件だった。円安進行に伴い意見の数も増え、今年3月は肯定2件、否定104件。4月は肯定7件、否定99件。一方で7月は肯定2件、否定87件と春の水準に戻った。
 日銀は取材に「みなさまからいただく貴重なご意見を拝聴し、政策業務運営の参考として適宜、役員や関係部署とも共有している」とコメントした。
◆1人1票持つ政策委員の役割とは
 円安による物価高で、日銀に民意の逆風が吹いている。日銀は法律で政策運営の自主性を認められ、世論に左右されるのは望ましくない。一方で、硬直的な緩和策が呼び込む足元の物価高は「物価の番人」の存在意義を揺るがしかねない。日銀が大衆迎合に陥ることなく使命を全うするために、「政策決定者がより多様な意見を交わす必要がある」と識者は指摘する。(皆川剛)
 「物価の安定を図り国民経済の健全な発展に資することをもって、その理念とする」。1998年に施行された現在の日銀法には、こううたわれている。
 同法制定に、当時の橋本龍太郎首相の私的諮問機関メンバーとして関わった須田美矢子・キヤノングローバル戦略研究所特別顧問は「時々の経済状況にかかわらず、この理念は国民も政治家も日銀も共有する金融政策の最終目標だ」と話す。
 では、なぜ国民の意見と日銀の政策がすれ違うのか。須田氏は「時間的な視野が異なるためだ」と説明する。
 国民は今の生活を見ているのに対し、日銀は将来に至る物価を安定させようとする。日銀がコントロールする金利やお金の量は、遅れて物価を上げたり下げたりするため、国民が今求める暮らしぶりの実現とは異なる政策を決めることがある。
 政策を決めるのは、総裁以下9人から成る政策委員会だ。国会の同意の下で内閣が任命する。「国民の負託を受けた政府・国会が有識者を選ぶ。有識者たちに1人1票が託され、多様な議論を重ねて最終目標に一歩でも近づく。それが日銀法が期待している姿だ」と須田氏は指摘する。
 しかし、現在の委員会は歴史的な物価高を前にしても意見を戦わせる機運に乏しい。
 政策は総裁の案として示されるが、これに修正を求めたり反対したりする議案は、2017年7月を最後に提出されていない。以前は3〜4時間費やされていた会合は、今は3時間を超えることはまずない。
 背景には、大規模緩和策を進めた第2次安倍晋三政権下で、緩和に賛成か反対かという党派性を軸に委員が任命された経緯がある。現在の円安につながる長短金利の抑制に修正を求める委員の任期が満了すると、委員会から突っ込んだ議論は減った。
 須田氏は01〜11年に政策委員を務めた。総裁以外からも議案が活発に出されていた時期だ。「議案が出れば対話が生まれ、委員の理解も深まる。今は1人1票の重みが生かされていないのでは」と疑問を呈する。
 日銀が自主性を認められているのは、民意を後ろ盾にした政治の緩和圧力に抗しきれず、バブルを招いた反省からだ。しかし、国民生活を預かる独立した組織の議論が再び一様になっている。

 岸田文雄首相は、来年4月に任期を迎える黒田東彦総裁の後任人事に着手する。委員会の議論を活発にし、それが国民に見えるように、多様な意見を喚起する姿勢も次期総裁には求められる。
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