コメの値上がりの理由は。背景には“粒の大きさ”も!? NHK 2024年6月27日 17時31分
「店頭でコメが値上がり」「せんべいも値上げ」
最近、こうした報道を目にした方も多いと思います。でも、近くのスーパーに足を運んでみると、少し値上がりしているような気はするものの、以前とそんなには変わってないような……。
いったいどうして?今後の見通しは?
取材を進めると、コメの複雑な流通事情が見えてきました。
(経済部記者 川瀬直子、山形放送局記者 都倉一士)
相次ぐ値上げ
「昨今の情勢により価格改定をせざるを得なくなりました」
東京都台東区のせんべい店のホームページに載せられた、値上げのお知らせ。
この店では、4月にコメの仕入れ価格が2割ほど値上がりしました。
のりやしょうゆなどの価格上昇もあって、コストが吸収しきれず、5月にせんべいやあられなどの値上げに踏み切りました。
鈴木仁代表
鈴木代表
「コストの上昇分すべては、価格転嫁できていないのが現状だ。値上げはお客さんには申し訳ないが、事業を継続していくために決断した」
このところ、コメの値上がりや品薄が、ニュースとして取り上げられる機会が増えています。
特売が売りのスーパーでコメが値上がりしたり、まとめ買いが起きていたり、おにぎり専門店が値上げに踏み切ったりと、さまざまなところにコメの値上がりの影響が出始めています。
農林水産省「ひっ迫していない」
一方、農林水産省は「主食用のコメが品薄となっているわけではない」としています。
坂本農水相
坂本農林水産大臣は6月14日の記者会見で「総務省の統計などを見るかぎり、一部で報道されているほどコメの価格は上昇はしていないと受け止めている。相対取引価格の動向や民間の流通在庫の状況を見ると、現時点で主食用のコメの需給がひっ迫している状況ではない。消費者は安心してほしい」と呼びかけました。
一見、ニュースなどと食い違うようですが、いったいどういうことなのでしょうか。
コメの価格の推移は?
まず、全国的にコメはどれだけ値上がりしているのかを見てみます。
消費者物価指数で見てみると、5月時点で「うるち米(コシヒカリを除く)」は去年の同じ月に比べて1割ほどの上昇。
高くはなっていますが、確かにニュースで取り上げられるような「価格高騰」にはなっていません。
次に確認したのは、コメの価格の代表的な指標とされる「相対取引価格」。
コメはJAが農家から集め、卸売業者に販売し、その卸売業者からスーパーなど小売店へと流通していくのが主流です。
JAなど集荷業者と卸売業者が、相対(あいたい)で決めている価格を、農林水産省が毎月調査し公表しているのが「相対取引価格」です。
全銘柄の平均の推移を見ると、ことし5月時点で60キロあたりで1万5500円あまり。去年に比べるとやはり10%ほどの上昇で、消費者物価指数とほぼ同じ状況です。
コメの価格は高騰していないのでしょうか。
取材を進めていくと、高騰している別のコメの指標が見えてきました。それが「スポット取引」と呼ばれる取り引きの価格です。
スポット取引は、在庫に余裕のある卸売業者が余裕分を売りに出し、在庫が不足している業者が買う仕組みです。
取り引きの場を開いている会社によると、6月前半の「関東コシヒカリ」の取引価格は、60キロあたりおよそ2万4000円。去年より80%近くも値上がりしていました。
ことしは、スポット取引に回せるだけの在庫を持った卸売業者が少なく、価格がつり上がっているとみられています。
コメの取り引き全体から見れば、スポットの取引量はわずかで、長期契約で仕入れているスーパーなどのコメの小売価格は、比較的安定しています。
しかし、一部の小売店や飲食店、加工食品では、こうしたスポット価格の高騰が、コメの仕入れ価格の上昇に影響しているとみられています。
主な要因は「天候不順」「コロナ禍からの回復」
では、なぜスポット取引に回るコメが少ないのか。品薄の背景として指摘されているのは、大きく2つです。
1.猛暑で品質低下
ひとつは、去年の天候です。新潟や秋田など日本海側の主要な産地では、5月の日照不足や夏の猛暑などが影響し、コメの収穫量そのものが低下しました。
さらに高温の影響で、コメが白く濁るなど品質にも影響が出ました。白濁したコメは、精米すると砕けやすいこともあり、一部の銘柄では市場に流通する白米の量が減ってしまいました。
2.コロナ禍からの回復
さらにコロナ禍からの回復も、要因のひとつと指摘されています。
コロナ禍で一時、外食需要が落ち込んだことから、ここ数年、コメの生産量は抑えられてきました。
しかし去年5月にコロナが5類に移行し、外食需要が急回復。日本を訪れる外国人観光客が急速に回復したことも拍車をかけ、コメの需要が大きく伸びています。
この2つがコメの品薄に影響している、というのが大方の見方です。
粒の大きさも影響か
しかし、さらに取材を進めると「去年収穫されたコメの粒の大きさも影響した」との声も聞こえてきました。どういう意味なのでしょうか。
精米される前の玄米は、流通に回る段階で文字通り「ふるい」にかけられ、その大きさによって用途が変えられています。
ふるいの上に残る、粒の大きなものは、小売店などで販売される主食用のコメとして流通します。
一方、ふるいの下に落ちるコメは「ふるい下」と呼ばれます。「ふるい下」の中でも比較的粒の大きなものは「中米(ちゅうまい)」などと呼ばれ、外食などに使われ、より粒の小さなものはみそやせんべいなどの加工用に使われます。
去年は、夏の高温が粒の成長にプラスに働き、粒の大きなコメの割合が多かった一方、加工用に使われる粒の小さなコメは前年の6割程度しかなかったと言います。
加工業者の間では、粒の小さなコメの代わりに、比較的粒の大きな「中米」などを加工用に使うケースが増え、その結果、玉突きで外食などに回る「中米」が少なくなり、さらにはその玉突きで、主食用の一部の銘柄のコメの品薄感につながったと見られています。
今後のコメの見通しは?
流通事情も背景に、一部で起きているコメの価格上昇や品薄感。ことしの新米が出回るまでは、この状況は大きくは変わらない、というのが大方の見方です。
では、ことしの新米の見通しはどうなっているのでしょうか。農林水産省が4月末時点で全都道府県を対象に行った調査では、「去年に比べて生産を増加させる意向」と答えた県や道は11に上り、6年ぶりの増産となる可能性が出ています。
一方で気がかりなのは、今後の気象条件です。ことしの夏も、全国的に気温が高くなると予想されています。
穂が出て実るまでの期間、高温が続くと、去年のようにコメの品質に影響が出ることが懸念されます。
コメの出来はどうなるのか、そして価格はどうなるのか。注目していきたいと思います。
「店頭でコメが値上がり」「せんべいも値上げ」
最近、こうした報道を目にした方も多いと思います。でも、近くのスーパーに足を運んでみると、少し値上がりしているような気はするものの、以前とそんなには変わってないような……。
いったいどうして?今後の見通しは?
取材を進めると、コメの複雑な流通事情が見えてきました。
(経済部記者 川瀬直子、山形放送局記者 都倉一士)
相次ぐ値上げ
「昨今の情勢により価格改定をせざるを得なくなりました」
東京都台東区のせんべい店のホームページに載せられた、値上げのお知らせ。
この店では、4月にコメの仕入れ価格が2割ほど値上がりしました。
のりやしょうゆなどの価格上昇もあって、コストが吸収しきれず、5月にせんべいやあられなどの値上げに踏み切りました。
鈴木仁代表
鈴木代表
「コストの上昇分すべては、価格転嫁できていないのが現状だ。値上げはお客さんには申し訳ないが、事業を継続していくために決断した」
このところ、コメの値上がりや品薄が、ニュースとして取り上げられる機会が増えています。
特売が売りのスーパーでコメが値上がりしたり、まとめ買いが起きていたり、おにぎり専門店が値上げに踏み切ったりと、さまざまなところにコメの値上がりの影響が出始めています。
農林水産省「ひっ迫していない」
一方、農林水産省は「主食用のコメが品薄となっているわけではない」としています。
坂本農水相
坂本農林水産大臣は6月14日の記者会見で「総務省の統計などを見るかぎり、一部で報道されているほどコメの価格は上昇はしていないと受け止めている。相対取引価格の動向や民間の流通在庫の状況を見ると、現時点で主食用のコメの需給がひっ迫している状況ではない。消費者は安心してほしい」と呼びかけました。
一見、ニュースなどと食い違うようですが、いったいどういうことなのでしょうか。
コメの価格の推移は?
まず、全国的にコメはどれだけ値上がりしているのかを見てみます。
消費者物価指数で見てみると、5月時点で「うるち米(コシヒカリを除く)」は去年の同じ月に比べて1割ほどの上昇。
高くはなっていますが、確かにニュースで取り上げられるような「価格高騰」にはなっていません。
次に確認したのは、コメの価格の代表的な指標とされる「相対取引価格」。
コメはJAが農家から集め、卸売業者に販売し、その卸売業者からスーパーなど小売店へと流通していくのが主流です。
JAなど集荷業者と卸売業者が、相対(あいたい)で決めている価格を、農林水産省が毎月調査し公表しているのが「相対取引価格」です。
全銘柄の平均の推移を見ると、ことし5月時点で60キロあたりで1万5500円あまり。去年に比べるとやはり10%ほどの上昇で、消費者物価指数とほぼ同じ状況です。
コメの価格は高騰していないのでしょうか。
取材を進めていくと、高騰している別のコメの指標が見えてきました。それが「スポット取引」と呼ばれる取り引きの価格です。
スポット取引は、在庫に余裕のある卸売業者が余裕分を売りに出し、在庫が不足している業者が買う仕組みです。
取り引きの場を開いている会社によると、6月前半の「関東コシヒカリ」の取引価格は、60キロあたりおよそ2万4000円。去年より80%近くも値上がりしていました。
ことしは、スポット取引に回せるだけの在庫を持った卸売業者が少なく、価格がつり上がっているとみられています。
コメの取り引き全体から見れば、スポットの取引量はわずかで、長期契約で仕入れているスーパーなどのコメの小売価格は、比較的安定しています。
しかし、一部の小売店や飲食店、加工食品では、こうしたスポット価格の高騰が、コメの仕入れ価格の上昇に影響しているとみられています。
主な要因は「天候不順」「コロナ禍からの回復」
では、なぜスポット取引に回るコメが少ないのか。品薄の背景として指摘されているのは、大きく2つです。
1.猛暑で品質低下
ひとつは、去年の天候です。新潟や秋田など日本海側の主要な産地では、5月の日照不足や夏の猛暑などが影響し、コメの収穫量そのものが低下しました。
さらに高温の影響で、コメが白く濁るなど品質にも影響が出ました。白濁したコメは、精米すると砕けやすいこともあり、一部の銘柄では市場に流通する白米の量が減ってしまいました。
2.コロナ禍からの回復
さらにコロナ禍からの回復も、要因のひとつと指摘されています。
コロナ禍で一時、外食需要が落ち込んだことから、ここ数年、コメの生産量は抑えられてきました。
しかし去年5月にコロナが5類に移行し、外食需要が急回復。日本を訪れる外国人観光客が急速に回復したことも拍車をかけ、コメの需要が大きく伸びています。
この2つがコメの品薄に影響している、というのが大方の見方です。
粒の大きさも影響か
しかし、さらに取材を進めると「去年収穫されたコメの粒の大きさも影響した」との声も聞こえてきました。どういう意味なのでしょうか。
精米される前の玄米は、流通に回る段階で文字通り「ふるい」にかけられ、その大きさによって用途が変えられています。
ふるいの上に残る、粒の大きなものは、小売店などで販売される主食用のコメとして流通します。
一方、ふるいの下に落ちるコメは「ふるい下」と呼ばれます。「ふるい下」の中でも比較的粒の大きなものは「中米(ちゅうまい)」などと呼ばれ、外食などに使われ、より粒の小さなものはみそやせんべいなどの加工用に使われます。
去年は、夏の高温が粒の成長にプラスに働き、粒の大きなコメの割合が多かった一方、加工用に使われる粒の小さなコメは前年の6割程度しかなかったと言います。
加工業者の間では、粒の小さなコメの代わりに、比較的粒の大きな「中米」などを加工用に使うケースが増え、その結果、玉突きで外食などに回る「中米」が少なくなり、さらにはその玉突きで、主食用の一部の銘柄のコメの品薄感につながったと見られています。
今後のコメの見通しは?
流通事情も背景に、一部で起きているコメの価格上昇や品薄感。ことしの新米が出回るまでは、この状況は大きくは変わらない、というのが大方の見方です。
では、ことしの新米の見通しはどうなっているのでしょうか。農林水産省が4月末時点で全都道府県を対象に行った調査では、「去年に比べて生産を増加させる意向」と答えた県や道は11に上り、6年ぶりの増産となる可能性が出ています。
一方で気がかりなのは、今後の気象条件です。ことしの夏も、全国的に気温が高くなると予想されています。
穂が出て実るまでの期間、高温が続くと、去年のようにコメの品質に影響が出ることが懸念されます。
コメの出来はどうなるのか、そして価格はどうなるのか。注目していきたいと思います。