満開の桜の時期に、少人数での飲み会が約束されていた。
ところが、メンバーの一人が急に腰椎圧迫骨折となって、ゆっくり座って飲むのは無理だという話になった。
仕方なくその時は「治ったら快気祝いをやろう・・・」ということで、一人少ないメンバーで花見の宴を持った。
幸いなことにその人がこのところ少し塩梅がいいから・・・と。
改めて少人数の気の置けない仲間で快気祝いの美酒に酔うことになり、刺身のうまい小料理屋の座敷を予約した。
予約の時には、意外にも小生の配慮不足で、「掘りごたつ式の足を投げ出せる部屋」と念を押すのを忘れた。
いよいよ明日という日になって、メンバーの年齢や、病み上がりの人に思いがいたり「しもうた!」と気が付いた。
兎に角お店に電話して、「掘りごたつ式の部屋を確保」しなければ、世話役の面目がつぶれる。
「先日予約をお願いした〇〇ですが・・・」。間髪を入れず「◇◇会社OBの〇〇さんですね、毎度!」。と名前も会社名も思い出してくれた。というか、予約メモにそのように書かれていたのかもしれない。
実はしかじかで、このような部屋をお願いしたい、と言い終わると同時に「〇〇さん、お任せください。ご希望の部屋に取り換えておきましょう」という心強い返事が返ってきた。
なにっ!普通の部屋がとってあったのを、わざわざ掘りごたつの部屋に取り換えてくれるのか・・・と思わせる店長の言葉。
お客であるこちらが思わず「有難い、面目を施した」と思ってしまうような話術である。
本当は最初っから、掘りごたつの部屋がとってあったのかもしれない。そうでなかったのかもしれない。
いずれにしても、歯切れのいい言葉でこちらの言い分を聞いてくれたような好印象をお客に与える。
これぞ「お・も・て・な・し」の心意気なのだと、今さらながら商売人の舌先三寸に舌を巻く。
悪いことをしたわけではなく、おべんちゃらを言ったわけでもないのに、相手を喜ばすこの巧まない話術。
取り入れたいものである。まだまだこれから先、人と接する機会の多さを考えると、ちょっとした配慮と気の利いた言葉づかいで相手を喜ばせるテクニックが身に付くはずである。 オットット、テクニックではないのだ。テクニックは相手の心にまでは届かない。誠意をもって発する言葉、これこそが相手を納得させるのであろう。
お店に行く前から、すでにおもてなしを受けた気分になって、気持ちよく、美味しいお酒が飲めそうである。