漫画家アシスタント物語

漫画家アシスタントの馬鹿人生40年と、リタイア後のタイ移住生活。

漫画家アシスタント 第4章 その5

2006年06月18日 06時12分35秒 | 漫画
 ( この写真は、東京目白のコーキュー住宅街です。こんな感じの風景の中にM学園クロッキ
  ー教室はありました。《 2006年1月、撮影 》 )
    
 
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
 
 
 
               その5
 
 
漫画家になる事を目指していた1980年、昭和55年( 私、25歳 )の初夏。 

クロッキー教室では、毎回違う女性のモデルさんが来るのですが、繰り返
し何度もやって来るモデルさんもいました。 

その日のモデルさんは、3,4回見覚えのある女性でした。たいていのモデル
さんは黙って仕事をし、黙って帰るだけなのですが・・・・・・ 彼女は
どういうわけか・・・・・ その日・・・ やけにおしゃべりだったので
す・・・・

つまり・・・・ 「 芸達者なモデルさん 」・・・・・ と言った感じで・・
・・・・・長い髪をアップにし、目立つ程ではない長身をやわらかく屈めな
がら・・・

 「 今日はこんなポーズ、どう? 」

などと、ヨガのような変わったポーズをしてみたり・・・・ ポーズをとる
合間に語りかけたり・・・・・

 「 みんなこれ終わったらど~すんですかァ? 飲みに行ったりすん
   ですかァ?」

変なポーズを面白がっていたクロッキー教室の参加者も、この言葉にはなん
とも答えようがなく・・・・ 

 「 食事とか飲みに行く時には、私も連れて行って下さいよォ~! 」

誰も返事はしません・・・ ここにはモデルさんをナンパしに来ている人は
いませんから・・・・。 みんな苦笑いしながらペンを動かしています。
 
私の様な独身男は、内心ではスケベ心いっぱいで・・・ 『 つき合ってくれ
ェ! 』などと叫びたい気持ちを抑えつつニコニコしながらクロッキーに精
を出している振りをしているわけです・・・・。
 
おしゃべりの上に変わったポーズをとるモデルさんに、私などは、『 今日
はなんだか得をしたなァ 』と、ウキウキしたものです。 他の参加者も皆
面白がっていたと思います・・・・ しかし・・・・ 例の画伯翁は・・・・・
 
木炭を持つ手を止め、モデルさんをにらみ付けていたのです・・・・・・・。
いつもこの画伯翁に付き従っている美しい中年女性だけは、この不気味
な緊張を察知していたかも知れませんが・・・・・ この時、まだ誰もこれか
ら起こる騒動を予想していませんでした・・・・・。
 
気持ちよくおしゃべりをし、この仕事を生まれて初めて楽しんでいるとい
った感じの彼女は・・・・・ ついにやってしまいます・・・・。 なごや
かな雰囲気の中で、彼女は調子に乗りすぎてしまったのです・・・・・・。

 「 こんなポーズはどうかしらァ~? じゃ、こんなのはハァ~ン? 」

出ました! セクシーポーズ! 私などは思わず心の中で拍手喝采・・・
と、その時です・・・・・!

 画伯翁 「 おいっ! ふざけるのもいい加減にしろォ! 」

一瞬にして、空気が変わります。 さっきまでの和やかな明るい雰囲気か
ら、凍りついた痛ましい沈黙へ・・・・・!

ここで、長くこの教室に通っている気さくな老人が、そのハゲ頭に薄っす
らと汗をにじませながら・・・・ 自分の後ろにいる画伯翁を振り返り・・
・・・

 光頭翁 「 まあ、まあ、いいじゃないですか・・・・ 彼女だって一生
       懸命やってくれていますヨ・・・ 」

 画伯翁 「 こっちは金を払って勉強に来ているんだ! 」

 光頭翁 「 ・・・・・・・・・・ 」

 画伯翁 「 まじめにやれェッ! 」

 光頭翁 「 ま・・・まじめですヨ! たまにはこ~ゆ~モデルさんも
       いいじゃありませか・・・・・」
 
 画伯翁 「 なにィ~・・・・ 画力の無い奴は黙ってろッ! 」

 光頭翁 「 ・・・・・・・・・! 」 頭が赤く光っている! 
 
私はこの時の言葉を忘れる事ができない・・・・ 『 画力の無い奴は黙って
ろッ! 』・・・こんな理屈が通るのだろうか・・・・!

 光頭翁 「 こ・・・ ここは、あ・・・あんた一人の教室じゃないんだ! 」

 画伯翁 「 お前の様な画力の無い奴に何が分る! もう、我慢できん!
       こんな下手な奴らと一緒にはおれんッ!」

画伯翁はイスを蹴倒す様にして、クロッキー教室を出ていく・・・・ 連れの
女性は、まるでわがままな子供でも見守る様な目で付き従う・・・。 

 中年女性 「 みなさん、どうも申し訳ありません・・・・・・ 」

最後に彼女は教室の皆に頭を下げて出て行った・・・・・。 完全に白けきっ
たクロッキー教室は、その後誰も一言も発する事なく、しぼむ様に終わった。

この時のモデルさんと画伯翁は、二度とこの教室に来ませんでした・・・・・。
 
 
  
 
          「 漫画家アシスタント 第4章 その6 」 へつづく・・・
  

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