( この写真は、東京目白のコーキュー住宅街です。こんな感じの風景の中にM学園クロッキ
ー教室はありました。《 2006年1月、撮影 》 )
【 はじめての方は、どうぞ 「第1章 改訂版」 よりご覧ください。 】
その5
漫画家になる事を目指していた1980年、昭和55年( 私、25歳 )の初夏。
クロッキー教室では、毎回違う女性のモデルさんが来るのですが、繰り返
し何度もやって来るモデルさんもいました。
その日のモデルさんは、3,4回見覚えのある女性でした。たいていのモデル
さんは黙って仕事をし、黙って帰るだけなのですが・・・・・・ 彼女は
どういうわけか・・・・・ その日・・・ やけにおしゃべりだったので
す・・・・
つまり・・・・ 「 芸達者なモデルさん 」・・・・・ と言った感じで・・
・・・・・長い髪をアップにし、目立つ程ではない長身をやわらかく屈めな
がら・・・
「 今日はこんなポーズ、どう? 」
などと、ヨガのような変わったポーズをしてみたり・・・・ ポーズをとる
合間に語りかけたり・・・・・
「 みんなこれ終わったらど~すんですかァ? 飲みに行ったりすん
ですかァ?」
変なポーズを面白がっていたクロッキー教室の参加者も、この言葉にはなん
とも答えようがなく・・・・
「 食事とか飲みに行く時には、私も連れて行って下さいよォ~! 」
誰も返事はしません・・・ ここにはモデルさんをナンパしに来ている人は
いませんから・・・・。 みんな苦笑いしながらペンを動かしています。
私の様な独身男は、内心ではスケベ心いっぱいで・・・ 『 つき合ってくれ
ェ! 』などと叫びたい気持ちを抑えつつニコニコしながらクロッキーに精
を出している振りをしているわけです・・・・。
おしゃべりの上に変わったポーズをとるモデルさんに、私などは、『 今日
はなんだか得をしたなァ 』と、ウキウキしたものです。 他の参加者も皆
面白がっていたと思います・・・・ しかし・・・・ 例の画伯翁は・・・・・
木炭を持つ手を止め、モデルさんをにらみ付けていたのです・・・・・・・。
いつもこの画伯翁に付き従っている美しい中年女性だけは、この不気味
な緊張を察知していたかも知れませんが・・・・・ この時、まだ誰もこれか
ら起こる騒動を予想していませんでした・・・・・。
気持ちよくおしゃべりをし、この仕事を生まれて初めて楽しんでいるとい
った感じの彼女は・・・・・ ついにやってしまいます・・・・。 なごや
かな雰囲気の中で、彼女は調子に乗りすぎてしまったのです・・・・・・。
「 こんなポーズはどうかしらァ~? じゃ、こんなのはハァ~ン? 」
出ました! セクシーポーズ! 私などは思わず心の中で拍手喝采・・・
と、その時です・・・・・!
画伯翁 「 おいっ! ふざけるのもいい加減にしろォ! 」
一瞬にして、空気が変わります。 さっきまでの和やかな明るい雰囲気か
ら、凍りついた痛ましい沈黙へ・・・・・!
ここで、長くこの教室に通っている気さくな老人が、そのハゲ頭に薄っす
らと汗をにじませながら・・・・ 自分の後ろにいる画伯翁を振り返り・・
・・・
光頭翁 「 まあ、まあ、いいじゃないですか・・・・ 彼女だって一生
懸命やってくれていますヨ・・・ 」
画伯翁 「 こっちは金を払って勉強に来ているんだ! 」
光頭翁 「 ・・・・・・・・・・ 」
画伯翁 「 まじめにやれェッ! 」
光頭翁 「 ま・・・まじめですヨ! たまにはこ~ゆ~モデルさんも
いいじゃありませか・・・・・」
画伯翁 「 なにィ~・・・・ 画力の無い奴は黙ってろッ! 」
光頭翁 「 ・・・・・・・・・! 」 頭が赤く光っている!
私はこの時の言葉を忘れる事ができない・・・・ 『 画力の無い奴は黙って
ろッ! 』・・・こんな理屈が通るのだろうか・・・・!
光頭翁 「 こ・・・ ここは、あ・・・あんた一人の教室じゃないんだ! 」
画伯翁 「 お前の様な画力の無い奴に何が分る! もう、我慢できん!
こんな下手な奴らと一緒にはおれんッ!」
画伯翁はイスを蹴倒す様にして、クロッキー教室を出ていく・・・・ 連れの
女性は、まるでわがままな子供でも見守る様な目で付き従う・・・。
中年女性 「 みなさん、どうも申し訳ありません・・・・・・ 」
最後に彼女は教室の皆に頭を下げて出て行った・・・・・。 完全に白けきっ
たクロッキー教室は、その後誰も一言も発する事なく、しぼむ様に終わった。
この時のモデルさんと画伯翁は、二度とこの教室に来ませんでした・・・・・。
「 漫画家アシスタント 第4章 その6 」 へつづく・・・
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【 各章案内 】 「第1章 改訂版」 「第2章 改訂版」 「第3章 改訂版」
「第4章 その1」 「第5章 その1」 「第6章 その1」
「第7章 その1」 「第8章 その1」 「第9章 その1」
「諦めま章 その1」 「古い話で章 その1」
「もう終わりで章 その1」 「移住物語 こりゃタイ編 その1」
ー教室はありました。《 2006年1月、撮影 》 )
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漫画家になる事を目指していた1980年、昭和55年( 私、25歳 )の初夏。
クロッキー教室では、毎回違う女性のモデルさんが来るのですが、繰り返
し何度もやって来るモデルさんもいました。
その日のモデルさんは、3,4回見覚えのある女性でした。たいていのモデル
さんは黙って仕事をし、黙って帰るだけなのですが・・・・・・ 彼女は
どういうわけか・・・・・ その日・・・ やけにおしゃべりだったので
す・・・・
つまり・・・・ 「 芸達者なモデルさん 」・・・・・ と言った感じで・・
・・・・・長い髪をアップにし、目立つ程ではない長身をやわらかく屈めな
がら・・・
「 今日はこんなポーズ、どう? 」
などと、ヨガのような変わったポーズをしてみたり・・・・ ポーズをとる
合間に語りかけたり・・・・・
「 みんなこれ終わったらど~すんですかァ? 飲みに行ったりすん
ですかァ?」
変なポーズを面白がっていたクロッキー教室の参加者も、この言葉にはなん
とも答えようがなく・・・・
「 食事とか飲みに行く時には、私も連れて行って下さいよォ~! 」
誰も返事はしません・・・ ここにはモデルさんをナンパしに来ている人は
いませんから・・・・。 みんな苦笑いしながらペンを動かしています。
私の様な独身男は、内心ではスケベ心いっぱいで・・・ 『 つき合ってくれ
ェ! 』などと叫びたい気持ちを抑えつつニコニコしながらクロッキーに精
を出している振りをしているわけです・・・・。
おしゃべりの上に変わったポーズをとるモデルさんに、私などは、『 今日
はなんだか得をしたなァ 』と、ウキウキしたものです。 他の参加者も皆
面白がっていたと思います・・・・ しかし・・・・ 例の画伯翁は・・・・・
木炭を持つ手を止め、モデルさんをにらみ付けていたのです・・・・・・・。
いつもこの画伯翁に付き従っている美しい中年女性だけは、この不気味
な緊張を察知していたかも知れませんが・・・・・ この時、まだ誰もこれか
ら起こる騒動を予想していませんでした・・・・・。
気持ちよくおしゃべりをし、この仕事を生まれて初めて楽しんでいるとい
った感じの彼女は・・・・・ ついにやってしまいます・・・・。 なごや
かな雰囲気の中で、彼女は調子に乗りすぎてしまったのです・・・・・・。
「 こんなポーズはどうかしらァ~? じゃ、こんなのはハァ~ン? 」
出ました! セクシーポーズ! 私などは思わず心の中で拍手喝采・・・
と、その時です・・・・・!
画伯翁 「 おいっ! ふざけるのもいい加減にしろォ! 」
一瞬にして、空気が変わります。 さっきまでの和やかな明るい雰囲気か
ら、凍りついた痛ましい沈黙へ・・・・・!
ここで、長くこの教室に通っている気さくな老人が、そのハゲ頭に薄っす
らと汗をにじませながら・・・・ 自分の後ろにいる画伯翁を振り返り・・
・・・
光頭翁 「 まあ、まあ、いいじゃないですか・・・・ 彼女だって一生
懸命やってくれていますヨ・・・ 」
画伯翁 「 こっちは金を払って勉強に来ているんだ! 」
光頭翁 「 ・・・・・・・・・・ 」
画伯翁 「 まじめにやれェッ! 」
光頭翁 「 ま・・・まじめですヨ! たまにはこ~ゆ~モデルさんも
いいじゃありませか・・・・・」
画伯翁 「 なにィ~・・・・ 画力の無い奴は黙ってろッ! 」
光頭翁 「 ・・・・・・・・・! 」 頭が赤く光っている!
私はこの時の言葉を忘れる事ができない・・・・ 『 画力の無い奴は黙って
ろッ! 』・・・こんな理屈が通るのだろうか・・・・!
光頭翁 「 こ・・・ ここは、あ・・・あんた一人の教室じゃないんだ! 」
画伯翁 「 お前の様な画力の無い奴に何が分る! もう、我慢できん!
こんな下手な奴らと一緒にはおれんッ!」
画伯翁はイスを蹴倒す様にして、クロッキー教室を出ていく・・・・ 連れの
女性は、まるでわがままな子供でも見守る様な目で付き従う・・・。
中年女性 「 みなさん、どうも申し訳ありません・・・・・・ 」
最後に彼女は教室の皆に頭を下げて出て行った・・・・・。 完全に白けきっ
たクロッキー教室は、その後誰も一言も発する事なく、しぼむ様に終わった。
この時のモデルさんと画伯翁は、二度とこの教室に来ませんでした・・・・・。
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