読書感想278 夢幻花
著者 東野圭吾
生年 1958年
出身地 大阪府
出版年 2013年
出版社 (株)PHP研究所
受賞 2013年 柴田錬三郎賞
☆☆☆感想☆☆
殺人事件の犯人を捜す一方、その鍵となる「黄色い花」の謎を追う物語構成になっている。謎を追うのは二人。東京の実家を離れて大阪の大学院の原子力工学科に席を置く蒲生蒼太とオリンピック代表選手と嘱望されながら、水泳をやめた大学生の秋山梨乃。事件は梨乃の祖父の秋山周治が殺されたことから始まる。第一発見者だった梨乃は祖父が大事にしていた謎の植物の鉢植えの盗難に気づき、その鉢植えの黄色い花をブログにあげた。それに反応したのが蒲生要介、蒼太の兄だった。父親の3回忌に実家に戻っていた蒼太は、兄要介を訪ねてきた梨乃と出会う。
伏線は何重にも張り巡らされている。第一の伏線は通り魔殺人事件が起き、両親が殺され赤ん坊の娘が残されたこと。第2の伏線は毎年台東区入谷の朝顔市に蒲生家では一家そろって行くのが恒例になっており、蒼太はそこで同じように毎年朝顔市に一家で来るという少女に会ったこと。第3の伏線は梨乃の1歳年上の従兄尚人が自宅マンションから飛び降り自殺したこと。アマチュアバンドからプロに転向したばかりだった。
「負の遺産」を相続するというのが隠されたテーマになっている。解決すべき課題に取り組むべきだという著者の主張は過去未来を貫いている。個人的な怨恨とか欲を超越した課題を提起している。人間に対する信頼感があるので、殺人事件が起きても読後感が良い。