『そぞろ歩き韓国』から『四季折々』に 

東京近郊を散歩した折々の写真とたまに俳句。

読書感想222  天北原野

2017-10-10 23:42:58 | 小説(日本)

広大なサロベツ原野の中で、いちばん自然観察に適しているのがサロベツ原生花園。雄大な自然の真ん中で心も体もリフレッシュ 

読書感想222  天北原野

著者      三浦綾子

生没年     1922年~1999年

出身地     北海道旭川市

出版年     1976年

出版社     朝日新聞社

 

☆☆感想☆☆☆

大正末期から昭和22年頃まで25年間にわたる男女の愛憎劇を北海道北部から樺太にかけての大自然を背景に描いた作品である。三浦綾子の描く主人公の多くがそうであるように、ここでも主人公は美貌で性格も極めて善良なのに、その美貌ゆえに、ろくでもない男に横恋慕され、最愛の人との恋路を邪魔されて苦しめられる。その苦悩に耐えながらもりんとした優しさを失わない。そんな主人公は貴乃、北海道の北西部、利尻島を右に見て、天売島と焼尻島を左に見る海沿いのハマベツの大工の棟梁の娘。その初恋の相手はハマベツ小学校の校長の息子、孝介。旭川中学校を出て教員が足りなくなったハマベツ小学校で代用教員をしている。二人が結婚の約束をする場面が美しい。海岸沿いの原野一面に橙色の百合に似たエゾカンゾウの花が広がっている。そして孝介がエゾカンゾウを貴乃にたとえる。素朴で真実があって気品がある。二人の恋路の邪魔をしたのは、地元の有力者、製材工場の跡取り息子、完治。貴乃と孝介が善良な存在なのに反して、完治は自分の利益や欲望を満たすためにはどんな不正な手段をとることもいとわない悪党。完治によって二人は引き裂かれ、貴乃は完治と結婚し、孝介一家はハマベツを追われ、樺太にわたる。その後、孝介は熱心な仕事ぶりと誠実な人柄を認められ、子供のいない網元から漁場を譲られ莫大な富を築き上げる。一方、完治一家も樺太にわたり、不正のかぎりを尽くして富を築き上げる。ここでも樺太の雄大な自然が魅力的だ。渓谷いっぱいを埋め尽くす材木。豊かな森林資源。すさまじい吹雪の中を犬ぞりで山を下る。ツンドラの大きいイチゴ、おいしいフレップの実。計画的に作られた美しい豊原の街並み、赤い実をつけたナナカマドの並木。戦前の日本統治下の豊かな樺太の情景が描かれている。そして破局へ向かう。ソ連軍の侵攻と敗戦。樺太からの引揚船が次々に3隻も撃沈される。財産も家族も失って北海道に戻ってきた貴乃。最後の場面で死期を悟った貴乃がサロベツ原野のエゾカンゾウを孝介に連れられて見る所で終わる。

記憶の中に埋もれていた戦前の樺太をよみがえらせた三浦綾子に感謝の気持ちでいっぱいだ。樺太からの引揚者の話を聞いても戦前の樺太の様子はわからなかった。小説家の仕事の素晴らしさを感じる作品だった。


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