2008年1月2日(水)新橋演舞場 3階B席
鳴神上人
粂寺弾正
早雲王子 市川海老蔵
安倍清行
不動明王
雲の絶間姫 中村芝雀
関白基経 市川門之助
文屋豊秀 市川段治郎
腰元絹巻 市川笑三郎
秦秀太郎 市川春猿
小野春風 沢村宗之助
山上官蔵 市川猿弥
八剣玄蕃 片岡市蔵
黒雲坊
秦民部 市川右之助
白雲坊
小野春道 大谷友右衛門
市川海老蔵五役相勤め申し候と銘打っての奮闘公演。
はい、奮闘されておりました!!お疲れ様~。
海老蔵くん、結構、澤瀉テイスト好き?と思えるような
もう、冒頭の口上から、猿之助さんが伊達十とか、その他
こみいったお芝居の前説(笑)する時と同様の五役解説。
切り切られ騙し騙されと役を替わっての奮闘なれば
いつもにも増してのご声援を~と、どこぞで聞いたような(笑)ご挨拶。
いえ、いいんです。良いものはどんどん取り入れて下さい。
ちょっと緊張気味だったかな?役解説で、ん?つっかかった?
と思うところもあったけれど、でも、そう大きな言い間違えでもなく
まずまずのすべりだし。口上終盤、下手袖から、猿弥さんの
早く芝居を始めろ~(←とは言ってないけど)の声が。
(なんでしたっけ?忘れちゃった。「まだか、まだか~」だった?)
発端、序幕で鳴神上人、早雲王子、安倍清行の概略を見せ
二幕が「毛抜」
個人的に澤瀉スタンダードなので、猿之助さんの時と
(あと段四郎さんで観てます。確か猿之助さんが小鍛治踊った時の
昼の序幕。)若干違うな~と思いつつ…
一番印象に残っているのは、粂寺弾正が秀太郎にも絹巻にも
袖にされたところで「これで二杯ふられた」と言うところを
海老蔵さんは「二杯やられた~」だったこと。
私は、この現代でも使う「ふられた」という文言が、
古典歌舞伎の中でも、ほぼ同様の意味で使用されていることが面白く、
このお芝居の中で、強く記憶しているところだけど、
たまたま今日そうだったのか、あるいは今回はそういう云い回しなのか。
あと、大詰、澤瀉屋では、弾正が玄蕃の首を斬り、
その首を祝儀!と言って差し出していたけれど、
今回は、実際の「首」はなし。斬りつけるまで。
(或いは、正月の目出度い初芝居なので「首」は避けた?)
これも、初見「婚礼祝いに首かよ~!!」とあまりのシュールさに、驚嘆。
もともと、この演目、現代の短編ミステリーにも似た謎解きで
“科学トリック”とも形容される(笑)磁石(羅針盤)の詭計。
磁石って一体いつ頃日本に入ってきたのかしら。
(※追記:平成九年十二月の筋書きによると磁石の存在は二千年以上前から
中国で知られていた。日本でも古くから知られていて
『続日本記』の和銅六年(713)の項目には、献上品としての記載があったそう)
この演目が初演された頃は、斬新な種明かしだったのかな。
※初演:寛保二年((1742年)
一見、わりとゆったりした芝居に見えるけれど
毛抜きの見込みをはじめ、それぞれ決まりの見得や
科白の緩急など、結構、大変そうです。
でも、海老蔵くん、なかなかユーモラスな雰囲気も出ていて健闘。
最後の引っ込みも、役者本人が言っているのか役のその人が言っているのか
という、二重写し的な面白さに客席から歓声と拍手
あ、そうそう、粂寺弾正の衣装が碁盤模様でなかったようなのですが。
昨年以来双眼鏡が行方不明で(私の部屋には五次元ポケットがあるらしい)
今日、3Bで、私の視力ではイマイチ詳細が確認できなかった。
なにか海老茶色で海老!?の意匠のようにも見えたのだが。
1等席情報待つ(笑)
あまり配役とかもチェックしないで出かけたので、
てっきり春猿さんが錦の前だろうと(勝手に・笑)思っていたら
なんと秀太郎でした。最初、ふっと、笑也さん!?と思ってしまった。
(当月、出演されてません)
笑三郎さんの絹巻は、すごく馴染みがあるような気がしてたけど
御園座で観たのみで、段四郎さんの時は門之助さんでした。
三幕が「鳴神」
これも、いろいろ演り方はあるのかもしれないけれど、
自分の中のスタンダードとは違う手順。かなり省略?されてる。
終演後のお茶の時間にアレコレ言っていたところでは
破壊し祝言の盃のあと、壇上に戻って御簾が降り・・・というのがなかったよね
とか、寝入った鳴神上人を残した絶間姫がもの凄く反省(笑)する場面もない
とか、注連縄切るまで、何度も岩場を滑ったり、よろめいたり殆どなく。
実は鳴神の間一部落ちてzzz(正直な告白)しまっていた時間が
ございまして、自分が見逃しただけかもしれませんが、
川を渡る造形の「ぞんぶり、ぞんぶり」のあたりや、疑われて滝壺に
飛び込もうとするのを阻止する件など、どうだったのでしょう?
気絶した上人に水を飲ませる処も、
絶間姫が何度も袖で水を汲むのに失敗して、
最後に口移しという手段に出る、ではなく、すぐ水飲ませてたよね~等など
結構、皆のチェックも細かいのであった。
海老蔵くんは、騙されたと知った後の悔しがり方?はワリとあっさり。
っていうか、破壊前も後もそんなに変化なし(笑)
まだ、後の芝居もあるからかな。
あまり、いっぱいいっぱいな心理造形ではなかった。
芝雀さんの雲の絶間姫にもちょっとビックリ!!
酒は飲めないと祝言の盃を最初は断る上人に
一瞬地声で凄む絶間、というのを初めて目撃。
い、いいんでしょうか。
そして大詰。
猿之助さんが千本桜の花矢倉につけていたような
立ち廻り(元を正せば↑↑蘭平の換骨奪胎+山門)がついていて
更にそこから、不動明王、空中浮遊の場と続くのだが
この繋ぎがメチャクチャ悪かった。烈しくモタレました。
ところどころ澤瀉テイストが散りばめられているので
もしかして脚本は石川さん?と思ったけれど、違った。
(でも、ある意味石川脚本っぽくはなかったので筋書見本でチェック)
が、演出が奈河さん。う~ん、良いのですか?これで???
梯子も海老蔵くんが、もう二段くらい上まで登ったほうが映えるし
ぶっかえりの引き抜き&お直しもスムースに出来たはず。
そして、早雲王子から不動明王に替わるまでの長いこと長いこと~!!
いきなり暗転し照明(ライトカーテン)が入ったあたりから
(それまではフツーの歌舞伎の白の動かない灯り)
不安な予感はしていたのだけれど、この暗転の中
延々と流れる長唄(まさしく長い~。基本、連獅子系の書き換え?
√出現なしたる~を聴いたときは、このまま獅子が出てきてもいいかな?と・笑)
スーパーでよく使う火幕のドレープを前に、
イリュージョンの手法らしい不動明王の空中浮遊。
でも、これ見せる意味が良く理解出来なかった。
っていうか、ここで幕?
普通に、一座揃って、本日はこれぎり~とか絵面にキマって幕とか
そういうので良かったんじゃないの~?
ただ、挑戦とか新機軸という意味では、
海老蔵くん、色々トライしてみたいのだろうな、という気持ちは
伝わって来た。というか、全然、事前に予習してなくて、
今、松竹のサイトで、今回の上演に関する彼の記者会見の記事を読んで
ちょっとホロっとした。
五役を演じること、心境についてとの質問を受け、大変だけども、
先輩方の中には、さらに十役をなさっている方もいらっしゃいます、
というような回答をしているのを読み、
また、今日の口上のつけ方なども反芻されて
猿之助さんのいき方の賛同してくれているのかな、と。そういえば、
安倍清行の時の発声が何か猿之助さんに似て聴こえたのですよ。
いつか、海老蔵くんの「伊達の十役」があるかもしれませんね。
と話が別の方向に膨らんでしまいましたが、
この大詰は検討の余地アリ!五役の醍醐味は、もちろん
それぞれの役を丁寧に見せていく部分も大切だけれど
ぱっとテンポよく、意外性を持たせて替わることも大事だと思うので
あれだけ待たせて、あまりインパクトなく幕!で、ホント尻つぼみだった。
(それにあれだけ作り込んでしまって声も録音なら
海老蔵くんである必然がないような・・・)
でも、その心意気や良し!ってことでは拍手
澤瀉一門も適材適所、各場面で活躍してます。
段ちゃんは客席練り歩きアリ。
新橋演舞場座席表
スミマセン~さっきまで歌舞伎座の座席表を貼り付けてました。。。
(1月5日20時40分訂正)
報告によると、段治郎さんと欣弥さんは
>舞台から下りて、中央通路(多分…上手通路ではなかったと思う←思い違いある
>かも)で、お客さんに話し掛けたりしながら最後列まで行き、
>最後列の後ろを通って下手通路を舞台まで戻り、清行を見つけて、
>後に付いて最前列前を通り、舞台に上がってました。
海老蔵くんは花道付け際から降りて、
下手からセンターブロックの最前列の前を通過します。
あ、大事なこと(なの?)を忘れていた。
鳴神の龍神が凄いことになっていた~!!(見てのお楽しみ!)
なかなか面白かったですね。
観劇後にあれだけ盛り上がれるって意味でも。^^;
一等席ではないですが (^^)ゞ
粂寺弾正の衣装は海老に見えました。
あまりはっきりは分からなかったけど
海老と升を組み合わせてた意匠のようでした。
> 川を渡る造形の「ぞんぶり、ぞんぶり」のあたりや、疑われて滝壺に
>飛び込もうとするのを阻止する件など、どうだったのでしょう?
これはありましたよ~。
でもここいらも割とあっさりしてた気がするので、短縮バージョンだったのかも。
段治郎さん、最初に通って後ろまで行ったのは確か中央通路?
そこでお客さんをいじってたので、そこいらの席もオイシいかと~。(^0^)
03:01:47、て…(笑)
補完頂きありがとうございます。
やっぱり海老蔵さんには海老!なのですね。
通し狂言を、スタンダードに“古典的”に
上演するのかと思っていたので、
「不動明王」でびっくりしましたが、
冒険心に富んだ面白い舞台ではありましたね。
私も初日見てきました。
弟子筋の澤潟屋に習っての「義経千本桜」の海老蔵があんまりシャープだったから、急にファンになったので…どうも父親や周りには相当反対されたようです。
海老蔵が古典を如何に噛んで含めて多くの歌舞伎ファンを作ろうとしているかが良く分かりました。
5役キチンと演じ分けての凄まじい4時間、堪能しました。
シアターガイドを読むと勘三郎・玉三郎・猿之助を天才としながらも、彼は彼の道を作ろうとしていますね。いい演出家・作家に巡りあってこの才能と美しさをそれこそ不動のものにして欲しいです。
未来の歌舞伎の為に…
はじめまして。コメントありがとうございます。
不動明王の演出がどうもな~と思う自分に
猿之助さんが斬新な演出を用いたときに
アレコレ言っていた側と自分が同じになってるかな~?
との自主ツッコミもあるのですが、
(しかし、演出云々以前に、転換の間が長すぎ~!)
明確な意思と自覚を持っている海老蔵さんのいき方は
頼もしいですね。
シアガイ読んでみます。
海老の歌舞伎いかがなものか?
新年早々不安いっぱいの舞台でしたが、
そうかあ・・・と
思わず苦笑い。
来週新橋演舞場行きます
そうそう歌舞伎十八番という成田屋さんの家の芸では、成田屋のみという衣装等いくつかあるようです。
は、歌舞伎も三座いや四座くらい観ちゃうのかな?
私はあと、浅草が観たいのだけど
上演時間的に、行ける日があるかどうか…
毛抜の衣装、
そう、成田屋さん独自のものかもしれませんね。
二葉さんのコメントからも。
harumichinさんの感想楽しみにしてます!
いつも楽しく読ませていただいてます。
さて、話題の衣装の件ですが、
裃は「壽の字海老」、
小袖は「亀甲の中に牡丹」です。
このデザインは、十一代目が生涯にただ一度勤めた際、
錦絵などを参考に工夫したもので、
成田屋三代このデザインの衣装です。
因みに、碁盤の衣装は二代目左團次が、
長く絶えていた毛抜を復活上演した時着用したデザインです。
他にも成田屋独自の文様としては、
海老、牡丹、蝙蝠、瓢などを
いろいろ変化させたデザインがあります。
(壽の字蝙蝠、蟹牡丹etc.)
衣装の解説ありがとうございます。
古く長い歌舞伎の歴史を鑑みると
十一代目がずいぶん近い人のように思えます。
ここ三代と聞くと、まだ新しい感じがしますね。
いつか海老蔵さんの息子さんがこの演目をする時には
このデザインでされるのでしょうね~。
最近なかなか歌舞伎の舞台の方は
リピート出来ない状況なので、
皆さんからの報告楽しみにしています。
中盤、後半でまた、
舞台が変わってくるのかな?などなど。
「いらっしゃいませ」でございます!
初春「鳴神不動」の項目でネットサーフィンしていて、目に留まったので、メールしました。
粂寺弾正の衣装はebi様のおっしゃる通りですが、いささか追記させていただきます。
寿の字海老の裃、亀甲牡丹の小袖は11代目団十郎丈が初役で演じられる時、古い錦絵で七代目団十郎がこの衣装を用いているのを見て、採用されたと聞いています。二代目団次さんが明治の終わり頃に「毛抜」を復活された時、碁盤模様の裃にしたのですが(これもebi様ご指摘のように古い錦絵を参考にした、とは伝わっていますが、誰が描かれていたのかは僕は知りません。が、五代目団十郎ではないかと推察します)、十一代目は自分が初役で「毛抜」を演じるに当り、型や衣装を高島屋の型とは変えて演じたのです。もともと「毛抜」は成田屋の御家芸だから、高島屋の型で演じるのは不本意だと考えたのかもしれません。
型が違うのは、5つの見得を高島屋型では5つ連続で見せるのに対し、十一代目の型では前後に分けて見せます。
長々と失礼しました。