今回は循環器徴候、症例とピットフォールについて考えていきましょう。
例17 75歳男性 主訴:けいれん 来院前日からの突然発症の腹痛と気分不良にて、かかりつけのクリニックを受診。 受診直後に突然、全身性けいれんをおこした。 かかりつけ医では「頭部CT検査と腰椎穿刺が必要」と考え、救急車にて患者を病院へ搬送。 病院へ来院時、上肢の脈拍は触知可能であるも、微弱にて血圧測定できず。
身体所見 腹部の触診にて拍動性腫瘤が触れ、両下肢の脈拍は触知不可。
ピットフォール かかりつけ医では「頭部CT検査と腰椎穿刺が必要」と考えたが、病院へ来院時、上肢の脈拍は触知可能であるも、微弱にて血圧測定できず。 いわゆる「ショックバイタル」であった。
その後の経過と解説 この症例における初期対応での問題は、バイタルサインを測定していなかったことである。 急性病態ではまず、バイタルサインの測定が必須である。 「ショック」が原因で脳血流の低下により「二次的に」意識障害・けいれんを生じている患者に対し、頭部CTの撮影などを優先させてはならない。 「血圧低下+脳血流低下徴候」の患者においては、「ショック」に対する診断的評価を優先的に行うべきである。
頭部CT撮影などを優先させてもたついていると、最悪の場合には、CT室で心肺停止をきたすおそれもある。 比喩として、「CT=Tunnel of Death」ともいわれている。 狭いCT室の空間では緊急対応が十分できないため、患者の生命予後は不良となる恐れがある。
この症例のような心臓血管系の急性病態では、急性大動脈解離と大動脈瘤破裂を見逃さないことが重要。 そのためには血圧と脈拍の対称性symmetry を確認する。 すなわち、「対称性の破れ」がないかどうか、四肢の脈拍を触知する。
心臓血管系の急性病態で両下肢の脈拍が減弱したり、上肢の片方の脈拍が減弱したりしている場合には、急性大動脈解離と大動脈瘤破裂を疑う。 「対称性の破れ」とは、量子力学の用語であり、素粒子レベルでは「対称性の破れ」があるため、宇宙が創生されたとのことであるから、重要な概念である。
この症例ではまず、ショックバイタルに対する初期対応として18ゲージで2本の末梢静脈ラインを確保急速輸血が開始された。 ベッドサイドエコーにてすみやかに「腹部大動脈瘤破裂」が診断され、手術室へ直行となった。 もちろん、頭部CT検査と腰椎穿刺は行われなかった。
最終診断:腹部大動脈瘤破裂
今回は以上です、では、次回に。