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根源的な問題を考えた『小説8050』

2022年03月11日 | 読書

時折り、新聞やテレビに出て来る「8050問題」。一般的には80代の親が家に引きこもっている50代の子どもの面倒をみるという社会問題を指している。100万人とも言われる引きこもりの当事者と家族をテーマとしたこの物語。ページをめくるごとに出て来る壮絶であり、深刻な場面にひと息つく間もない。幸せそうな歯科医の家に実は中学生のときに不登校になって以来、引きこもって7年も経つ子どもがいる。手を尽くしてきたが一向に改善せず、将来を想像すると悲観するばかり。ついに結婚する姉の相手の家族の前でパトカーを呼ぶ騒ぎになる。が、しかし引きこもりの原因が中学時代のいじめと初めて知る親。以降の後半部は学校と元同級生の謝罪を求める裁判へと展開するが、簡単には進まない。学校、いじめを行なった張本人の不誠実な対応の中で証拠集めに難航、予想もしない波乱も起きる。証人尋問における原告・被告側の攻防は知人の医療過誤裁判の場面をも思い出す。裁判が終結し、全てハッピーエンドとはならないものの再生へと歩み出す結末。当事者含め家族に同情するとともに深く考えさせられた。引きこもるには、さまざまな理由やきっかけがあるのだということ。この例に限らず、本人や親子関係だけでなく社会に根源的な問題が潜んでいるのではないか。「8050問題」を他人事とせずに関心を持ち続けていきたい。